◇SH0124◇インド:新会社法アップデート 田島圭貴(2014/11/05)

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インド:新会社法アップデート

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 田 島 圭 貴

 インドでは、2013年8月に成立した新会社法が、同年9月から段階的に施行されているが、それに伴い、制定段階では分からなかった新会社法の様々な不備が、具体的事例への適用を通じて徐々に判明してきている。かかる不備に対しては、その都度、通達等で必要な変更や解釈の明確化を施すことにより対応しているが、日系企業にとって重要な内容の変更が通達レベルで行われてしまうこともあるため、これらを見逃さないよう注意が必要である。最近では、関連当事者間取引に関する規制の変更及び明確化が行われたが、本稿ではその概略について解説したい。

1.     関連当事者間取引に関する規制の概要

 新会社法では、会社がその「関連当事者」との間で、売買、賃貸、サービスの提供、代理人の選任、役職への選任、有価証券の引受け等の所定の取引を行うためには、当該会社の取締役会の承認を受けなければならないとされている(なお、当該関連当事者間取引に関して利害関係を有する取締役はかかる関連当事者間取引に関する決議に参加することができない。)。

 かかる規制の趣旨は、会社との間に一定の関係を有する「関連当事者」との取引においては会社の利益が害される可能性があることに鑑み、取締役会の承認等の手続を要求することで、取引内容の公正さを担保し、会社の利益を確保することにあるとされる。

 もっとも、会社の利益を害するおそれの少ない取引についてまで毎回取締役会の承認を要求するのは煩雑なため、通常の業務過程において、独立当事者間取引と同等の条件で行われる取引(例えば、物品の販売を行う子会社から、通常の販売価格で物品を購入するような場合)については、関連当事者間取引に関する規制は適用されない。

 なお、「関連当事者」とは、会社にとって下記に該当する者を意味するとされる。

  1. ① 取締役又はその親族
  2. ② 主要管理職又はその親族
  3. ③ 取締役、マネージャー又はその親族がパートナーである団体
  4. ④ 取締役若しくはマネージャー又はその親族が株主又は取締役である非公開会社
  5. ⑤ 取締役又はマネージャーが取締役であり、かつその親族の持分と合わせて払込資本の2%超を保有する公開会社
  6. ⑥ ある法人の取締役会、マネージング・ディレクター又はマネージャーが当該会社の取締役又はマネージャーの助言、指示又は指図に従い行動することとなっている場合における当該法人
  7. ⑦ ある人物の助言、指示又は指図に従い当該会社の取締役又はマネージャーが行動することとなっている場合における当該人物
  8. ⑧ 親会社、子会社若しくは関連会社、又は親会社の別の子会社
  9. ⑨ その他、施行規則等で別途規定する者

2.     株主総会の承認が要求される基準の変更

 新会社法上、①施行規則等で別途規定する額の払込資本を有する会社による関連当事者間取引や、②施行規則等で別途規定する額の関連当事者間取引に関しては、上記の取締役会の承認に加え、株主総会の特別決議による承認を受けなければならないとされている。

 これを受け、施行規則では、①払込資本が1億ルピー(日本円で約1億8,500万円)以上の会社による関連当事者間取引については、当該取引の規模にかかわらず、一律に株主総会の承認を要求すると共に、②取引の種類毎に規定した額を超える関連当事者間取引に関しても株主総会の承認を要求していたが、2014年8月14日付通知により、①の会社の払込資本額による基準は撤廃され、②の関連当事者間取引の金額による基準に一本化された。

3.     「関連当事者に該当する株主」とは?

 会社法上、関連当事者間取引について株主総会の特別決議による承認が要求される場合、「関連当事者に該当する株主」はかかる決議に参加することができないとされているが、従前から、この「関連当事者に該当する株主」とは、(i)当該会社の関連当事者に該当する株主を意味するのか(その帰結として、上記①ないし⑨に該当する者は常に決議に参加できなくなる)、又は(ii)問題となっている取引の関連当事者に該当する株主を意味するのか(その帰結として、当該取引の相手方当事者である株主は特別決議に参加できなくなる)が、文言上は不明確であるとされていた。

 2014年7月17日付通達は、この点について、「関連当事者に該当する株主」とは、上記(ii)の、問題となっている取引の関連当事者を意味するということを明確化した。

 今回、関連当事者間取引に関してなされた規制の変更及び明確化の概略は以上の通りであるが、今後も、何らかの不備が見つかるたびに、その都度、通達等により、場当たり的な対応がなされることが予想される。最初の施行から既に1年以上が経過したが、新会社法を巡る動きについては引き続き注意が必要である。

 

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