◇SH0575◇最三小判 平成27年10月27日 配当異議事件(大谷剛彦裁判長)

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 本件は、担保不動産競売の手続における配当表(本件配当表)について、債務者兼所有者であるXが、根抵当権者であるYの債権額を争って提起した配当異議の訴えである。Yの根抵当権の被担保債権は、YのXに対する5口の貸金債権(本件各貸金債権)であるところ、本件の競売手続に先立ち、別の不動産について、本件各貸金債権を被担保債権とするYの根抵当権に基づく担保不動産競売の手続(前件競売手続)が終了している。前件競売手続において、平成22年2月4日の配当期日(前件配当期日)に作成された配当表(前件配当表)記載のYの配当額につきX等が配当異議の訴えを提起したために、Yの配当額は供託された。その後、上記配当異議の訴訟について平成23年1月12日にY勝訴の判決が確定し、上記の供託の事由が消滅したことから、その供託金(本件供託金)につき配当の実施としての支払委託がされ、Yは、同年2月3日、供託所から、本件供託金及び供託利息の払渡しを受けた。
 Xは、前件競売手続におけるYの配当金は、前件配当期日における前件配当表記載の利息、損害金及び元金に法定充当がされると主張したのに対し、Yは、前件競売手続におけるYの配当金は、本件供託金の払渡しがされた時点における本件各貸金債権に法定充当がされると主張して争った。
 原々審は、本件各貸金債権の残額はX主張のとおりであると認め、本件配当表を一部取り消した。これに対し、原審は、本件供託金及び供託利息は、その払渡しがされた時点における本件各貸金債権に法定充当がされるとし、本件各貸金債権の残額は本件配当表記載のYの債権額を下回らないとして、Xの請求を棄却した。
 本判決は、判決要旨のとおり判示し、Xの請求を棄却した原審の判断は、結論において是認することができるとして、Xの上告を棄却した。

 

 本件では、担保不動産競売の手続における根抵当権者への配当金が、被担保債権について生ずる遅延損害金のうちどの範囲のものに充当されるかが問題となったものである。
 担保権の実行としての競売における配当は、その限度で被担保債権が消滅することには異論がないと考えられるが、民法上の弁済との関係は必ずしも明らかではないとされている(中野貞一郎「判批」民商99巻3号(1988)405頁等。なお、強制執行における配当についても同様である。)。ただ、配当は、少なくとも弁済に準ずるものとして、必要に応じて弁済に関する規定が適用されるという理解が一般的であり(奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社、1992)488頁、中野・前掲406頁等)、判例も、不動産競売手続における担保権者への配当金について、民法の弁済に関する法定充当の規定(民法489条~491条)に従って充当されるべきものとしている(最二小判昭和62・12・18民集41巻8号1592頁、最二小判平成9・1・20民集51巻1号1頁)。
 本件のような問題についての議論も少ないところ、Xの論旨は、配当表の記載によって配当金の充当対象となる被担保債権が確定され、配当表記載の「元金」、「利息」及び「損害金」に配当金が法定充当されるというものである。しかし、執行裁判所の配当手続においては、債権の存否及びその額についても複数の債権間の充当関係についても、公権的に確定されるものではなく(野山宏「判解」判解民平成9年(上)12頁、小池晴彦「配当手続における同一担保権者の複数の債権と弁済充当」中野哲弘編『現代裁判法大系 第4巻 担保・保証』(新日本法規出版、1998)137頁等)、したがって、配当表に記載された債権の額(「元金」、「利息」及び「損害金」の各金額)は、配当額算定の基礎とはなるが、それ自体をもって配当金の充当対象が確定されるものではないと解される。競売手続における配当金について民法の法定充当の規定に従った充当がされる旨の上記昭和62年最判及び上記平成9年最判の立場は、上記のような理解と平仄が合うといえる。本判決は、根抵当権者に対する配当の実体法上の位置付けから、配当金の充当対象を述べているが、上記のような理解を当然に含意しているものと考えられる。
 原判決は、本件の問題を、配当による被担保債権の消滅時期の問題と捉えたものといえる。配当による被担保債権の消滅時期については、これまで必ずしも明確に議論されてきたようではなく、上記昭和62年最判の判例解説(河野信夫「判解」判解民昭和62年734頁)において、「配当手続における法定充当の効力発生時期については、配当表作成時、配当表確定時、配当金の交付時(弁済供託時も含む。)等が考えられるが、弁済は債務の内容たる給付の実現であることを考えると、その実現に至る行為が完了したと目される配当金の交付時(弁済供託時も含む。)と解するのが妥当であろう。」と触れられていたところであり、原判決はこの見解を基礎としている。本件で行われた供託は、民事執行法188条により準用される同法91条1項7号に基づく、いわゆる配当留保供託であり、配当異議訴訟が完結したことにより供託事由は消滅し、執行裁判所は配当を実施すべきこととなるが(92条1項)、Yが勝訴しているから、配当表を変更する必要はなく(同条2項)、追加配当表作成のための配当期日が開かれることはない。この場合の配当の実施は、供託金の支払委託によって行われる。支払委託の具体的な手続としては、裁判所書記官が、供託所に所定の書式の支払委託書を送付し、債権者に所定の書式の証明書を交付する(民事執行規則173条1項、61条、供託規則30条1項)。支払委託の手続が執られると、債権者は、供託所に対し、上記証明書を添付して供託金の払渡しを請求し、供託金を受領することとなる(供託規則22条、30条2項)。原判決は、債権者が供託所から供託金を受領した時点で被担保債権が消滅するとしたものといえるが、配当手続の終了によって被担保債権が消滅すると見る限り、原判決の立場では、配当手続の終了による被担保債権の消滅の時期が債権者の意思に左右されることになり、また、供託金の払渡しまでの間に被担保債権について変動が生じたり、供託金還付請求権が時効消滅するような場合を想定すると、問題のある法律関係を生じさせることになると思われる。本判決は、本件のような場合には、執行裁判所による配当手続は支払委託によって終了することから、支払委託の時点における被担保債権に供託金が法定充当され、その限度で被担保債権が消滅すると見たものと考えられる。
 なお、本件のような問題を、競売手続の過程のある時点以降は配当金相当額につき遅延損害金が発生しないとすることにより解決する構成も考えられ、民事執行法施行前における不動産強制競売の事案であるが、㋐配当留保供託がされた仮差押債権者は、確定判決を得た後現実に配当金を受領する手続をとるために必要とする相当期間の経過後においては、供託された元本相当額に対する利息、遅延損害金の請求権を有しない旨を判示した大阪高判昭和54・1・30金判579号(1979)27頁及び㋑不動産強制競売手続の配当期日において配当表が呈示され、これに対する債務者の異議申立てがやむを得ないものであった場合には、弁済の提供に準じて、上記配当期日の翌日からの遅延損害金は発生しない旨を判示した大阪高判昭和55年5月28日判タ426号(1981)120頁があり、原審におけるYの主張においてこれらの判例が触れられていた。本判決は、このような構成がXの論旨とされていないことから、このような構成につき判示していないものと思われるが、本件は、上記の判例の事案のように供託事由の消滅から供託金受領までの期間が長期化したことが問題となる事案ではない。また、上記の判例に関しては、配当期日に呈示された配当表記載の配当額を上回る額について遅滞の責任を免れるとするなど、理論的根拠が必ずしも明確ではなく、当該事案に即しての判断であって、その判示を一般化して捉えるのは相当ではないであろう。本判決は、本件のような事案においては上記のような構成は当てはまらないとするものと思われる。なお、学説には、執行手続上、債権者において自ら配当金を受領しようとすれば現実に受領することができるようになったときには、民法493条、492条の類推適用により、債務者は遅滞の責を免れると解し、債権者が配当期日に出頭すれば配当金を受領することができたような場合などについては、配当期日後は当該配当金相当額について遅延損害金は発生しない旨をいうもの(小川英明「判批」判タ411号(1980)288頁)がある。

 

 本判決は、これまで必ずしも明確に議論されてこなかった、競売手続における配当金の被担保債権への充当問題のうちの1つについて、最高裁が判断を示したものであり、理論上も実務上も重要と思われるので、紹介する次第である。

 

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