◇SH3866◇最三小判 令和3年6月22日 過誤納付金還付等請求事件(宮崎裕子裁判長)

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 複数年度分の普通徴収に係る個人の住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において当該差押えに係る地方税に配当された金銭であってその後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていたものの帰すう

 複数年度分の普通徴収に係る個人の住民税(市町村民税及び道府県民税)を差押えに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていたものは、その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の住民税が存在する場合には、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)489条の規定に従って当該住民税に充当される。

 地方税法17条、331条6項、国税徴収法(平成26年法律第10号による改正前のもの)129条1項1号、国税徴収法(平成30年法律第7号による改正前のもの)129条1項1号、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)489条、民法488条4項

 令和2年(行ヒ)第337号 最高裁令和3年6月22日第三小法廷判決
 過誤納付金還付等請求事件 破棄差戻(民集75巻7号登載予定)

 原 審:令和元年(行コ)第25号 札幌高裁令和2年9月10日判決
 原々審:平成30年(行ウ)第42号 札幌地裁令和元年10月24日判決

1 事案の概要

 稚内市長(以下「市長」という。)は、Xの市民税及び道民税(普通徴収に係るもの。以下「市道民税」という。)のうち平成21年度分から同23年度分までのもの(以下「本件市道民税」という。)並びにその延滞金等につき、滞納処分により徴収したが、その後、本件市道民税の税額を減少させる各賦課決定(以下「本件各減額賦課決定」という。)をするとともに、Xに対し、これによる過納金の還付及び還付加算金の支払をした。本件は、Xが、市長による上記過納金の額の計算に誤りがあるとして、稚内市に対し、不足分の過納金の還付及び還付加算金の支払を求めるとともに、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案である。

 

2 事実関係等の概要

 ⑴ 個人の道府県民税の賦課徴収は、原則として、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収の例により、これと併せて行うものとされているところ(地方税法41条1項前段、319条2項)、市町村民税に係る地方団体の徴収金の滞納処分は、国税徴収法に規定する滞納処分の例によるものとされている(地方税法331条6項)。そして、国税徴収法は、滞納処分における換価代金等は、「差押えに係る国税」(129条1項1号)等に配当する旨規定する。

 ⑵ Xの平成20年分から同22年分までの所得税について、Xが確定申告をしたところ、所轄税務署長は、平成23年3月14日付け及び同月30日付けで、それぞれ総所得金額及び納付すべき税額を増加させる各更正処分(以下「本件各増額更正処分」という。)をした。

 これを受けて、市長は、本件市道民税につき、平成23年4月25日付けで、平成21年度分の税額を0円から1931万6300円に、同22年度分の税額を0円から2561万6300円にそれぞれ増加させる各賦課決定をし、同年6月10日付けで、同23年度分の税額を1192万8700円とする賦課決定をした。

 ⑶ 市長は、本件市道民税につき、平成23年7月7日から同29年12月26日までの間に、Xから納付を受け又は滞納処分による徴収を行い、これらの納付又は徴収に係る金銭は、本件市道民税及びその延滞金等に順次充当された。このうち市長がした各滞納処分(以下「本件各滞納処分」という。)は、いずれも複数年度分の市道民税を差押えに係る地方税とする債権差押えであり、本件各滞納処分における換価代金等は、差押えに係る地方税等に配当された(以下、滞納処分において配当された金銭を「配当金」ということがある。)。

 ⑷ Xは、本件各増額更正処分の取消訴訟を提起していたところ、平成29年12月15日、税額等の計算の誤りを理由に、本件各増額更正処分のうち確定申告額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した。これを受けて、市長は、同月27日付けで、本件市道民税につき、平成21年度分の税額を1054万5700円に、同22年度分の税額を2079万2200円に、同23年度分の税額を556万5000円に、それぞれ減少させる本件各減額賦課決定をした。

 ⑸ 市長は、本件各減額賦課決定により過納金(本税、延滞金等の過納付分)が生じたとして、平成29年12月27日付けで、Xに対し、過納金1995万8400円及び還付加算金77万2600円を支払った。

 市長は、上記過納金の額の計算に当たり、本件各滞納処分において差押えに係る地方税に配当された金銭であって、本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものにつき、それぞれ直ちにその金額に相当する過納金が生じたものとして扱い、これを他の年度分の市道民税に充当されたものとして扱うことなく算定した各年度分の滞納税額を基礎として、延滞金の額を算出した。

 ⑹ 本件訴訟において、Xは、本件各滞納処分において差押えに係る地方税に配当された金銭であって、本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものについては、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の市道民税に充当されるべきであり、その充当後の滞納税額を基礎として延滞金の額を算出すべきであるとして、これと異なる上記 ⑸ の市長の計算においては、延滞金の額が過大に算出された結果、Xに還付すべき過納金の額が過少に算出されている旨主張した。

 

3 訴訟の経過

 ⑴ 原審は、要旨次のとおり判断し、市長の計算に誤りはないとして、Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。

 地方税の賦課決定に基づき滞納処分による徴収がされ、徴収された金銭が当該地方税に充当された後、当該地方税について減額賦課決定がされた場合、当該減額賦課決定に係る税額を超えて徴収された金銭については、徴収の時点から法律上の原因を欠いていたものであるから、そのまま過納金として還付されるべきであり、その徴収当時他に滞納税が存在したときであっても、当該他の滞納税に充当されたものとして延滞金等を計算する法的根拠は存在しない。

 ⑵ 最高裁第三小法廷は、本件を上告審として受理した上、判決要旨のとおりの判断を示し、これによれば市長の計算には誤りがあるとし、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決を破棄し、Xに還付すべき過納金の額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。

 

4 説明

 ⑴ 問題の所在及び争点

 ア 本件市道民税については、賦課決定により一旦確定した税額が、本件各減額賦課決定により減額されており、この減額賦課決定は、従前の賦課決定の一部取消し(講学上の職権取消し)に相当する(国税の減額再更正処分につき最二小判昭和56・4・24民集35巻3号672頁参照)。そして、処分に当初から瑕疵があったことを前提とする職権取消しの効果は遡及的に生ずるものと解するのが一般であり(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣、2015)191頁)、本件各減額賦課決定も、当初から賦課決定に瑕疵(税額等の計算の誤り)があったことを理由とするものであるから、その効果は遡及的に生ずるものである。そうすると、本件市道民税のうち、本件各減額賦課決定により減少した税額に係る部分は、当初から存在しなかったこととなる。

 イ これを前提とする本件の争点は、本件各滞納処分(複数年度分の市道民税を差押えに係る地方税とするもの)において、差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものの帰すうである。

 市長は、当該金銭は直ちに過納金となり、そのままXに還付すべきものとしたが、Xは、当該金銭は、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の市道民税に充当されるべきである旨主張した。Xの主張によれば、市長の計算よりも、各配当時点での滞納税額が減少し、これを基礎(元本)として算出される延滞金の額が減少するため、延滞金に係る過納付分が増加し、結論においてXに還付されるべき過納金の額が増加することになる。

 なお、1審は、地方税法17条の2第1項に基づく過誤納金の充当の可否を問題としたが、上記のとおり、本件において争われているのは、一旦発生した過納金の充当関係ではなく、過納金の発生の前提となる配当金の充当関係である。

 ⑵ 配当金の充当に関する規律について

 ア まず、滞納処分と同じく強制的な債権回収手段である民事執行についてみると、最二小判昭和62・12・18民集41巻8号1592頁(以下「昭和62年最判」という。)は、担保不動産競売の手続における同一の担保権者に対する配当金がその担保権者の有する数個の被担保債権の全てを消滅させるに足りないときは、その配当金は当該数個の債権について民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)489条ないし491条の規定に従った弁済充当(法定充当)がされるべきものであって、債権者による指定充当は許されないものとした。昭和62年最判は、その理由として、担保不動産競売の手続は執行機関がその職責において遂行するものであって、配当による弁済に債務者又は債権者の意思表示を予定しないものであり、同一債権者が数個の債権について配当を受ける場合には、画一的に最も公平、妥当な充当方法である法定充当によることが、競売制度の趣旨に合致することを挙げている。そして、昭和62年最判の理論は、強制執行における配当にも及ぶものと解されている(河野信夫「判解」最判解民事篇昭和62年度734頁)。

 イ これに対し、滞納処分における配当金については、いわゆる本税優先の原則(国税徴収法129条6項、地方税法14条の5第1項)が規定されているものの、差押えに係る本税が複数存在する場合における配当金の充当関係については、特に法令上の規定が置かれておらず、最高裁判例も存在しない。そして、一般に、滞納処分は租税債権者が自ら租税債権の強制的実現を図る手続であること等から、租税債権者(税務署長等)がその裁量により上記の充当の順序を定めることができると説明されてきた(吉国二郎ほか編『国税徴収法精解〔20版〕』(大蔵財務協会、2021)889頁、浅田久治郎ほか『租税徴収実務講座〔改正民法対応版〕第2巻』(ぎょうせい、2020)295頁等。裁判例として、高松高判平成19・11・20日判タ1273号170頁等)。ただし、国税徴収法基本通達第129条関係19は、徴収の基因となった国税が複数ある場合、本税と本税の相互間は、民法488条4項2号及び3号(改正前民法489条2号及び3号)の規定に準じて処理するものとし、参照判例として昭和62年最判を掲げている。

 ⑶ 本判決の判断

 ア まず、本判決は、普通徴収に係る個人の市町村民税及び道府県民税(以下「個人住民税」という。)について、当初から賦課決定に瑕疵があったことを理由とする減額賦課決定は遡及効を有することを確認し、そのため、当初の賦課決定に基づく個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分における配当金であって、上記減額賦課決定がされた結果存在しなかったこととなる個人住民税に充当されていたものについては、当該充当は対象債権を欠いていたものとしてその効力を有しないこととなるとした。

 イ そして、本判決は、複数の地方税を差押えに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭は、当該複数の地方税のいずれかに滞納分が存在する限り、法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく、当該滞納分に充当されるべきものであるとした上、滞納処分制度が地方税等の滞納状態の解消を目的とするものであることに照らせば、このことは、上記アのように当初の充当が効力を有しないこととなった配当金についても同様に妥当し、当該配当金は、その配当時において差押えに係る地方税のうちに他に滞納分が存在する場合には、これに充当されるべきものであるとした。

 この部分の判示は、当該配当金につき、法律上の原因を欠いて徴収されたものであるためそのまま過納金として還付されるべきであるとした原審の判断を否定し、他の滞納分に充当されるべきものであることを明らかにしたものである。その直接的な理由は、減額賦課決定が遡及効を有すること及び滞納処分制度が地方税等の滞納状態の解消を目的とするものであることにあるが、更に実質的な理由として、仮に当該配当金が直ちに法律上の原因を欠いて徴収された過納金に当たるものとして還付されるとすれば、その配当時において差押えに係る地方税に滞納分が存在したにもかかわらず、その滞納状態を解消する効果が生じず、当該滞納状態を基礎とする延滞金が生ずることにもなるという、滞納処分制度の目的に反する不合理な結果になることが指摘されている。過納金は還付加算金が付されて還付されるが(地方税法17条の4第1項)、延滞金の利率は還付加算金の利率よりも原則として年7.3%も高いため(同法321条の2第2項、附則3条の2)、当該配当金がそのまま過納金として還付されて他の滞納分に充当されないとすると、納税者は、当初から瑕疵のない賦課決定に基づく徴収がされた場合と比べて、この還付加算金と延滞金との差に相当する負担を強いられる結果となる。本判決は、このような結果は容認し得ないものと解したものと考えられる。

 ウ 次に、当該配当金が滞納分に具体的にどのように充当されるかが問題となるところ、本判決は、滞納処分制度が設けられている趣旨に照らせば、当初の充当が効力を有しないこととなった配当金について他に充当されるべき差押えに係る地方税が存在する場合には、債務の弁済に係る画一的かつ最も公平、妥当な充当方法である改正前民法489条の規定に従った充当(法定充当)がされるものと解すべきであるとした。

 これは、一般に、租税法律関係についても、それを排除する理由がない限り、私法上の規定が適用ないし準用されるものと解されていること(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂、2019)32頁)を踏まえ、上記場合には、債務の弁済に係る画一的かつ最も公平、妥当な充当方法である民法の法定充当の規定に従った充当がされると解したものと考えられる(現行の民法の下では、改正前民法489条に相当する488条4項の規定に従った充当がされることになろう。)。なお、前記 ⑵ イのとおり、滞納処分において差押えに係る本税が複数存在する場合の配当金については、一般に、租税債権者がその裁量により充当の順序を定めることができると説明されてきたところ、租税債権者がそのような充当指定権を有するとしても、本件は租税債権者による充当の指定が存在しない(当初の充当の指定は効力を失っている)場合であるといえるから、本判決は、租税債権者の一般的な充当指定権の有無、内容に係る特定の見解を前提とするものではないものと解される。

 エ 以上を踏まえて、本判決は、複数年度分の個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の個人住民税に充当されていたものは、その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の個人住民税が存在する場合には、改正前民法489条の規定に従って当該個人住民税に充当されるとの判断を示し、これによれば市長の計算には誤りがあるとして、破棄差戻しの判決をした。

 

5 本判決の意義

 本判決は、滞納処分における配当金の充当関係について判断を示した初めての最高裁判決であり、直接的な射程は限られているものの、国税を含む他の場合について検討する上でも重要な意義を有するものと考えられる。

 

 

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