◇SH0580◇ベトナム:外国会社の駐在員事務所等に関する細則の成立 田島圭貴(2016/03/03)

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ベトナム:外国会社の駐在員事務所等に関する細則の成立

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 田 島 圭 貴

 

 他のアジア諸国と同様に、ここベトナムにおいても多くの日系企業が駐在員事務所を有しているが、2016年1月25日、外国企業の駐在員事務所・支店に関する細則を規定する法令第07/2016/ND-CP号(「法令07号」)が成立した。法令07号の施行日である2016年3月10日をもって、現行の法令第72/2006/ND-CP号(「法令72号」)は失効し、法令07号がこれに代わることになる。日系企業にとっては、特に、駐在員事務所に関する規定について関心が高いと思われるが、その主な改正点は以下の通りである。

 

1.      駐在員事務所の設立

  1.   法令07号では、新たに、外国会社による駐在員事務所の設立が認められるための要件の一つとして、駐在員事務所の活動内容がベトナムの加盟する国際条約におけるベトナムの誓約事項に反する場合又は外国会社がベトナムの加盟する国際条約の加盟国に属していない場合に、当該駐在員事務所の設立に関する承認を管轄省庁から取得することが要求された(同7条5項)。同法令上、上記の「国際条約」の定義はなされておらず、具体的にいかなる場合に管轄省庁の承認が要求されるのかについては、現時点では明らかでないが、管轄省庁の承認が要求される場合は、駐在員事務所の設立に際してより長時間を要することが想定されていることから(同11条4項)、当局による今後の運用等を注視する必要がある。
  2.  • 現行の法令72号では、駐在員事務所の設立ライセンスの発行、変更等はDepartment of Trade及びDepartment of Trade and Tourismが行うとされているが(同3条2項)、法令07号では、工業団地、輸出加工区等に駐在員事務所を設立する場合は、当該工業団地等の管理委員会が設立ライセンスの発行、変更等を行うとされた(同5条2項)。

 

2.      駐在員事務所の運営

  1.  • 現行の法令72号では、駐在員事務所に認められている活動内容は、①連絡事務所としての機能を果たすこと、②外国会社のベトナムにおける協力プロジェクトの構築の促進、③外国会社による商品売買及び商業サービス提供の機会を促進するための市場調査、④ベトナムの当事者と締結し又はベトナム市場に関連する、外国会社の契約の履行のモニタリング及び促進、並びに⑤その他ベトナム法上認められている活動とされている(同16条)。これに対し、法令07号では、①連絡事務所としての機能を果たすこと、②市場調査、及び③外国会社による企業投資機会の促進とされており(同30条)、例えば、法令72号では規定されていた「外国会社の契約の履行のモニタリング及び促進」が含まれていない。これがいかなる意義を有するのか(駐在員事務所の活動範囲を限定する趣旨なのか)については、現時点では明らかでなく、当局による今後の運用等を注視する必要がある。
  2.  • 現行の法令72号では、駐在員事務所所長がベトナム国内に居住することが明示的に要求されているわけではなく、この点は法令07号においても同様であるが、法令07号では、新たに、駐在員事務所所長は、ベトナムを離れる際に、他者に対し、駐在員事務所所長としての権利義務の遂行を書面で委任しなければならないとされた(同33条3項。なお、かかる委任は外国会社により承認される必要がある)。現在、かかる運用を行っていない駐在員事務所は、法令07号の施行後は運用を改める必要がある。
  3.  • ベトナム商法上、外国会社の駐在員事務所は、駐在員事務所所長が当該外国会社から委任を受けている場合を除き、原則として、当該外国会社のために契約の締結等を行ってはならないとされているところ(同18条3項)、現行の法令72号では、外国会社の駐在員事務所所長は「当該外国会社からの委任状を得ずに契約を締結するために」当該外国会社の代表者を兼任することはできないとされている(同20条2項(b))。これに対し、法令07号では、外国会社の駐在員事務所所長は、かかる限定なく、外国会社の代表者を兼任することができないとされ、兼任に関する制限の範囲が拡大された(同33条6項)。念のため、ベトナムの駐在員事務所所長が、日本やシンガポールにある関連会社の代表者を兼任していないかについて確認することが望ましい。

 上記の通り、法令07号に関しては、現時点では内容に不明確な点も多いことから、今後も引き続き、当局による運用や、細則を定める下位法令の動向について注視する必要があるといえよう。

 

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