◇SH0609◇三菱東京UFJ銀行、アルゼンチン共和国を被控訴人とする上告審で最高裁から口頭弁論期日指定通知を受領 佐藤修二(2016/03/28)

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三菱東京UFJ銀行、アルゼンチン共和国を被控訴人とする上告審で
最高裁から口頭弁論期日指定通知を受領

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 三菱東京UFJ銀行は、アルゼンチン共和国(以下「アルゼンチン」という。)が日本市場において発行した円建て債券(いわゆるサムライ債)の管理会社として、同国を被告として提起していた訴訟(以下「本件訴訟」という。)につき、最高裁が口頭弁論期日を指定したと発表した。本件訴訟では、三菱東京UFJ銀行のほか、みずほ銀行及び新生銀行(以下「本件各行」という。)が、同じくサムライ債の管理会社として訴えを提起して当事者となっている。

 本件訴訟の発端は、アルゼンチン政府が平成13年に行った、公的対外債務の元利金に関するモラトリアム(一時支払停止)宣言にある。このモラトリアム宣言により、同国政府の発行した上記サムライ債は、債務不履行に陥った。その後に同国政府が実施した新たな債券との交換に応じた債券保有者も相当数いたようであるが、全員がこれに応じたわけではなく、残った債券についての権利実行として、本件訴訟が提起された。

 ここで問題なのは、本件各行は、アルゼンチン政府との間の管理委託契約に基づき、債権管理に関する一切の権限を付与されているものの、債券に係る権利者そのものではないため、「なぜ本件各行が原告となれるのか」という点である。この点について、本件各行は、サムライ債の管理会社としての管理権限の一環として、民事訴訟法上の「任意的訴訟担当」として、原告適格を有する旨を主張した。任意的訴訟担当とは、訴訟対象たる権利義務の主体の授権により、第三者がその権利義務について訴訟当事者となる適格を有する場合を指す概念である。最高裁判例は、任意的訴訟担当は、概略、権利義務の主体となる者の意思に基づく訴訟追行権の授与があり、弁護士代理の原則等を回避・潜脱する恐れがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には認めて良い、としている(最大判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)。

 本件各行は、任意的訴訟担当が認められる根拠として、管理委託契約における、管理会社は債券の実現を保全するために必要な一切の裁判上の行為をなす権限を有するとの条項(以下「本件授権条項」という。)を挙げた。すなわち、本件各行は、本件授権条項はアルゼンチン政府と本件各行を契約当事者、債券保有者を受益者として、本件各行に債券保有者のための訴訟追行権を授与する、第三者のためにする契約(民法537条)であるところ、各債券保有者の受益の意思表示(民法537条2項)は、債券を最初に引き受けた元引受会社によりなされ、その後債券が転々譲渡されるに従って受益者の地位も移転している、等と主張した。しかし、第一審東京地裁は、上記最高裁判例の示した任意的訴訟担当の要件に関する判断基準を前提とした上で、(i)本件授権条項は第三者のためにする契約であるが、管理委託契約は本件各行と発行体であるアルゼンチン政府との間に存在し、本件各行が同国政府から手数料を収受することがある等の関係にあるがゆえに、債券保有者と本件各行に利益相反のおそれがあることからすると、受益の意思表示は明確なものである必要があるところ、かかる明確な受益の意思表示があったとは言えないから訴訟追行権の授与は認められず、(ii)また仮に訴訟追行権の授与が認められるとしても、各債券保有者が個別に権利行使をすることも可能であること、各債券保有者が訴訟提起を望むかが不明であること等から、任意的訴訟担当を認める合理的必要性がないとして、本件各行の原告適格を否定し、訴えを却下した(東京地判平成25年1月28日判時2189号78頁)。

 本件各行は、地裁判決を不服として控訴したが控訴審も地裁判決の結論を是認して控訴を棄却したため(東京高判平成26年1月30日公刊物未登載)、最高裁に対して上告の手続を執っていたところ、今回の口頭弁論期日の指定となった。最高裁は、原審の判断を維持する場合には口頭弁論を開く必要がないとされており(民事訴訟法319条参照)、逆に言えば、原審の判断を見直す場合、口頭弁論を開く必要がある。それゆえ、本件各行の原告適格を否定した東京高裁判決が見直される可能性が出てきたと言える。

 地裁判決については、比較的異例なことと思われるが、それが下されて間もない時期に、関連分野の著名な法学者(民事訴訟法の青山善充教授・松下淳一教授、民法の山田誠一教授、商法・金融法の神田秀樹教授)とサムライ債の実務に詳しいみずほ銀行の大類雄司氏による座談会が開かれた(青山善充ほか「《座談会》サムライ債の債券管理会社による訴訟追行の可否-東京地判平25・1・28をめぐって-」金法1981号6頁以下)。座談会の議論の大勢は、任意的訴訟担当を否定する結論は、債権の管理・回収を含めて管理会社の機能に期待した上で、金融商品として債券を購入したであろう投資家の期待に反し、資本市場に混乱をもたらすことが懸念され、理論的にも、任意的訴訟担当を認めることは不可能ではない、とするものであった。

 最高裁が、こうした議論も踏まえ、いかなる判断を示すのか、注目される。

  東京地裁 東京高裁 最高裁

管理会社の原告適格
(任意的訴訟担当)

認めない

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認める?

 

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