中国:知的財産権の行使に対する独占禁止法の適用に関する規定、ガイドライン
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 德地屋 圭 治
中国独占禁止法(「独禁法」)においては、知的財産権の行使に対する独禁法の適用に関しては、知的財産権を濫用し競争を排除・制限する行為に対し独禁法を適用する旨規定されているが、具体的にどのように適用されるのか規定上明確ではない。この点については、2015年から2016年にかけて、国家工商行政管理総局(「SAIC」)及び国家発展改革委員会(「NDRC」)から、規定、ガイドラインが公布、公表された。
中国の独禁法は、主として①独占的協定の禁止(独占的協定とは、競争を排除し又は制限する合意、決定又はその他の協調行為をいう)、②市場における支配的地位の濫用行為の禁止及び③事業者集中申告(マージャーファイリング)の各分野に分けることができるが、上記規定及びガイドラインは、①及び②について、知的財産権の行使に対する独禁法の適用の運用に関する規定を設けるものである。
1 SAICの規定、ガイドライン
SAICが公布、公表した規定、ガイドラインは、「知的財産権を濫用し競争を排除・制限する行為の禁止に関する規定」(2015年4月7日公布、同年8月1日施行、「SAIC規定」)、「知的財産権の濫用に対する独禁法の執行に関するガイドライン(国家工商総局第七稿)」(2016年2月4日公表、2月23日までを期間とするパブリックコメントの募集)(「SAICガイドライン」)である。
SAIC規定では、①独占的協定の分野について、知的財産権の行使を利用して、独禁法で禁止される独占的協定を行ってはならないとしたうえで、例外として、独占的協定とみなされない一定の場合についてセーフハーバーを設けているが、セーフハーバーは、(i)競争事業者間においては、市場シェアが20%超えず又は4件以上の代替技術が存在する場合、(ii)非競争事業者間においては、市場シェアが30%を超えず又は2件以上の代替技術が存在する場合に、適用されるとされている。②市場支配的地位の濫用行為の分野については、市場の支配的地位の有無の認定要素を挙げたうえ、支配的地位の濫用となる知的財産権行使行為について、ライセンス拒絶、抱き合わせ販売等の類型に分けて規定している。
SAICガイドラインは、SAIC規定と一定の差異はあるものの、基本的にはSAIC規定を詳細にした規定を設けている。
2 NDRCのガイドライン
NDRCが公表したガイドラインは、「知的財産権の濫用に関する独占禁止ガイドライン(パブリックコメント稿)」(2015年12月31日公表、2016年1月20日までを期間とするパブリックコメントの募集)(「NDRCガイドライン」)である。
NDRC規定では、①独占的協定の分野について、知的財産権関連の契約などが独禁法の禁止する独占的協定に該当するか判断する上での考慮要素を、共同開発などの類型に分けて規定しているが、SAIC規定・ガイドラインと同様に、セーフハーバーを設けている。ただ、その内容はSAIC規定・ガイドラインとは若干異なっており、(i)競争事業者間においては、市場シェアが15%を超えない場合、(ii)非競争事業者間においては、市場シェアが25%以下の場合に適用されるとされている。②市場支配的地位の濫用行為の分野については、市場の支配的地位の有無の認定要素を挙げたうえ、不公平な高価格によるライセンス、ライセンス拒絶等の類型に分けて、支配的地位の濫用となる知的財産権行使行為の有無を認定する際の考慮要素を規定している。
このように、SAICの規定・ガイドラインとNDRCガイドラインの間においては若干の差異があるが、SAICガイドラインとNDRCガイドラインはパブリックコメント段階であり確定したものではないことから、今後どのように修正され、又は実務上運用されていくか、注意しておく必要があると考えられる。