SH4121 中国:個人情報越境移転のための標準契約等の公表(1) 川合正倫/今野由紀子(2022/09/05)

取引法務個人情報保護法

中国:個人情報越境移転のための標準契約等の公表(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

弁護士 今 野 由紀子

 

はじめに

 2022年6月30日、中国国家インターネット情報弁公室は、個人情報越境移転契約規定(意見募集稿)(以下「本規定案」)を公表した(意見募集期間は2022年7月29日まで)。昨年11月に施行された中国個人情報保護法では、個人情報の越境移転時の適法化根拠として一定の場合に標準契約に依拠できることが定められており、その具体的内容の公表が待たれていたものである。標準契約は、実務上活用されることが期待されており、企業への影響が大きいと思われることから、紹介する。

 以下、特に明記しない限り、本稿において条文番号は本規定案の条文番号を指す。

 

1 個人情報保護法における越境移転規制の概要

⑴ 中国個人情報保護法における個人情報越境移転時の規律

 2021年11月1日に施行された中国個人情報保護法(以下「個情法」)[1]では、個人情報を中国域外に移転するには、以下の適法化根拠のうち、いずれかを充足する必要がある(個情法38条1項)[2]。本規定案は、③の標準契約の締結に関するものである。

  1. ①国家ネットワーク情報部門による安全評価に合格した場合
  2. ②国家ネットワーク情報部門の規定に基づく専門機関による個人情報保護の認証を取得している場合
  3. ③国家ネットワーク情報部門の定める標準契約に従って、域外の受領先と契約を締結し、双方の権利及び義務を合意した場合
  4. ④法律、行政法規又は国家ネットワーク情報部門の規定するその他の条件を満たす場合

 上記の例外として、(i)重要情報インフラ[3]運営者又は(ii)取り扱う個人情報が、国家ネットワーク情報部門が別途定める数量に達した個人情報の取扱者に該当する場合には、必ず上記①の国家ネットワーク情報部門による安全評価を経なければならないとされていることから、この場合には、標準契約に依拠することはできない(個情法40条)[4]

 欧州一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下「GDPR」)の下でも、標準契約条項(Standard Contract Clauses、以下「SCC」)が実務上個人データ越境移転の場面で利用されている。また、個情法で認められている他の適法化根拠(すなわち、上記(1)の政府機関による安全性評価や上記②の専門機関による認証)が結果の見通しや必要な時間・コスト等の面で不透明であることもあいまって、標準契約は産業界にとって現実的な越境移転の方法として期待されており、その具体的内容の公表が待たれていた。

(2)につづく

 



[1] 詳細については、川合正倫/鈴木章史「11月1日より施行 中国個人情報保護法」も参照されたい。

[2] 加えて、中国域外に個人情報を移転する場合、情報主体に対し移転先の身元、連絡方法、取扱目的、取扱方法、個人情報の種類及び個人が移転先に対して権利行使する方法等の事項を告知した上で、個別同意を取得しなければならない(個情法39条)。また、域外の受領者に中国個情法と同レベルの保護を提供させるための必要な措置を講ずること(個情法38条)、データ保護安全評価報告書及び処理状況記録の3年間保存(個情法55条、56条)も必要とされる。

[3] 「重要情報インフラ」とは、「公共通信及び情報サービス、エネルギー、交通、水利、金融、公共サービス、電子行政、国防科学技術等の重要業界及び分野、並びにその他のひとたび破壊、機能喪失又はデータ漏えいを受けた場合に、国の安全、国の経済と人民の生活、公共の利益を著しく脅かすおそれのある重要ネットワーク施設、情報システム等」(重要情報インフラ安全保護条例2条)とされており、業界及び分野ごとの主管機関等が管轄分野の重要情報インフラを認定し、事業者に通知することとされている(同条例10条)。

[4] 「国家ネットワーク情報部門が別途定める数量」は、今年9月に施行予定の「データ越境移転安全評価弁法」においても定められている。詳細については、◇SH4062◇中国:情報・データ国外移転規制法令の成立が日系企業に与える影響(9月1日施行) 鹿はせる(2022/07/14)を参照されたい。


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(こんの・ゆきこ)

2005年慶應義塾大学経済学部卒業、2008年中央大学法科大学院修了。2015年コロンビア大学ロースクール(LL.M)卒業。クロスボーダーを中心とする企業法務一般のほか、国内外の個人情報・データプロテクションその他データにまつわる様々な法律問題を中心に幅広い分野を取り扱っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、500名を超える弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました