◇SH0662◇法のかたち-所有と不法行為 第十四話-2「私のもの」の維持・回復 平井 進(2016/05/17)

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法のかたち-所有と不法行為

第十四話 「私のもの」の維持・回復

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

2  トマス・アクィナス

 このsuum概念は、中世ヨーロッパの道徳神学の正義概念において重要な位置にあった。トマス・アクィナスはその『神学大全』(~1273年)において、人と他者との関係における正義について、「固有な事物・対象との関係における正義の行為」とは「正しくその人のものであることがらが固有にその人に帰する(jus suum unicuique tribuens)」ことであるとして上記のウルピアヌスと同様のことを述べており[1]、また、「その本質上、正義とは他者に対するものである。衡平であるのはそれ自体ではなく、他者との関係である」とする。[2]

 また、アクィナスは、人と人の間の交換的正義において回復する(restituo)ことについて、次のように述べている。「同意によるか意思に反するかを問わず、別の人のものをもつ」ことに対して、「回復することは、人がもち、または支配するものを改めて位置付ける(itero statuo)ことに外ならない。」[3]「取り去られたものが衡平に回復されない場合、可能な補償がなされなければならない。」[4]アクィナスは、正義の法を人間関係の衡平とし、それが乱されたときにそれを回復する、すなわち正しい関係を乱した者に対してその回復を求めることとする。

 上記を法論として見ると、アクィナスが「その人のものが固有にその人に帰する」ということは、その人と対象との間の固有な関係を述べており、実体の状態が変化せずに占有が移ったものをもとに戻すこと(所有)と、実体の状態が変化したものを回復し、それが不可能であれば補償すること(不法行為)について、共通して回復(restitutio)という概念においてまとめている。



[1] St. Thomas Aquinas, Summa Theologiae, 58, 1, Blackfriars with London, Eyre & Spottiswoode, pp. 20-21. 同様に、「正義の適切な行為は、各人のものが固有に帰することに他ならない。」58, 11 co, pp. 48-49. Ibid., 58, 11 ad 3, pp. 50-51. なお、上記のウルピアヌスのcuiqueとこのunicuique(英語のunique)は同様の意味で用いられているようであり、そうであれば前者も「その人固有の」といってよさそうである。

[2] Ibid., 58, 11 co, pp. 48-49. Ibid., 58, 11 ad 3, pp. 50-51.

[3] Ibid., 62, 1, pp. 102-103.

[4] Ibid., 62, 2,ad 1, pp. 106-107.

 

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