◇SH1890◇実学・企業法務(第144回)法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車 齋藤憲道(2018/06/07)

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実学・企業法務(第144回)

法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅲ〕自動車

4. 自動車自体の安全性・環境水準を確保し、被害者救済を確実にする仕組み

 保安基準(適合車を型式認証する)・車検・リコール・保険・利用者の注意義務等の社会全体の制度によって、車の安全性・環境保全・事故発生時の被害者救済等を確保する。

(1) 自動車自体を安全基準・環境基準に適合させる仕組み

 国土交通大臣が保安基準に適合すると認めた車[1]だけが、車台番号を打刻[2]して、公共の道路を走行することができる。

  1. ①「保安基準[3]」を定める。
    〔保安基準で定める項目の例〕
    寸法(長、幅、高、最低地上高等)、重量、最小回転半径、エンジン、ブレーキ、座席、座席ベルト、ガラス、排出ガス、ライト、方向指示器、警音器他
  2. (注) 排出ガスに関しては、自動車NOx・PM法(14条)[4]に基づく「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」において詳細が規定されている。
     
  3. ② 自動車メーカー等は、新型車の生産・販売に先だって、国土交通大臣から「保安基準」への適合性等の審査を受ける。これを、型式認証制度[5]という。
    ・一般乗用車(同一モデル・大量生産)の審査では型式指定制度[6]が利用される。
    ・大型トラック・バス(仕様が多様)の審査では新型届出制度が利用される。
  4. (注) 自動車メーカーは「省エネ法[7]」にも対応しなければならない。
    自動車は、大量に使用され、相当量のエネルギーを消費し、エネルギー消費性能向上が必要な機器であるとして、「トップランナー制度[8]」の対象とされている(78条)。違反者に対しては、経済産業大臣及び国土交通大臣が勧告を行い、これに従わない場合、社名を公表して措置命令する(79条)。

     
  5. ③「リコール」
     自動車の構造・装置・性能が、道路運送車両法の「保安基準」に適合せず(又は、そのおそれがある)、かつ、その原因が設計又は製作の過程にあるとメーカーが判断したときは、予め国土交通大臣に状況・原因・改善措置・周知方法等を届け出て、リコールする[9]
  6. 〔国土交通省の役割〕
  7. ・ 事故が多発する等、保安基準不適合が疑われるときは、国土交通省が独自に分析・検討してメーカー等に改善措置を勧告し、従わないときはこれを公表してリコール命令を行う[10]
  8. ・ 国土交通省は、リコール関連情報をHP等で公表して消費者に注意喚起する[11]
  9. ・ 国土交通省は「不具合情報ホットライン」を設けて車の所有者等から不具合情報を収集し[12]、リコールの迅速・確実な実施に努めている。
  10. ・ リコールを届出たメーカーは、国土交通大臣に対して、その改善措置実施状況報告を行う[13]
  11. (注1) リコールに至らない軽微な不具合等については、企業が自主的に「改善対策」「サービスキャンペーン」「延長保証」を行うことがある。
  12. (注2) 経済先進諸国には、リコール制度が存在する[14]
  13. (注3) リコールや製造物責任のコストは高額化する傾向にある。特に、米国の損害賠償請求訴訟では高額判決が多い。

(2) 自動車の保有者・運転者にも安全・環境保護等の義務を負わせる

  1. ① 2年に1回(新車時の初回は3年目に実施)の車検[15]を義務付ける。
     一般に、車両を自動車整備工場[16]に搬入し、車検と同時に、法定2年点検を行う。
  2. (注) 自動車の使用者は、「車検」とは別に、「点検整備(日常点検整備と定期点検整備)」の義務を負う[17]
     
  3. ② 自賠責保険[18]に強制的に加入し(強制保険)、交通事故被害者の救済に充てる。
  4. (注) 強制保険で保障されない部分について、通常、任意の自動車損害賠償責任保険[19]に加入して万一の事故[20]に備える。
     
  5. ③ 車には、ナンバー・プレート(自動車登録番号標)を表示しなければならない[21]
     ナンバープレートを登録自動車の所有者に交付する業を行うには、国土交通大臣の指定を受けなければならない[22]
     
  6. ④ 運転免許制度[23] 道路交通法は、免許証の交付・更新、国際運転免許証等について定めている。
     日本では、一般的に、自動車教習場で運転実技と運転に必要な知識を習得する。
        運転中は免許証を携帯する義務があり、警察官から求められたときは提示しなければならない。
     
  7. ⑤ 安全運転の義務
     道路交通法は、制限速度・標識遵守等を定めるとともに、酒気帯び・過労時の運転等を禁止する。
     一定台数以上の使用者は、安全運転管理者を選任して公安委員会に届け出なければならない[24]
     
  8. ⑥ 車庫証明(自動車保管場所証明)制度[25]
     道路を保管場所にしないように規制を強化し、道路使用の適正化、道路における危険の防止、道路交通の円滑化を図ることを目的とする。
     
  9. ⑦ 廃車[26]や解体[27]は、法律の手続きに従って行う。

(3) 行政が担う安全確保の義務

  1. ① 一般の道路[28]は、国、都道府県、市町村が役割分担して管理・保全等を行う[29]
     
  2. ② 標識・信号等を用いて制御する[30]
  3. ・ 都道府県の公安委員会は、必要に応じて信号機・道路標識等を設置・管理して交通規制を行う。ただし、緊急時には警察官の現場指示により交通規制する。
  4. ・「信号機」のルールは政令で定め、「道路標識等」のルールは内閣府令・国土交通省令で定める。


[1] 道路運送車両法40~42条、44条、45条は、自動車が安全性を確保し環境を保全する保安基準に適合することを義務付け、型式毎に適合している旨の指定を国土交通大臣が行う(75条)。道路運送車両法施行規則(1951年8月16日運輸省令)4条、26条の7、27条。

[2] 事故等で損傷を受けにくいエンジンルーム奥の車の骨格部等に打刻する。

[3] 道路運送車両の保安基準(道路運送車両法40~46条)、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(国土交通省告示)、自動車のエネルギー消費効率の算定等に関する省令附則第二条に規定する国土交通大臣が告示で定める方法(国土交通省告示)

[4] 「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」の通称。同法14条「国土交通大臣は、自動車排出窒素酸化物等による大気の汚染の防止を図るため、窒素酸化物排出基準及び粒子状物質排出基準が確保されるように考慮して、道路運送車両法に基づく命令を定めなければならない。」

[5] 同一モデルの大量生産車では、国土交通省が行う、①現車による基準適合性審査(ブレーキ・排気ガス・灯火器等)、及び、②品質管理審査(均一性)の両方に合格して「型式指定」された型式の自動車について新規検査時の現車提示が省略される「型式指定制度」が利用される(通常、2カ月後に型式指定完了)。個別仕様の大型トラック・バスでは、同省が現車による検査を実施する「新型届出制度」が利用される。基準適合性審査業務(安全・環境・燃料消費等の基準への適合性審査)は、国土交通省の委託を受けて、独立行政法人自動車技術総合機構が行う。日本が1998年に加盟した国連の「車両等の型式認定相互承認協定(1958年)」では、締約国が認定した装置(ブレーキ、タイヤ、前照灯、警音器等)が、他の締約国でもその国の基準に適合するものとして取り扱われる。(52の国・地域が加盟し、装置毎に132の基準が定められている(2015年3月))。この他、日本は、日本国内で少数(個別モデル)の販売予定の輸入車のみを対象とする「輸入車特別取扱制度」を設け、提出書類のみの審査で届出済書を交付する簡素化・迅速化(1カ月以内に)を行っている。

[6] 道路運送車両法75条1項、3項、4項。自動車型式指定規則(国土交通省令)

[7] 「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」の通称。78条に基づいてトップランナー方式が規定されている。

[8] トップランナー制度とは、対象機器(自動車、エアコン、照明器具、TV、複写機、冷蔵庫、ストーブ、ガス調理機器他)について、現行品のうちエネルギー消費効率が最高の性能に加え、技術開発の将来の見通し等を勘案して、3~10年程度先に設定する目標年度における省エネ基準(トップランナー基準)を満たすことを求め、対象機器の製造事業者・輸入事業者に、目標年度以降における同基準の達成(出荷台数の加重平均)及び表示等の義務を負わせるもの。

[9] 道路運送車両法63条の3

[10] 改善措置の勧告等(道路運送車両法63条の2)、改善措置の届出等(同法63条の3)、報告及び検査(同法63条の4)、立入検査(同法64条)、罰則(同法106条の4)

[11] リコール(2016年度=平成28年度、速報値)の届出件数は364 件、対象台数は1,584万台(うち、タカタ製エアバッグ関係は44件、621万台)。(国土交通省 2017年4月7日 Press Releaseより)

[12] 例年、約3,000件の情報(保有者の整備不良を含む)が寄せられ、結果が国土交通省HPで公表されている。

[13] 道路運送車両法63条の3第4項

[14] 主要国のリコール制度:①米国「国家交通・自動車安全法 National Trafic and Motor Vehicle Safety Act」「大気洗浄法 Air Clean Act」、②EU「製品の一般的安全性に関する指令 EC Directive:Directive relative to general safety of products」、③オーストラリア「商取引法・自動車基準法 Commertial Transaction Act, Motor Vehicle Regulations Act」、④カナダ「自動車安全法 Motor Vehicle Safety Act」

[15] 道路運送車両法58条、61条

[16] 地方運輸局長が認証する「認証工場」と、指定する「指定工場」(通称、民間車検場)がある。(道路運送車両法78条第1項、94条の2第1項)

[17] 道路運送車両法47条、47条の2、48条

[18] 自動車損害賠償保障法

[19] 保険の種類には、対人賠償保険、無保険車傷害保険、自損事故保険、搭乗者傷害保険、対物賠償保険、車両保険等がある。なお、自賠責保険は、対人事故の賠償損害のみを補償し、死亡事故最高補償額は3,000万円、後遺障害の最高保障額は3,000万円(但し、神経系統他に著しい傷害を残して常時介護が必要な場合は4,000万円)である。(2017年4月1日現在)

[20] 自動車交通事故の高額賠償判決が増加し、認定総損害額が1億円を上回る判決も増えている。2011年11月1日の横浜地裁判決は眼科開業医の死亡事故で総被害額5億2,853万円を認定した。自転車事故でも高額化が進み、2013年7月4日神戸地裁判決は傷害事故で9,521万円の損害賠償支払いを命じた。

[21] 道路運送車両法19条、73条。同法施行規則7条

[22] 道路運送車両法25条

[23] 道路交通法84条1項、95条1項

[24] 道路交通法74条の3第1項、4項、5項

[25] 車庫証明取得には、次の3要件を全て満たす必要がある。①自動車の使用の本拠の位置(個人は住所地又は居所、法人は事務所所在地)から直線距離2km以内。②道路から支障なく出入りでき、かつ、自動車全体を収容できる。③保管場所(車庫)を使用する権原を有する。自動車の保管場所の確保等に関する法律、同法施行令1条。

[26] 廃車には、永久抹消登録(リサイクル業者で解体済、災害等)、一次抹消登録(売買、盗難等)、輸出抹消仮登録(自動車の輸出)の3種類がある。

[27] 自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)は、基本的に全ての車を対象とし、解体後の老廃物(プラスチック屑等のシュレッダーダスト。樹脂・ウレタン・プラスチック等の可燃物が約75%、ガラス・金属等の不燃物が25%)、カーエアコンのフロン、エアバッグ等の適正な処理を義務付ける。車の最終所有者が廃棄コストを負担する仕組み。

[28] 道路関係4公団の民営化に伴なって2004年に高速道路株式会社法が制定され、2005年に高速道路6社(東日本、首都、中日本、西日本、阪神、本州四国連絡)が設立された。なお、同法は、政府等が常時3分の1以上の議決権を保有し(3条)、国土交通大臣が監督等すべきこと(15~17条)を定めている。

[29] 道路法は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道の4種類に分けて実施事項を定めている。また、有料道路については、道路整備特別措置法が規定する。

[30] 道路交通法は、道路における危険防止、交通の安全・円滑、交通起因の障害の防止に資することを目的とし、都道府県の公安委員会が現場管理で大きな責任を担う(1条、4条)。

 

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