企業内弁護士の多様なあり方(第27回)
-「仕事の段階」(判断、執行)(中)
オリックス不動産株式会社
弁護士 真 銅 孝 典
第10 企業内弁護士の「仕事の段階」(判断、執行) (中)
(3) 契約(書)の審査業務について
多くの一般従業員型企業内弁護士が、契約書のドラフティング業務を中核業務として行っているので、その点について述べる。
自己の職位に応じて契約書の審査・決裁権限が与えられている場合、その範囲においては、当該契約書に関する判断の責任を負うことになる。つまり、一定の契約(取引金額が一定以下、単発の契約、過去取引に類似している契約等)であれば、自らその取引における契約内容について判断、執行(法的解釈、営業部門への再交渉の依頼等)を行うことができる。この場合、上席者の直接的な判断は入らず、自己の行為に明確に責任を負うことになる(もちろん組織上は上席者が監督責任を負う)。一方、自己の職位を超えるものについては、上席者への相談・点検依頼を行って自己の判断の適切性を事前に検証する必要があり、その上で部外へ発信することになる。
(4) 訴訟業務について
企業内弁護士で自ら所属企業の訴訟代理人になるケースは比較的少なく(※)、企業内弁護士の訴訟への関与は、いわゆる訴訟管理業務(訴訟進行の管理、書面チェック、社内報告等)が中心となる。また、一口に訴訟といっても、判例にもなりうるような重要な争点、精緻な事実認定が必要となるものから、特に争点のない単純な金銭債権の請求等まで様々なケースがある。
一般従業員型の弁護士が外部の弁護士と共同で訴訟対応を行う場合には、どのような類型の訴訟でも関与することができるであろうが、単独で行うとなると訴訟結果の見通しがたつ訴訟が多いと考えられる。それでも、訴訟については通常業務よりも事実上、広い判断、執行の裁量があるものと考えられる。つまり、社内規則上は上司の承認を得て行うことになるが、一般的に訴訟業務は弁護士としての代表的な業務と考えられていることもあり、事実上、相当程度の裁量が与えられ、当該企業内弁護士の判断、執行が尊重されることになってくると考えられる(報告等は当然必要である)。このことは、訴訟管理業務においても同様であり、弁護士であるがゆえに、その裁量は他の通常業務よりも事実上広くなる傾向があると考えられる。
(※) 日本組織内弁護士協会の2016年アンケート調査では、回答者の63%が「訴訟代理人にならない」と回答している。
(以下、次号)