登記をするには「株主リスト」が必要になる場合も
岩田合同法律事務所
弁護士 松 原 崇 弘
商業登記規則61条等[1]が改正され、平成28年10月1日に施行される。同日以降に株式会社、投資法人又は特定目的会社の登記を申請する場合、添付書面として、株主等の氏名等を記載した「株主リスト」[2]が必要になる場合がある。
投資法人登記規則及び特定目的会社登記規則の改正は、商業登記規則の改正と同様とされているので、以下、「株主リスト」に係る商業登記規則の改正について紹介する。
1 改正の概要
商業登記規則61条2項及び3項が改正され、登記申請にあたり、「株主リスト」の提出が求められる(新設)。具体的には、登記事項につき、①株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合、②総株主又は種類株主全員の同意を要する場合、株主の氏名、住所等を代表者が証する書面の添付が必要になる(詳細は図1のとおり)。
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「株主リスト」の対象となる株主 |
又は
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「株主リスト」に入れるべき項目 |
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2 商業登記規則61条2項及び3項の改正の趣旨[3]
近時、株主総会議事録等を偽造して役員になりすまして役員の変更登記又は本人の承諾のない取締役の就任の登記申請を行った上で会社の財産を処分するなど、商業·法人登記を悪用した犯罪や違法行為が後を絶たず、消費者保護又は犯罪抑止の観点から商業登記の真実性の担保を強化する措置をとるべきであるとの意見、要望が寄せられ[4]、更なる商業登記の真実性の担保を図る必要があった。また、国際的にも、登記所において法人の所有者情報を把握して、法人の透明性を確保することにより、法人格の悪用を防止すべきであるとの要請があった。
この点、株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することは、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ[5]、登記の真実性の確保につながるとともに法人の透明性が確保でき、関係者が事後的に株主総会決議の効力を訴訟等で争う場合等においても有益となる。
そこで、商業登記規則61条等が改正され、株式会社に対し、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する際に決議の帰趨を左右し得る主要株主のリストの提出が求められ、株主全員の同意を要する場合には、一層上記の趣旨が妥当するため株主全員のリストの提出が求められることとなった。
3 実務への影響
(1) 登記事項につき株主総会決議が必要な場合、従前は登記申請の添付書面は株主総会議事録とされたが、改正商業登記規則61条の施行後は、これに加え「株主リスト」が必要とされる。
法務省は「株主リスト」の書式例及び記載例をホームページに掲載しているが、これらの形式に限定されるものではない。
この点、事業報告、有価証券報告書における主要株主に関する記載又は株主名簿と「株主リスト」とではその記載内容が異なっているので、「株主リスト」の代替としてこれらの書面をそのまま用いることは困難とされる。ただし、有価証券報告書の「主要株主の状況」欄等の記載内容は「株主リスト」の記載内容と大部分で重複するので、同報告書を別添として流用する書式も掲載されている。
なお、施行日の本年10月1日よりも前に株主総会が行われた場合であっても、施行日以降に登記申請をするときは、「株主リスト」の添付が必要なので注意を要する。
(2) 「株主リスト」は商業登記簿の附属書類として閲覧請求することができる(商業登記規則21条[6])。例えば、株式会社の大株主が、自己に株主総会の招集通知が発せられないまま株主総会が開催されたとして株主総会決議の取消し又は不存在確認の訴えを提起するために、会社が自らを当該総会において議決権を行使できる株主であるとして「株主リスト」を登記所に提出しているか否かを確認するため閲覧を申請する場合が考えられる[7]。
以上のとおり、平成28年10月1日以降、株式会社が役員の変更や組織再編といった株主総会決議が必要な事項に関して登記を申請するなどの場合においては、株式会社は添付書面として株主の氏名等を記載した「株主リスト」の提出を要するので実務への影響が大きい。また、「株主リスト」は株主総会決議の取消しの訴え等を提起するにあたっての情報収集に役立つことも期待される。
以上
[1] 「株主リスト」に係る改正箇所は、商業登記規則61条2項・3項、投資法人登記規則3条、特定目的会社登記規則3条。なお、各規則の改正の根拠法令は、商業登記法11条の2、46条及び148条、投資信託及び投資法人に関する法律177条、投資事業有限責任組合契約に関する法律33条、資産の流動化に関する法律183条、有限責任事業組合契約に関する法律73条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律330条、信託法247条、組合等登記令25条。
[2] 法令上の用語ではない。通称、「株主リスト」とされている。
[3] 商業登記規則等の一部を改正する省令案の概要、「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について(法務省民事局商事課)別紙
[4] 例えば、消費者委員会から登記事項の申請を担保すべき旨の指摘がされている。また、会社分割を悪用した刑事事件の発生を受け、登記の真実性を確保すべきである旨の報道もあった(「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について 別紙の22の項参照)。
[5] 虚偽の「株主リスト」が作成されるおそれに対しては、「株主リスト」に株主の氏名及び住所の記載を求めることにより、事後的に当該株主リストの内容の真実性を確認することが可能であり、登記の真実性確保の実効性があると解されている(「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について 別紙の24の項参照)。
[6] 同条も改正対象であるので申請方法について補足する。閲覧申請者は、附属書類の閲覧の申請にあたり、氏名・会社名、住所のほか、請求の目的として「閲覧しようとする部分」を明らかにする必要があり(同規則21条1項・2項)、同部分について「利害関係を明らかにする事由」を記載する必要がある(同条2項3号)。そして、「利害関係を証する書面」の提出を求めることとなった(同条3項2号・新設)。
[7] 『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について 別紙の17の項参照。