◇SH2407◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第17回) 齋藤憲道(2019/03/18)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第3部 さらなるリスク発見と対策が必要な分野
     例えば、「製品の性能・安全の問題」、「秘密情報流出」

(2) 不祥事の例

○ 低脂肪乳による集団食中毒[1]

 大阪の工場で生産された低脂肪乳によって1万人以上の食中毒患者が発生し、工場で中毒の原因(黄色ブドウ球菌)が発見されて、工場は営業禁止処分を受けた(後日、閉鎖)。中毒発生から約2か月後に、大阪工場が使用していた原料(脱脂粉乳)が北海道の工場で生産され、その中に含まれていた基準数以上の菌が増殖したことが原因と判明した。原料工場で、屋根にできたツララが電気室に落下して停電になり、数時間、材料が冷却されずにパイプやタンクに滞留した間に菌が増殖していた。

 この会社の多くの商品(他の乳製品を含む)が中毒発生直後から市場で敬遠され、同社は経営不振に陥った。

〔企業における再発防止策〕
 ①社外取締役の選任、②企業倫理委員会の設置、③社員の変革運動と社内意識改革、④お客様モニター制度の導入等を行って企業体質変革を徹底した。

  1. (注) この会社では、本件に続いて子会社の食品虚偽表示問題(本件とは別)が発覚し、グループのブランド・イメージが毀損されて業績が著しく低迷し、大規模な事業再編・工場売却・人員削減等に追い込まれた。
     

○ 冷凍食品農薬混入[2]

 消費者から、冷凍食品に異臭がするという苦情が複数あり、約1ヵ月半後に、工場で使わない農薬成分が検出された。警察の調べで、会社の待遇に不満を持つ作業員が故意に工場内に農薬を持ち込んで製品に混入した刑事事件であることが判明した。会社が消費者・官庁等に対して行った情報提供が不十分(情報の内容訂正、電話対応窓口の不足等)で社会に不安が広がった。

〔グループ親会社の再発防止策〕
 ①グループ・ガバナンス(危機管理統括等)、②危機管理体制(初期管理等)、③品質保証関連規程の改正等、④意図的な食品汚染を防御、⑤労務問題改善、⑥ブランドの信頼回復(工場見学等)

〔事件が発生した工場の再発防止策〕
 ①フードディフェンス体制の構築(ハード:ICカードで入退場管理、監視カメラ増設等。ソフト:専任チームを設けて具体策を実施)、②工場内の意思疎通の活性化等、③苦情発生時に意図的混入を想定して対応、④早期察知への取り組み

 

○ ガス瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故

 遺族が死因の再捜査を警察に求めたことから警察・経済産業省による捜査・点検等が行われ、昭和60年(1985年)から平成17年(2005年)の20年間に、特定企業のガス瞬間湯沸器が原因(主に、安全装置の不正改造が原因)となって28件の一酸化炭素中毒事故(21名死亡)が発生していたことが判明した[3]

〔メーカーの対応等〕
 当初、メーカーは「サービス会社の不正な修理(改造)が原因であり、メーカー側に問題はない」旨の発言をしたが、世間の厳しい反応を受けてこれを撤回し、「メーカーとしての責任を認める」旨を表明した。
 メーカーは、製品の無償交換を行い、多額の関連広告を行ったが、売上・利益が減少して事業規模は縮小した。

〔行政の措置〕
 経済産業省は、メーカーに立入検査後、消費生活用製品安全法に基づいて点検、回収、消費者への注意喚起等の措置をとるべき旨の緊急命令及び処分等を行った[4]

〔刑事罰[5]
 平成17年(2005年)11月に東京で発生した一酸化炭素中毒事故(1名死亡・1名負傷)について、製造会社の元社長(当時、販売会社会長を兼務)及び元品質管理部長に、点検・回収等の措置を講じなかった過失があるとして、禁固刑(元社長1年6ヵ月、元部長1年)が科された。(両者は、業務上過失致死傷罪、執行猶予3年。なお、他の事故は時効。)

〔法令の改正による再発防止策〕
 ①消費生活用製品安全法を改正して、重大事故を公表することとした。②長期使用製品安全点検制度、及び、長期使用製品安全表示制度を導入した。

 

○ 顧客の個人情報流出[6](不正競争防止法、個人情報保護法)

 業務委託先の元社員(情報への正規アクセス権限が付与されていた)が、大量の顧客情報(姓名、生年月日、住所等)を不正に取得して複数の名簿屋に売却した。流出した企業は、漏洩情報を利用している可能性の高い事業者を把握して利用停止を働きかけ、警察等と協力・連携して情報の拡散防止に努めた。漏洩した顧客には状況を連絡して500円分の金券を用意した。

〔原因、背景〕
 外形的な仕組作りや監査は行っていたが、悪意を持つ内部者の犯行に関して、①情報セキュリティに関する過信、②経営層を含むITリテラシーの不足、③性善説にたった監査、④監視体制の運用、等の甘さがあった。具体的には、外部記憶装置へのデータ書き出し制限機能に盲点があった、大容量データを扱うと警告を発するアラート機能が未設定のデータがあった、アクセスログの定期チェックが行われていなかった。

〔企業の再発防止策〕
 ①事故の直接的原因となったセキュリティの不備項目の緊急対策を実施[7]、②グループ全体の情報管理体制・組織改革(権限・責任を専門部署に集中)、③外部監視機関を新設、④ データ・ベースの保守・運用業務を全てグループ内に取り込み。

〔法律改正[8]
 ①不正競争防止法の「営業秘密侵害罪」の対象に、不正開示と知って転得した3次以降の取得者が使用・開示する行為を追加した。②個人情報保護法に、個人情報データベース等を不正な利益を図る目的で第三者に提供し、又は盗用する行為を処罰する「個人情報データベース等不正提供罪」を新設した。



[1] 2000年6月に大阪で発生した雪印乳業(株)低脂肪乳による集団食中毒事件。

[2] (株)アクリフーズの群馬工場で生産した冷凍食品の中から、工場で使用しない農薬が2013年12月に発見された。

[3] 「パロマ工業株式会社に対する緊急命令による定期報告の終了について」平成19年(2007年)11月9日 経済産業省News Release。28件の事故の内訳(被害合計:死亡21、重体・重傷3、軽傷36)は、安全装置の不正改造による事故15件(死亡18、重体・重傷2、軽傷13)、部品の劣化による事故11件(重体・重傷1、軽傷22)、事故の原因を特定できないもの2件(死亡3、軽傷1)。

[4] 経済産業省は、2006年8月28日付で消費生活用製品安全法82条(現在の39条1項・2項参照)の規定に基づきパロマ工業(株)に点検・回収等を命令した。

[5] 東京地方裁判所判決 平成22年(2010年)5月11日。この判決では、7機種について、昭和60年(1985年)頃から平成13年(2001年)1月4日頃の間に13件の一酸化炭素死傷事故(15名死亡、14名負傷)が発生していたと認定した。(判例タイムズ No.1328 2010.10.1 241頁~284頁)

[6] 2014年に(株)ベネッセホールディングスの完全子会社である(株)ベネッセコーポレーションから顧客個人情報が流出した事件。

[7] ①アクセス権限の見直し、必要最小限の担当者への付与、パスワード管理強化、②端末へのダウンロード監督者の設置、③大量データをダウンロードする際のアラート機能の設置、④業務端末における外部記録媒体との接続禁止措置、⑤アクセスログの監視設定の強化(定期チェック)、⑥執務スペースへの私物である電子機器、記録媒体の持込み禁止、監視カメラ導入

[8] 2015年(平成27年)の改正

 

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