企業内弁護士の多様なあり方(第31回)
第12 中堅弁護士を採用する企業の期待
あおぞら銀行リーガルカウンセル
弁護士 稲 田 博 志
第12 中堅弁護士を採用する企業の期待
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法務部員を中途採用するに際して企業が期待する役割は大きく2つに分かれる。それはマネージャーの役割とプロフェッショナルの役割であり、企業は、そのいずれか又は両方を期待している。
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まずマネージャーとしての役割であるが、部門運営から部下の育成・労務管理等まで、およそ企業の一部門として求められる事項のマネージメントが期待されているといえよう。この点に関する能力は、基本的に個人事業主である弁護士にもともと備わっていると考えるのは難しく、大規模事務所のパートナーもしくは相当年数の企業内弁護士経験者などの一部の例外を除いて、企業が中堅弁護士[1]によせる期待は限定的である。
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次にプロフェッショナルとしての役割であるが、企業はまさに中堅弁護士の「中堅弁護士」たる知識・スキル・経験に期待して採用するといいうる。具体的な期待役割は、企業の業種や組織形態その他当該企業の実態によるところが大きいが、例えば、訴訟が多い企業であればその管理や訴訟代理人となることを期待する場合もあろうし、メーカーであれば製造物責任や知的財産権法等の知識やスキルを、グローバル企業であれば各国の法律実務を取り扱った経験を期待することもあろう。実際は、これらのうち複数の役割を期待する場合が多いと思われる。いずれにしても、弁護士として通常備わっていると期待される紛争処理業務についての基本的な知識に加えて、法律事務所や他企業における幅広い実務経験が中堅弁護士採用の所以であり、さらに、当該企業の実務に見合った専門性を備えていることが望ましい。昨今、法務部門の判断が企業の将来の帰趨を左右しかねない場面も増えていることから[、中堅弁護士とはいえ求められる専門レベルは相当高いといえるだろう。
[1] 新人系弁護士やシニア弁護士と比べて幅が広い概念だが、本稿では、弁護士登録後、3~10年程度の法律事務所又は企業等の組織における勤務経験を有している者を念頭においている。
[2] 昨今の各国の独占禁止法違反事例における課徴金額の大きさや、公務員規制の厳格化、コンプライアンス意識の向上に基づく信用リスクの増大等に鑑みれば、企業活動に伴う法的リスクが事業リスクと比べて必ずしも軽微であるとはいえないだろう。