経団連、年休取得促進に向けた秋の重点取り組みの呼びかけ
岩田合同法律事務所
弁護士 羽 間 弘 善
経団連は、平成28年8月5日、年次有給休暇等の休暇の取得促進策として、以下の3点の事項に取り組むよう、会員企業及び団体に対して呼びかけた。
- ① 年3日程度の追加的な年休の取得
- ② 秋(9~11月頃)に年休と土日・祝日を組み合わせて4連休を作る
- ③ 年休の取得日数が5日未満の従業員が生じないよう取り組む
このうち③年休の取得日数が5日未満の従業員が生じないための取組みについては、国会に提出されている労働基準法改正法案の中に「年休の付与日数が10日以上である労働者に対して、使用者が年5日以上の年休を労働者に取得させる義務」が盛り込まれていることを踏まえたものである。
現行の労働基準法は、労働者が6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するという客観的要件を満たすことによって、10日間の年次有給休暇を取得する権利が発生することを定め(労働基準法39条1項)、また勤続年数に応じて以下の表の日数の年次有給休暇を取得することを認めている(同条2項)。もっとも、これらの権利を行使して年次有給休暇を取得するか否か、また年次有給休暇を取得する場合にいつ取得するかについての決定権(いわゆる時季指定権)については、労働者に与えられている(同条5項)。したがって、現行労働基準法の下では、使用者が年次有給休暇を取得しないことに対して、何ら施策を講じる必要はない。
勤続年数 |
6ヵ月 |
1年6ヵ月 |
2年6ヵ月 |
3年6ヵ月 |
4年6ヵ月 |
5年6ヵ月 |
6年6ヵ月 |
有給休暇 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
これに対し、労働基準法改正法案では、年次有給休暇の付与日数が10日以上である労働者に対して、使用者が年5日以上の年休を労働者に取得させる義務がある旨規定され(労働基準法改正法案39条7項)、かかる義務を怠った場合には30万円以下の罰金が科せられることとなる(法案120条1号)。
すなわち、現行労働基準法では、年次有給休暇の取得は労働者の権利ではあるものの、使用者側に義務を伴うものではなかったが、労働基準法改正法案成立の暁には、年次有給休暇の取得は、労働者の権利であると共に使用者の義務としての側面を持つようになるのである。
そのため、労働基準法改正法案が成立した場合には、使用者は、労働者に年次有給休暇を取得させるという観点から、新たに労働者の年次有給休暇の取得状況について把握・管理することが必要となる。どのような施策を講じて労働者の年次有給休暇の取得状況を把握・管理するかは、会社の規模や業種等によっても異なってくると思われるが、現段階から、各会社において、どのような体制で年次有給休暇を労働者に取得させるか、検討を開始することが望ましい。
なお、労働基準法改正法案の成立時期については、現時点で具体的な見込みは立っていないものの、平成28年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」では労働基準法改正法案の早期成立を図ることが明記されており、近い将来に改正法が成立する可能性は高いと思われる。
以 上