流通販売業に対する外資規制に関する重要な改正(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
ベトナムでは、昨今の日系のコンビニエンスストアやショッピングセンター・デパートの出店に見られるように、小売をはじめとする流通販売分野における日系企業の進出が増加傾向にある。他方で、小売の二店舗目以降の出店時に課される経済合理性テスト(ENT)に象徴されるように、同分野に対する外資規制は依然として残っており、実務上、日系企業が進出を検討する上で問題となることが多い。本年1月15日付けで成立し、同日施行された政令09/2018/ND-CP号(以下「政令09号」)では、こうした流通販売業に対する外資規制に関し、様々な改正がなされている。本稿では、こうした改正のうち、実務上重要と思われる点について、2回に分けてご説明したい。
流通販売ライセンスの取得を要する取引
旧法(政令23/2007/ND-CP号)では、外資系企業が従事する場合に流通販売ライセンスの取得を要する事業は、輸出業、輸入業に加え、卸売業、小売業などの流通販売業全般とされていた。しかし、政令09号では、流通販売ライセンスの取得を要する事業から、輸出業は除かれ、卸売業についても油・米・砂糖・書籍など所定の物品を対象とする場合に限定して流通販売ライセンスの取得が必要とされている。他方、政令09号では、物品のリース業、Eコマース事業など、小売業や卸売業以外の事業についても明示的に流通販売ライセンスの取得を要する事業として列挙されている。旧法の下では、こうした事業の多くは、条文の解釈上はともかく、少なくとも実務的には販売流通ライセンスの取得を要しないものと扱われたケースが多かったように思われる。新法の下では、法令上明示的に販売流通ライセンス取得を要する事業として規定されている以上、実務的な取扱いも、販売流通ライセンスの取得を要する取扱いに変更される可能性が高いであろう。
外資規制の適用対象となる外資系企業
旧法では、外国企業が出資するベトナム企業(以下「ベトナム子会社」)は、外国企業の出資比率を問わず「外資系企業」として流通販売に対する外資規制の適用対象となり、また、かかるベトナム子会社がさらに出資してベトナム国内で設立する企業(以下「ベトナム孫会社」)については、政令23号上は規定がなく、その取扱いが必ずしも明確ではなかった。政令09号においても、ベトナム子会社は、外国企業の出資比率を問わず「外資系企業」として流通販売に対する外資規制の適用対象となるが、ベトナム孫会社やベトナム曾孫会社については、ベトナム子会社の持分の51%以上を外国企業が保有する場合など、投資法23条1項(b)(c)に規定される場合に限定して政令09号の外資規制が適用されることが明記された。その結果、実務的に問題とされることが多い小売の二店舗目以降の出店時に課される経済合理性テストについても、日本企業の出資比率が51%未満のベトナム子会社を通じて設立したベトナム孫会社など、上記条件に該当しない法人には適用されないことが確認された点には一定の意義があるように思われる。
流通販売する物品のHSコードによる特定の要否
旧法(通達08/2013/TT-BCT)の下では、流通販売ライセンス上、例外的な場合を除き、流通販売することができる物品がHSコードによって特定されていた。しかし、流通販売ライセンスの変更申請には月単位の時間を要することも多い中で、新製品の取扱いを開始する都度、HSコードが異なれば流通販売ライセンスの変更をしなければならない負担は実務上非常に重く、HSコードによる物品の特定については見直しを求める声は強かった。政令09号では、流通ライセンス上に規定される事項として「流通販売される物品」は挙げられているが、その内容としてHSコードによる特定がなされるのか否かについては規定が見当たらない。今後どのような運用がなされるのか見守る必要がある。
(2)につづく