◇SH2758◇英文契約検討のViewpoint 第11回 複雑な英文契約への対応(10)(中) 大胡 誠(2019/09/05)

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英文契約検討のViewpoint

第11回 複雑な英文契約への対応(10)(中)

柳田国際法律事務所

弁護士 大 胡   誠

 

 複雑な英文契約への対応

(8) 主要各国の法律への対処

 ③ 大陸法系国について

 大陸法はヨーロッパの国々が、ローマ法[265]を継受して形成したものである。そのため、civil Lawと呼ばれる。その継受の仕方の違いや近代国家形成期における各国の対応の違いによって、現代における各国の差異が生じている。整理された体系に沿った制定法が法源の中心であるため、多くの国に継受された。ヨーロッパについては、大陸法をさらに、ロマン法群(フランス、ベルギー、ルクセンブルク、イタリア、スペイン、ポルトガルなど)とドイツ法群(ドイツ、スイス、オーストリア、ギリシャなど)に分類される。また、ラテンアメリカ諸国も大陸法系に属するとされている。大陸法は、このほか、日本や韓国、中国にも継受されている。以下においては、大陸法の中心国2つと、今後ビジネスにおいて一層重要性を増すであろう中国の法制史について一瞥する。

 中世において、フランスもローマ法を継受しているが、慣習法の編纂が進んでいたこと、政治的に神聖ローマ帝国と対峙し、法制面でも独立性を維持する必要のあったことなどから、その継受は中間的(イギリスとドイツの間)であったと評価されるようである。フランスの法制史(私法)の最大の成果は、絶対王朝と大革命による第一共和政その後のナポレオンによる政権奪取を経た後の1804年の民法典(ナポレオン法典)の制定であろう。この後、フランスの国家体制は、帝政、共和政を変転し、第二次大戦後においても第四共和政から第五共和政への移行があったが、同民法典は改正を受けつつも命脈を保っている。日本の民法の制定にも影響のあったことは知られている。ドイツ法からの影響も受けた日本の民法との違いの一つは、その構成にある。序章、第1編(人)、第2編(財産および所有権の様々な変容)、第3編(所有権を取得する様々な態様)という構成になっており、ユスティニアヌス式と呼ばれる編別方式に沿うもので、ドイツや日本のパンデクテン式とは異なる[266]

 ドイツは中世以降多くの国が分立していたが、神聖ローマ帝国として緩い連合状態にあった。15世紀ころからローマ法の継受がなされ、やがてローマ=カノン法(カノン法とは教会法のことである)が帝国の普通法となった。ドイツがローマ法を全面継受したといわれる所以である。18から19世紀においては、バイエルン、プロイセン、オーストリアで民法典の編纂がなされた。民法典が統一を見たのは、プロイセンを中心としたドイツ帝国が成立した後の1896年である(施行は1900年)。以降、第一次大戦後にはワイマール共和国が成立、第二次世界大戦、冷戦、東西ドイツの再統合に至った歴史はここで指摘するまでもない。現在のドイツは連邦国家であり、連邦法と州(ラント)法の2つの系列を有している。ドイツにおいては、2001年に民法の大改正が行われた(施行は2002年)。この改正は直接的にはヨーロッパ共同体指令を国内法化する必要に応じたものであるが、併せて給付障害法等に関する改正が行われた 。[267]

 中国においては[268]、清朝末期から大陸法を継受し、中華民国において一応の近代的諸法の制定をみたが、中華人民共和国成立後、これらは廃棄され、ソ連法を継受しつつ新たな立法が試みられた。その後の文革期においては、法制度は著しく後退したが、その混乱の収束後、再びソ連法を継受した国内法(民法通則、経済契約法[269]など)の整備が進められた一方、特に経済の開放に関する分野においては、欧米の法制度を勘案した対外経済法諸法(中外合弁経営企業法(1979年)、外資企業法(1986年)、中外合作経営企業法(1988年)[270]、渉外経済契約法(1985年、1999年に廃止))が国内のみに適用される法律とは切り離して制定された。さらに中国において経済開放が一層促進された1992年以降においては、ソ連法の影響からは脱出して大陸法への回帰が顕著で、1993年に会社法[271]が、1999年においては契約法[272]が制定された。同法は、契約自由の原則に立脚するものである。2001年のWTO加盟後においては、物権法、不法行為法などの制定がなされた。引き続き、反壟断法(独占禁止法)(2008年施行)などが制定されたほか、近時においては、2017年に民法総則の制定と施行がなされている。同国においては、2020年3月を目標として統一的な民法典の編纂を計画している[273]

 なお、中国の法令には、(ⅰ)法律、(ⅱ)行政法規、(ⅲ)地方性法規、(ⅳ)少数民族自治区の立法、(ⅴ)行政規則がある。行政法規とは、日本流の行政に関する法令のことではなく、国務院が憲法および法律に基づいて制定する法規である(立法法65条1項)。一般的に、「条例」との名称が付されている。行政規則は、国務院の部や委員会など(省クラスの人民政府なども含まれる)が当該部門の権限内で制定するものである。地方性法規は、文字どおり、省クラスなどの人民代表大会や常務委員会が制定する法規である。これは、憲法、法律、行政法規には抵触できない[274]

 大陸法系の国については、日本法と類似性が高く、大陸法系の国の法律が準拠法になっているときには見通しが立てやすいように感じるが、いくつかの違いは免れない。たとえば、上述した中国の契約法の107条について、同条の規定する債務不履行は債務者の故意または過失を要さない厳格責任であるとされている [275]。日本の民法も債権法の改正(改正415条)によって過失責任原則からは離れることとなるが[276]、少なくとも、現行の日本の民法と中国の契約法とは異なる。

 ④ EU法について

 EU(欧州連合)は、国ではないが、現在において加盟国の法制に大きな影響を及ぼしているのみならず、EU外の国々の企業活動にも影響している(さらにはEU外の国々の立法にも影響を与えている)。多少なりともEU加盟国に関連する契約を検討する場合には、EUの法制を考慮する必要があろう。

 EUは、現時点において、欧州連合(EU)条約(the Treaty on European Union(TEU))とEU機能条約(the Treaty on the Functioning of the European Union(TFEU))とを基本的な条約としているが、ここに至るまで、そのもととなった1951年4月の欧州石炭鉄鋼共同体(the European Coal and Steel Community(ECSC))条約以来、紆余曲折を経ている。ECSC条約以降、大雑把に加盟国間で締結されてきた条約とその年代を追うと、1957年欧州経済共同体(EEC)条約、同年欧州原子力共同体条約1986年単一欧州議定書、1992年TEU(マーストリヒト条約)、1997年アムステルダム条約、2001年ニース条約、2007年リスボン条約、となる。EEC条約で欧州経済共同体が、マーストリヒト条約で今日のヨーロッパの通貨であるユーロの創設が合意されたものの、ニース条約に引き続き構想された欧州憲法条約(2004年署名)は批准に至らず、これを焼き直してリスボン条約でTEUの修正とTFEUに関する合意に至ったものである[277]

 EUにおいては、TEUおよびTFEUに基づく派生法(または二次法)と呼ばれる、(ⅰ)規則(regulations)、(ⅱ)指令(directives)、(ⅲ)決定(decisions)、(ⅳ)勧告(recommendations)および意見(opinions)が大きな役割を果たしている。TFEU288条によれば、規則は、一般的に適用され、加盟国において直接適用される(すなわち、国内立法を必要としない)。これに対して、指令は、加盟国を拘束するが、加盟国当局にその形態と方法の選択を認めている(従って、国内の法律などが必要となる)。決定は、その名宛人を拘束する。決定に名宛人がない場合は、対象が一般的となる。勧告、意見には拘束力はない。しかし、加盟国の関係機関はこれを考慮することとなるであろう[278]

 EUは、上記の規則や指令を通じて、加盟国の法制にも影響を与えている。以前言及した準拠法に関するRomeⅠ規則、RomeⅡ規則、RomeⅢ規則(1142号81頁および脚注153参照)や上述の近時におけるドイツ民法改正などはその例である。また、EUにおいては、製造物責任指令(Council Directive of 25 July 1985 on the approximation of the laws, regulations and administrative provisions of the Member States concerning liability for defective products)や消費者権利指令(Directive 2011/83/EU of the European parliament and of the Council of 25 October 2011 on consumer rights, amending Council Directive 93/13/EEC and Directive 1999/44/EC of the European parliament and of the Council and repealing Council Directive 85/577/EEC and Directive 97/7/EC of the European Parliament and Council)などの指令を通じて消費者保護の分野で加盟国の法制の調和が図られてきたことが指摘されている[279]

 なお、EUは、1991年、欧州自由貿易連合(European Free Trade Association(EFTA))加盟国のうちアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーと欧州経済地域協定(the Agreement on the European Economic Area(EEA Agreement))を締結し、これらの国も、商品、サービス、人および資本の移動の自由に係るEUの立法に対応することに合意した[280]。同協定は、1994年に発効した(EU加盟国と上記の三国の地域を欧州経済地域(EEA)という)。従って、EU加盟国ではないが、上記の三国に係る契約を検討する際には、EU内の規制が関係しないか確認を要する。

つづく



[265] ローマ法は3世紀ころに頂点に達したが、西ローマ帝国滅亡後、6世紀、東ローマ皇帝ユスティニアヌスが編纂した法典に集大成された。この法典も、中世初期の混乱の中で長らく失われていた。しかし、11世紀末以降、イタリアのボローニャ大学などで研究がなされ、ローマ法は、中世ヨーロッパ各地に広まり、大陸各国に近代に至るまで影響を与えた。ピーター・スタイン著(屋敷二郎監訳、関良徳=藤本幸二訳)『ローマ法とヨーロッパ』(ミネルヴァ書房、2003)参照。

[266] 以上、滝沢正『フランス法』(三省堂、2018)33~54頁、77~84頁、292~301頁参照。なお、同民法の条文については、https://www.legifrance.gouv.fr/を参照。フランス語のほか、英語も選択できる。

[267]ドイツ法の歴史については、村上淳一、守矢健一、ハンス・ペーター・マルチュケ『ドイツ法入門 改訂第9版』(有斐閣、2018)10~25頁参照。本文記載の民法の改正については、同書149~152頁、158~159頁参照。なお、同民法はその後も改正を受けている。ディーター・ライポルト著、円谷峻訳『ドイツ民法総論 第2版』(成文堂、2015)訳者まえがき、補遺Ⅱ(548頁)参照。現行の民法条文については、http://www.gesetze-im-internet.de/bgb/index.html でドイツ語版を読め、同ページで英語も選択できる。和訳については、山口和人『ドイツ民法Ⅰ』および『ドイツ民法Ⅱ』(国立国会図書館、2015)がある。

[268] 中国の法律は古代以来の長い歴史を有することは周知のとおりであるが、本稿では近代以降の欧米の法律の影響を受けてからの経緯のみ記す。なお、この中国に関する箇所については、主に高見澤麿=鈴木賢=宇田川幸則『現代中国法入門〔第7版〕』(有斐閣、2016)25~27頁、31~32頁、41~47頁、49~54頁を参照した。

[269] 同法は、1981年に立法され、「契約」と記されているものの、社会主義計画経済実現のための実現手段として経済契約という概念を用いるもので、西側で一般的な契約とは異なる。高見澤ほか・前掲注[268]43頁参照。

[270] 上記3つの企業法は三資企業法(または外資三法)と呼ばれている。なお、2019年3月に外商投資法が成立し、2020年1月から施行される。これにより三資企業法は廃止される。住田尚之「中国外商投資法の解説」国際商事法務47巻5号(2019)545頁参照。

[271] 会社法制定以来、国有企業なども会社法所定の有限責任会社に転換をした例が多いと指摘されている。中国において企業は所有形態に応じて個別の法律の適用を受けるほか(たとえば、全国人民所有制企業法や三資企業法(前掲注[270]参照)など)、企業が会社形態をとる場合には、これに加えて、会社法の適用を受ける。高見澤ほか・前掲注[268]190頁、191頁参照。なお、会社法の施行状況の評価につき、田中信之編『最新 中国ビジネス法の理論と実務』(弘文堂、2011)11~21頁参照。会社法はこの後も改正が行われている(1999年、2004年、2005年、2013年)。また、外商投資法施行により三資企業法が廃止になることは上記のとおりであり、これにより、中国の会社組織に係る定めは内外資とも会社法に基づくこととなる。住田・前掲注[270]]545頁参照。

[272] この契約法ができるまで、上記経済契約法、渉外契約法および技術契約法(1987年)が並存し、三足鼎立といわれていたが、この契約法により統一され、「経済契約」(前掲注[269]参照)を廃止した。

[273] 白出博之「中国民法総則の制定について(1)」ICD NEWS 78号(2019年3月)44~48頁参照。

[274] なお、判例および最高人民法院、最高人民検察院の「司法解釈」も重要である。以上、高見澤ほか・前掲注[268]106~111頁参照。

[275] 王利明著、小口彦太監訳、胡光輝、但見亮、長友昭、文元春訳『中国契約法』(早稲田大学出版部、2017)285~287頁参照。

[276] 潮見・前掲注[127]376~379頁参照。

[277] 以上、庄司克宏『新EU法 基礎編』(岩波書店、2018)11~21頁参照。

[278] 以上、庄司・前掲注[277]209~213頁、 五十嵐ほか・前掲注[252]348~350頁参照。なお、加盟国の超過債務については、理事会がまず加盟国に勧告を出して、加盟国がそれに応じない場合、理事会が必要な処置をとる場合がある。その意味で、勧告に法的拘束力がないことの例外とも言いうる。CATHERINE BARNARD, STEEVE PEERS ed., European Union Law, 2nd, (Oxford University Press, 2017), pp.102参照。

[279] 五十嵐ほか・前掲注[252]350~353頁参照。

[280] ただし、EUの共通農業政策、関税同盟、共通貿易政策、共通外交。安全保障政策、司法・内務事項、直接・間接税、経済通貨同盟はEFTAのこれらの国をカバーしない。EEA Agreementについては、https://www.efta.int/eea/eea-agreement(特にその中のHow EU acts become EEA acts and the need for adaptions, The two-pillar structure of the EEA: incorporation of new EU legal acts,およびThe two-pillar structure of the EEA: surveillance and judicial control)を参照。

 

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