◇SH0805◇企業内弁護士の多様なあり方(第35回)-特別付録「外部弁護士から見た企業内弁護士」(下) 矢部耕三(2016/09/21)

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業内弁護士の多様なあり方(第35回)

特別付録「外部弁護士から見た企業内弁護士」(下)

ユアサハラ法律特許事務所

弁護士・弁理士 矢 部 耕 三

 

(承前)

 確かに、外部弁護士が法律家として当事者の企業活動から一歩離れたところより客観的かつ中立的に法的評価を下すのは重要である。しかし、前提として把握すべき企業活動の正確な理解や、そこで起きうる法的リスクの在り様について緻密に理解するためには、企業活動が対象としている分野と問題に関わるためのより広い視野(経済、経営、技術など)が必要であろう。

 例えば、労働問題や破産・会社更生、知的財産権などの分野では、既に企業内弁護士によって一般的な問題は整理され、選択肢は見えていることが多い。そこで、より専門的な知識や経験的判断を求められるのは、外部弁護士の仕事としても普通のことになりつつある。

 こういう状況でありながら、企業を依頼者とする案件は全て「企業法務」と思っているようでは、外部弁護士が企業内弁護士との間で協働関係を作ることは難しい。弁護士自らが経済状況の中での具体的な企業活動を理解し、最終的な企業の意思決定がどうなるかを想定して、法的アドバイスや代理業務を行うという意識が求められている。

 例えば、個別の法律的紛争リスクを事前に予測してこれを防ぐという意味における予防法務をサポートすることは、外部弁護士として基本的に必要な能力である。しかし、このような予防法務というだけでなく、企業活動が法務リスクをとりながらも、これをコントロールして違法な行為に陥らないようにするための総合的・一般的方策を積極的に考える場面にも、外部弁護士が企業内弁護士の要請に応えていく必要が出てきている。また、従来存在しなかったような取引スキームや基本的な契約書の立案を新たなサービス提供のための法務という部分でも、同様であろう。

 この部分は、実際、企業内弁護士でも相当程度できることであるし、外部弁護士では社内情報については疎遠であることが多いから、そもそもこれに関わることは無理だと考える向きもあるかもしれない。しかし、外部弁護士といえども当該企業にとってのより長期的に見た戦略的な法務リスクのコントロールについて、当事者である企業内にいる人々と意識共有ができるような努力をすべきではないだろうか。それができるようならば、企業内弁護士と外部弁護士は、単なる委任者と受任者というだけでなく、相互に良き「同僚」となりうると思われる。

 しかしそうなるためには、企業活動として営利追求の最大化という課題を実現しつつも、違法でなくかつ社会的に評価される企業活動とがトレードオフの関係にならないようなバランスを求めて、知恵を絞るという企業内弁護士の活動に、外部弁護士自らが能動的に参加しようとする意志と能力の開発が必要である。

 企業活動をより深く理解しつつ、弁護士としての能力を培うということになれば、時に外部弁護士から企業内弁護士になり、また外部弁護士としての立場に戻るという「回転ドア」のようなキャリアを経験するのも良いであろう。本当に資格の有無は企業内法務において違いをもたらさないか、自ら経験し、考えてみるのである。かかる地道な積み重ねが、企業内弁護士と外部弁護士の経験値の共有化を促進するのではないだろうか。

 

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