◇SH0430◇最三小判 平成27年5月19日 手数料還付申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(木内道祥裁判長)

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 本件は、使用者を相手に雇用契約上の地位の確認等を求める訴訟を提起した申立人が、同訴訟において労働基準法26条の休業手当の請求及びこれに係る同法114条の付加金の請求を追加する訴えの変更をした際に、当該付加金の請求に係る請求の変更の手数料として4万8000円を納付した後、付加金の請求の価額は、民事訴訟法9条2項(果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない旨を定める。)により、訴訟の目的の価額に算入しないものとすべきであるから、この手数料は過大に納められたものであるとして、民事訴訟費用等に関する法律9条1項に基づき、その還付の申立てをした事案である。

 

 本件の原々審及び原審は、労働基準法114条の付加金は民訴法9条2項にいう果実、損害賠償、違約金又は費用に当たるとは解されず、付加金の請求について同項の適用はないから、その価額は訴訟の目的の価額に算入するのが相当であるとして、還付の申立てを却下すべきものとした。これに対して、申立人が許可抗告を申し立てたところ、抗告が許可された。

 

 最高裁判所第三小法廷は、労働基準法114条の付加金の請求については、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれ、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されない旨判示し、原決定を破棄し、原々決定を取り消して、申立人に対し4万8000円を還付する決定をした。

 

 付加金について定める労働基準法114条は、労働者に対する休業手当の支払を義務付ける同法26条など同法114条に掲げる同法の各規定に違反してその義務を履行しない使用者に対し、裁判所が、労働者の請求により、同法114条に掲げる各規定により使用者が支払わなければならない休業手当等の金額についての未払金に加え、これと同一額の付加金の労働者への支払を命ずることができる旨を定める。
 そして、この付加金の性質について、学説においては、①使用者に対する罰則と同様の一種の公法的な制裁であるとする見解、②一種の民事的制裁であるとする見解、③労働者の被った損害についての法定の賠償金又は損害賠償の予定であると解する見解、④公法的制裁としての性質と損害賠償的な性質を併有するものであると解する見解などがみられる。他方、裁判例としては、最二小判昭和51・7・9集民118号249頁が、「労働基準法114条の付加金の支払義務は、労働契約に基づき発生するものではなく、同法により使用者に課せられた義務の違背に対する制裁として裁判所により命じられることによって発生する義務である」として、一種の制裁としての性質を有する旨の説示をしているものの、この裁判例も、付加金が損害賠償的な性質を有することを否定する旨を述べたものとまでは解されず、また、これ以外に付加金の法的性質を明示した最高裁判所の裁判例は見当たらない。

 

 本決定は、まず、民訴法9条2項の規定の趣旨につき、訴訟の附帯の目的である果実、損害賠償、違約金又は費用の請求の当否の審理判断については、その請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに鑑み、その価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとして、管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準を簡明なものとするというものであると判示した。同項の趣旨については、同項掲記の請求に係る請求の価額は、例えば元本の支払済みに至るまでの利息や遅延損害金を請求する場合のように、その算定が困難な場合があることから、訴額算定の煩雑さを避けるために不算入とするものであるといった説明がされてきた。しかしながら、同項は、請求の価額の算定が困難な場合に限らず、上記の請求につき訴訟の附帯の目的であるときは一律にその価額を訴訟の目的の価額から除外する旨を定めているのであり、このことからすると、同項の趣旨を、請求の価額の算定が困難な場合に、果実、損害賠償、違約金又は費用の請求の価額を訴訟の目的の価額に算入しないとするものであると解するのは相当ではない。むしろ、同項は、これらの請求が訴訟の附帯の目的であることから訴訟の目的の価額に算入しないものとする趣旨の規定であると解するのが、その規定の内容に沿うものと考えられるところである。本決定は、このような観点から、同項の趣旨について前記のように解したものと思われる。
 そして、本決定は、労働基準法114条の付加金について、休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対して、労働者の保護の観点から、上記のような使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことによりこれらの規定の実効性を高めようとする趣旨を有することに加え、付加金が使用者から労働者に対して直接支払うよう命ずべきものとされていることからして、使用者による休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の塡補という趣旨も併せ有するものということができる旨判示した上、付加金の支払を命ずることの当否の審理判断は労働基準法114条所定の未払金の存否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われるものといえるから、前記のような付加金の趣旨も踏まえると、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされる付加金の請求について、その価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとすることが民訴法9条2項の趣旨に合致するものということができるとして、上記の付加金の請求の価額は訴訟の目的の価額に算入しないとの結論を導いたものである。

 

 ところで、付加金の請求の価額を訴訟の目的の価額に算入するかどうかについては、従前、裁判所によりその取扱いが事実上分かれていたところであったが、本決定が、付加金の請求の価額は訴訟の目的の価額に算入されない旨の判断を示したことにより、従前は付加金の請求の価額を訴訟の目的の価額に算入する取扱いをしていた裁判所においても、今後は、訴訟の目的の価額に算入しない取扱いが採られ、各裁判所において統一的な取扱いが行われるようになるものと思われる。

 

 本判決は、労働基準法114条の付加金の趣旨及び民訴法9条2項の趣旨を踏まえ、労働基準法114条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされる付加金の請求は、民訴法9条2項の損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとしてその価額は訴訟の目的の価額に算入されないとの判断を示したものであり、理論上も実務上も重要な意義を有すると思われる。

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