◇SH0893◇日本企業のための国際仲裁対策(第14回) 関戸 麦(2016/11/24)

未分類

日本企業のための国際仲裁対策(第14回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第14回 国際仲裁手続の序盤における留意点(8)-被申立人の最初の対応その5

8. 反対請求の申立て

(1) 申立書の記載事項等

 反対請求(counter claim)とは、訴訟における反訴に相当するもので、被申立人が申立人に対して、逆に請求をするというものである。

 反対請求申立書の記載事項は、例えば、ICCの仲裁規則では以下のとおりとなっている(5.5項)。なお、反対請求申立書は、答弁書とまとめて、1通の書面として提出することもできる。

  1. ① 反対請求申立てに至る紛争の性質及び状況並びに反対請求申立ての根拠の記述
  2. ② 求める救済の内容(金銭的請求については請求額、その他の請求については可能な範囲で金銭的価値の見積も付す)
  3. ③ 関係する全ての契約、特に仲裁合意
  4. ④ 反対請求申立てが複数の仲裁合意に基づいてなされる場合には、それぞれの請求の根拠となる仲裁合意

 また、被申立人は、反対請求申立書とともに、書証(Exhibit)を提出することができる(5.5項)。

 反対請求についても、根拠となる仲裁合意が必要である。そのため、上記③のとおり、仲裁合意が、反対請求の申立書の記載事項となっている。仲裁合意の有無は請求毎に判断されるため、申立人の請求について仲裁合意が認められたとしても、被申立人の反対請求について仲裁合意が認められるとは限らない。

(2) 反対請求申立ての手続

 ICCの仲裁規則の下では、反対請求申立書は、答弁書と併せて提出されなければならない(5.1項)。したがって、その提出手続は、第10回において述べた、答弁書の提出手続に従うことになる。

 反対請求を申立てる期限は、答弁書の提出期限と同様であり、被申立人の申立書受領日から、ICC 及びHKIACの場合30日以内(ICC規則5.1項、HKIAC規則5.1項)、JCAAの場合4週間以内(19条1項)、SIACの場合14日以内(4.1項)である。

 但し、答弁書の提出期限については、第10回で述べたとおり、延期の余地がある。

 もっとも、仮に期限が延長されたとしても、手続の最初の段階で反対請求を申し立てる必要があることに変わりがない。この点で、日本の民事訴訟における反訴が、著しく訴訟手続を遅滞させることがなければ、口頭弁論の終結に至るまで提起可能であること(146条1項)と異なっている。

(3) 反対請求を申立てるか否かの判断 

 反対請求の多くは、申立人からの仲裁提起があったことから、被申立人が仲裁手続で請求を行うというものである。換言すれば、申立人からの仲裁提起がなければ、あえて仲裁提起をしてまで請求をすることはなかった、というのが多くの反対請求である。

 被申立人としては、反対請求を申し立てる際に、申立人に対するプレッシャーとなり、和解交渉が有利に進められることを期待するかもしれない。しかしながら、筆者の経験からは、根拠の弱い反対請求は、申立人に対するプレッシャーとはならず、かえって仲裁人に対する印象を悪くする可能性があるため、避けた方がよいと考えている。やはり、反対請求を申し立てるか否かの判断において基本となるのは、請求が認められるだけの十分な根拠があるか否かであり、この点を慎重に検討するべきである。

 

9. 簡易手続の申立て

 簡易手続(expedited procedure)の申立ては、被申立人の最初の対応の一つではあるが、申立人からも申し立てることができる。そこで、次回に独立した項目として、解説することとする。

 

10. 担保提供の申立て

(1) 意義及び手続

 担保提供(security for costs)の申立ては、仲裁廷の命令によって、相手方当事者に担保として一定額の金銭を提供させることを求めるものである。この申立てを行うのは、通常、被申立人である。

 被申立人が仲裁手続で勝訴した場合、申立人に対して諸費用の請求が認められることが通常である。この費用には、仲裁人の報酬等の仲裁機関に納めた費用のほか、被申立人が自らの弁護士に支払った報酬等も含まれうる。このような費用請求に備え、予め申立人に、相当額の金銭を担保として提供させ、後日被申立人が申立人に対する費用請求をした場合に、確実に回収が行えるようにするというものである。

 この申立てが認められると、申立人は所定の担保(金銭)を提供しない限り仲裁手続が進められないこととなる。また、仮に申立人が所定の担保(金銭)を提供できなければ、そこで仲裁手続は終了となり、被申立人としては最高の決着となる。

 担保提供の申立ては、仲裁廷に対する申立てによって行われる。これを認めるか否か、認めるとして担保の額をどの程度とするかは、仲裁廷の裁量である。

(2) 担保提供の申立てを行うか否かの判断

 以上のとおり、担保提供の申立ては、認められれば申立人に対するプレッシャーとなり、また、場合によっては仲裁手続を終わらせる可能性もある。訴訟手続に関しては、英国法系の国の裁判所において、原告が外国人である場合に、被告の申立により原告に対する担保提供がしばしば命じられているが、国際仲裁においてはそこまでは認められていない。HKIACが発行している「Hong Kong Arbitration 100 Questions and Answers[1]」においても、担保提供の申立てに言及しているところがあるが、これにも、担保提供の申立は、国際仲裁においては、訴訟ほどには認められていないと記載されている(23頁)。

 実際、全ての仲裁機関の規則において、担保提供の申立てについて明示的に定めている訳ではない。明示的に定めているのは、SIAC及びHKIACである(SIAC規則27項j、HKIAC規則24項)。ICCの規則上は明示的な規定がないため、暫定措置(interim measures)に関する概括的な規定(28.1項)を根拠に、暫定措置の一つとして担保提供が命じられることがあるようであるが、あまり一般的ではない。

 いかなる場合に担保提供の申立てが認められるかであるが、上記「Hong Kong Arbitration 100 Questions and Answers」によれば、ポイントとなるのは、申立人の経済的基盤があまりにも弱く、仮に仲裁判断において被申立人への費用支払を命じられたとしても、申立人がこれを支払えないと想定されるか否かである(23頁)。訴訟手続における担保提供の申立においては、原告が外国人であるか否かがポイントとなるが、国際仲裁では上記がポイントとなる。この点の主張及び立証の見通しがある場合には、被申立人において、担保提供の申立を行うことを検討することになる。

以 上

 


アンカー[1] HKIACのホームページで入手可能である。
  http://www.hkiac.org/sites/default/files/ck_filebrowser/PDF/arbitration/100%20QnA.pdf

 

タイトルとURLをコピーしました