ベトナム:2017年1月からの最低賃金とその適用上の注意点
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナムでは、2016年11月14日、2017年1月1日から適用される最低賃金を定めた政令153/2016/ND-CP号(「政令153号」)が公布されました。その内容及び注意点は以下の通りです。
(1) 最低賃金の金額
政令153号によれば、2017年1月1日から適用される最低賃金は、以下のように定められています(政令153号3条1項)。
第1地域 | 第2地域 | 第3地域 | 第4地域 | |
月額 (VND) | 3,750,000 | 3,320,000 | 2,900,000 | 2,580,000 |
前年比上昇率 | 7.1% | 7.1% | 7.4% | 7.5% |
第1地域-第4地域は、全国の都市化の程度に従って区分されており、第1地域が最も都市化が進んだハノイ市及びホーチミン市の中心部などとなっています。なお、今回Ba Ria-Vung Tau省、Thai Nguyen省、Quang Nam省、Tra Vinh省の一部の地域で区分けの変更(最低賃金が高い区分への格上げ)が行われているため、ご注意ください。
(2) 最低賃金の適用に関する注意
- ① 労働法90条では、「賃金」とは、「業務を行うために、雇用者が労働者に支払う金額」であると定義し、「給与、役職手当、補助及びその他の手当を含む」としながらも、そのうちの「給与」について、政府の定める最低賃金を下回ってはならないとしています。すなわち、最低賃金は、手当などを除く基本給の部分についての最低限度額を定めているものと理解されます。最低賃金が上がったからといって、基本給をそれに合わせて上げる代わりに既に合意されている手当や補助を減額することは禁止されています(政令153号5条4項)。
- ② 政令153号は、労働契約により従業員を雇用する企業すべてを対象としています(同政令2条)ので、最低賃金は、期間の長短を問わず、労働契約に基づいて勤務するすべての従業員に適用されます。
- ③ 労働法では、最低賃金は月、日、時間毎及び地域、産業別に定められるべきとしています(労働法91条1項)。しかし、政令153号で定められているのは、地域別の月給の金額だけで、日給や時間給で働く従業員や、パートタイムで働く従業員に対する給与が最低賃金を満たしているかどうかをどのように計算するかについては明確な基準がありません。
- ④ 最低賃金は、「通常の労働条件で最も単純な業務を行う従業員に支払われる最低の金額であり、従業員及び彼らの家族の最低の生活需要を保証できるように設定されるもの」と定義されています(労働法91条1項)。このため、「最も単純な業務」よりも高度な業務を行う従業員に対しては、最低賃金よりも高い賃金の支払が必要とされます。具体的には、職業訓練を終え、当該訓練で習得した業務に従事する従業員に対しては、適用される地域別最低賃金に7%を加えた金額が、最低賃金として適用されることになっています(政令153号5条1項b号)。この「職業訓練を終え」という部分については、当局の担当者によっては、試用期間を終えた時点で直ちにこれに該当するという解釈をする場合もあるようです。しかし、政令153項では、「職業訓練を終え」たと言える場合を同政令5条2項に列挙しています。ここには、例えば職業訓練校の卒業資格や大学、短大の学位を有する場合などが挙げられ、最後の項目に、雇用者から研修を終えたことを要求する業務に配置され、その確認を受けた場合というものが挙げられています。これらからすると、単に試用期間を終えれば全て「職業訓練を終え」たものとする解釈は不合理であると思われます。