◇SH1268◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(2)-問題認識① 岩倉秀雄(2017/07/04)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(2)

――問題認識①――

経営倫理実践研究センターフェロー

 岩 倉 秀 雄

 

 最近、組織のコンプライアンス(倫理・法令遵守)が、また揺らいでいる。

 今世紀初頭、大・小さまざまな企業で不祥事が頻発し、コンプライアンスが社会問題として注目を浴びた。それから一定期間が経過し、コンプライアンス・CSRの担当者からは、「組織のコンプライアンス態勢は確立された。これからは本業に根ざしたSR(CSV)経営だ。」との声が聞こえるが、不祥事の発覚も相変わらず続いている。

 たとえば、先進的ガバナンス体制を評価されていた大手電機メーカーの不正会計問題、信頼回復に取り組んでいた自動車メーカーの燃費不正問題、直近では、有名大企業の子会社の海外法人の不正会計処理問題が、注目を浴びている。

 不祥事を調査した第三者委員会は、「組織風土(文化)[1]に問題があった」と指摘するが、どうすれば組織風土(文化)を革新できるのかの提言はない。

 

 組織には、その組織独特の価値観やモノの見方である組織文化がある。組織論では、組織文化はキラーコンセプトで、優れた企業には優れた組織文化があることは、『エクセレントカンパニー』や『ビジョナリーカンパニー』等でも語られてきた。反対に、不祥事を発生させる組織には、不祥事の発生原因となる組織文化がある(これは、拙著『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008年)の切り口になっている)。

 制度やプロセスは、形式化され目に見えやすいが、組織文化は目に見えにくいうえに、長年にわたってその組織の成功要因として形成された価値観なので、変革するのは非常に難しい。

 今回は、筆者の組織文化に関する問題認識とこれに関連する課題を順不同に述べ、今後取り上げるテーマを明らかにする。

  1. 【組織文化に関する筆者の問題認識と課題=今後の考察の方向】
  2. ① 組織文化とは何か、どんな機能を果たすのか
  3. ② どうすればコンプライアンス・CSRの価値観を組織文化に浸透・定着させられるのか
  4. ③ 変わらないのが組織文化なのに、本当に組織文化を変えられるのか
  5. ④ 組織文化の形成と各階層の役割とパワー(特にリーダーシップとの関係)
  6. ⑤ 組織文化を体現している経営トップが、不祥事を主導した場合、誰が何をどうする必要があるのか? それは実行可能なのか? 組織文化との関係はどうとらえるべきか
  7. ⑥ 組織によりコンプライアンス・CSRを組織内に浸透・定着させる方法は異なるのか、その際、組織文化との関係はどうなっているのか(例、大企業と中小企業、ベンチャー企業と伝統ある大企業、企業グループの親会社と子会社等の役割分担と組織間関係、グルーバル企業とドメスティックな企業の課題等)
  8. ⑦ 業界の文化と個別企業の組織文化の関係
  9. ⑧ 組織文化は、国や地域の文化の影響を受けるのか
  10. ⑨ 組織内のサブカルチャーはどんなものがあり、どんな影響を組織に与えるのか
  11. ⑩ 組織のライフサイクルと組織文化の関係(組織文化は、歴史的経過の中で変質するのか、変化した方が良いのか、変化しないほうが良いのか、それは、経営者・従業員にどんな影響を与えるのか等)
  12. ⑪ 創業時立派な経営者を持つ歴史と伝統ある組織が、何故、不祥事を発生させるのか
  13. ⑫ 組織文化に革新を組み込むことは可能なのか

等々、さまざまなテーマが考えられる。

 次回は、組織文化の定義について考察する。



[1] 本稿では、E.H.シャインの組織文化の概念をベースにしている。シャインによれば、組織文化は、容易に違いを観察できるレベル1、信奉される信条と価値観であるレベル2、組織が成功するにつれて形成された組織成員の基本的前提認識であるレベル3に区別される。そして、組織風土はレベル1の行動様式、慣習であるとしている。(Edgar H.Schein(2010)“Organizational Culture and Leadership 4thed  梅津祐良・横山哲夫訳『組織文化とリーダーシップ』(白桃書房 2012年)28頁他
 筆者はシャインと同様に、組織風土はレベル3の組織文化が表層に現れたもとして捉える。厳密には組織風土と組織文化は区別されるが、実務上は類似の概念として扱う。

 

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