実学・企業法務(第16回)
第1章 企業の一生
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
(2) 金(カネ)
1) 資金調達
④ 回収期間の短縮、支払い期間の延長
商品・材料等の仕入れや、業務委託等の代金の支払い期間を延長すると、その分、手元資金が増える。手形払いにすれば、満期までの期間(例えば1カ月)の資金を調達したことになる。
一方、売上代金の回収期間を短縮すると、その分だけ、手元資金が増加する。現金払い(先払いを含む)による回収が最短である。
また、貸倒れを無くして100%回収できれば、その分、資金は増加する。
売上・仕入の代金支払い期限を変更するためには、取引基本契約等の改訂が必要である。
- (注) 契約の改訂を申し入れると、相手方から、他の取引条件の変更を求められることがある。
- 〔取引基本契約の「代金支払い」条項の例〕
- 1. 販売者は、毎月末日を締切日とし、当月の1日から締切日までの間に購入者に納入した商品の代金の請求書及びその明細書を、翌月5日までに購入者に送付する。
- 2. 購入者は、上記1. の請求書及び明細書を確認し、その内容に異議がある場合は、翌月7日までに販売者に申し出て、双方で確認する。
-
3. 購入者は、上記2. で確認した金額の全額を、翌月10日までに販売者に銀行振込の方法により支払う。振込先は次の通りとする。
〔振込先〕 ○○銀行 ○○支店 当座預金 口座番号××× 口座名義△△△
② 棚卸資産の圧縮
売上・利益を維持しつつ棚卸資産を圧縮できれば、資金調達効果が生まれる。
これを実現するためには、最少の棚卸し在庫(材料・仕掛品・完成品)で、安定稼働・納期順守・売り損じ(機会ロス)の最小化等を実現できる生産・物流・販売体制を構築しなければならない。これは、社内の努力だけでは限界があり、仕入先や販売先との協力が欠かせない。
〔資金効率の良い生産方式の追及〕
生産現場のムダ・ムラ・ムリを徹底的に排除して、必要なものを、必要なときに必要な量だけ造ることを実践した生産方式としてトヨタ自動車の「トヨタ生産方式[1]」が知られている。この方式は、異常が発生したら機械が直ちに停止して不良品を造らない「自働化」の考え方と、各工程が必要なものだけを流れるように停滞なく生産する「ジャスト・イン・タイム」の考え方を柱にしている[2]。
- (注) トヨタ生産方式を中心とする日本の効率的な生産方式を分析して一般化した方式が、1980年代に米国マサチューセッツ工科大学でリーン生産方式Lean Product System(LPS)としてまとめられ、1990年に報告書[3]が公表された。
近年、世界のファッション服業界の一部で、短納期・低コスト・小ロット対応等の高効率生産競争が激化している。商品のデザインから店頭陳列までを1週間で行い、頻繁なモデルチェンジと小口販売を繰り返して滞留在庫を持たない企業も出現している。
[1] 後工程が前工程に部品を調達しに行くときに、後工程で何が使われたかを伝える道具として商品管理用のカード(かんばん)を用いたことから「かんばん方式」として有名になった。現在、かんばんはIT技術を用いたeかんばんに進化している。
[2] トヨタ自動車HP「トヨタ生産方式」より引用。
[3] “The Machime that changed the World”