実学・企業法務(第66回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅲ 間接業務
1. 業法担当
業法とは、特定の範囲の事業(製品の製造・販売、サービスの提供)を行うことについて政府の免許・許可・認可の取得や、政府への届出等を義務づける法律で、法律の名称(題名)の末尾に「業法」と付けられている法律が多いので、一般に、「業法」と称される。
企業が新規事業を開始するときは、事前に、関係する業法の有無、その規制内容(求められる管理体制、業務執行方法、技術基準等)、市場や顧客における商品に関する常識(取扱い方等)等を十分に調査し、事業に支障がないように商品をチェックするとともに、社内体制を整備する。
業法は、業務執行方法、管理体制のあり方、技術基準等を規律するが、企業の現場業務に必要な具体的なルールや技術基準は政省令・通達・地方条例等で詳細に定められ、所管の行政機関が「届出」「報告」等の様式を定めて「説明」や「よくある質問・回答」等を公表することも多い。これらは、法令の対象になる事業部門のライン業務の仕組みや書類の作成・管理に大きな影響を与え、また、しばしば変更されるので、大企業では、これに対応するために、本社部門ではなく直接部門(ライン部門)の中に担当者を配置して管理するケースが多い。
業法には、事業開始の届出、法令遵守状況の監督、報告、市場検査、立入検査、違反行為の公表、行政措置等の規定が含まれることが多く、必要に応じて罰則が設けられている。
重大な業法違反が発生すると、その事業の免許・許可・認可の取消処分だけでなく、企業・役職員に対して刑事罰(罰金・懲役)が科される。
大学の法学部や法科大学院で業法を学ぶことは少ないが、企業にとって、自社に適用される業法は必修科目と同じ存在で、合格点を取れなければ卒業できない(事業を行うことができない)ことになる。
次に、業法の特徴をもつ法律と、その主管官庁を例示する。
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〔主務官庁と業法の例〕
総務省 電気通信事業法、放送法、郵便法
法務省 債権管理回収業に関する特別措置法
財務省 通関業法
金融庁 貸金業法、銀行法、信託業法、保険業法、無尽業法
文部科学省
・文化庁 著作権等管理事業法
厚生労働省 医薬品医療機器等法、理容師法、美容師法、クリーニング業法、旅館業法、興行場法
農林水産省 卸売市場法、家畜商法、肥料取締法、農薬取締法
経済産業省 電気工事業法、電気事業法、ガス事業法、航空機製造事業法、鉱業法
国土交通省 建設業法、宅地建物取引業法、空港法、航空法、鉄道営業法、貨物自動車運送事業法、
倉庫業法、道路運送車両法、道路運送法、海上運送法、旅行業法
環境省 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(一般廃棄物処理業等)
警察庁 古物営業法、質屋営業法、警備業法、探偵業法、風俗営業法