厚労省、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書を公表
--パワーハラスメントの要素・概念の整理は示すが、対策については結論出ず--
厚生労働省は3月30日、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」(座長=佐藤博樹・中央大学大学院教授)の報告書を公表した。
本検討会は、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日、働き方改革実現会議決定)において、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」とされたことを踏まえ、実効性のある職場のパワーハラスメント防止対策について検討するため、平成29年5月から10回にわたり開催され、今般、報告書を取りまとめたものである。
以下、報告書の構成と概要を紹介する。
○「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書の構成
1 はじめに
2 現状
(1) パワーハラスメントの現状
(2) 職場のパワーハラスメント対策に取り組む意義
(3) 現在の対応
(4) 類似の制度等
(5) 職場のパワーハラスメントに当たる行為の防止に関する諸外国の取組
3 職場のパワーハラスメントの概念
(1) 総論
(2) 職場のパワーハラスメントの要素の具体的内容
(3) 職場のパワーハラスメントに該当する行為例
4 職場のパワーハラスメント防止対策の強化
(1) 総論
(2) 対応策の選択肢
(3) 事業主が講ずる対応策として考えられるもの
(4) パワーハラスメントの発生の要因を解消するために望ましい取組の例
(5) 中小企業に対する支援
5 顧客や取引先からの著しい迷惑行為
6 まとめ
○ 職場のパワーハラスメントの概念について
報告書では、平成23年度の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」で整理された職場のパワーハラスメントの概念(同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為)および、これに当てはまる6つの行為類型を踏まえて、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理している。
【職場のパワーハラスメントの要素】
-
① 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
- (主な例)
- ・ 職務上の地位が上位の者による行為
- ・ 同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- ・ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
-
② 業務の適正な範囲を超えて行われること
- (主な例)
- ・ 業務上明らかに必要性のない行為
- ・ 業務の目的を大きく逸脱した行為
- ・ 業務を遂行するための手段として不適当な行為
- ・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
-
③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
- (主な例)
- ・ 暴力により傷害を負わせる行為
- ・ 著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
- ・ 何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
- ・ 長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為
【職場のパワーハラスメントに該当する6つの行為類型のうち、上記①から③の要素を満たすと考えられるもの、そうでないものの例】
1) 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩(①、②に該当しないため)
2) 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする(②、③に該当しないため)
3) 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する(②に該当しないため)
4) 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる(②に該当しないため)
5) 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる(②に該当しないため)
6) 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
- 《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
- ・ 思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の社員接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
- 《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
- ・ 社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等についてヒアリングを行う(②、③に該当しないため)
○ 職場のパワーハラスメント防止対策の強化について
報告書では、職場のパワーハラスメントを防止するための具体的な対応策について、次の①から⑤のような規定の創設や施策の実施の検討を行ったが、いずれもメリット・デメリットがあると指摘するにとどまり、結論には至っていない。
① 行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)
② 事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)
③ 事業主に対する措置義務
④ 事業主による一定の対応措置をガイドランで明示
⑤ 社会機運の醸成
○ まとめ
報告書では、「職場におけるパワーハラスメントが減少していない現状と、本検討会において職場のパワーハラスメント防止対策を前に進めるべきということで意見が一致したことを踏まえて、今後は、労働政策審議会において、本検討会で議論された対応案や、現場で労使が対応すべき職場のパワーハラスメントの内容や取り組む事項を明確化するためのものの具体的内容について、議論、検討が進められ、厚生労働省において所要の措置が講じられることが適当である」としている。
-
厚労省、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書を公表します(3月30日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000201255.html -
○「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11910000-Koyoukankyoukintoukyoku-Koyoukikaikintouka/0000201236.pdf -
○「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書(参考資料)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11910000-Koyoukankyoukintoukyoku-Koyoukikaikintouka/0000201239.pdf -
「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日、働き方改革実現会議決定)
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/01.pdf -
職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ」(平成24年3月15日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025370.html