◇SH1419◇特許庁、音楽的要素のみからなる音商標について初の登録 松田貴男(2017/10/03)

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特許庁、音楽的要素のみからなる音商標について初の登録

岩田合同法律事務所

弁護士 松 田 貴 男

 

1. 今般の特許庁の判断内容とその意義

 特許庁は、2017年9月26日、音楽的要素のみからなる音商標について、初めて登録を認める旨の判断をしたと公表した。対象となる音商標は、大幸薬品株式会社の胃腸薬、インテル・コーポレーションのマイクロプロセッサ、及び、独BMW AGの自動車・自動車部品、に関する3件である。特許庁ホームページには、MP3ファイルがリンクされており、実際にこれらの音商標を聞くことが可能である。

 これまで、歌詞が含まれる音商標の商標登録を認める旨の判断は特許庁により順次行われており、例えば2015年10月27日の特許庁ニュースリリース[1]によれば、薬剤、除菌剤、せっけん、食品、飲料などに関する歌詞付の音商標の登録が認められている。したがって、特許庁の今次判断は、音楽的要素「のみ」からなる音商標を初めて認めた点に意義がある。

 

2. 音商標などの新しいタイプの商標の制度

 音商標は、2015年4月1日施行の改正商標法[2](以下「改正法」という。)に基づき、同日より出願受付が開始された。改正法は、音商標、及び、色彩のみからなる商標、を新たに「商標」の定義に加え、また、出願手続きを整備することによって、それまで出願ができなかった、動き商標、ホログラム商標、位置商標の出願を可能とした。改正法による出願可能商標の範囲の拡大は、デジタル技術の進歩やマーケティング手法の多様化、及び、諸外国では既に色彩のみや音の商標を認めていたことを背景として行われた[3]

 新しいタイプの商標のイメージと、出願数・登録数の件数は図表①及び②の通りである。登録件数では、音の商標が172件と最も多く、色彩のみからなる商標が2件[4]のみと、数の上では色彩のみ商標の登録は少ない。

 

図表①【新しいタイプの商標のイメージ】

※出典 特許庁作成「新しいタイプの商標の保護制度」パンフレット(2015年1月作成)

 

図表②【2017年9月19日現在の出願及び登録の件数】

  合計 タイプ別内訳
色彩 位置 動き ホログラム
出願件数 1,594 566 509 376 126 17
登録件数 303 172 2 35 83 11

※出典 2017年9月26日付特許庁公表

 

3. 新しいタイプの商標の位置づけ及び留意点

 新しいタイプの商標の登場は、企業のブランド戦略上の施策が増え、企業のブランド戦略の多様化を後押しする意義がある。例えば新たに音商標を登録することにより、仮に第三者が、当該登録された音商標と同一又は類似の音商標を登録済の音商標の指定商品・指定役務と類似する商品・役務に関して使用した場合には、商標権侵害として、差止請求や損害賠償請求などを行うことが可能となる。

 改正法では、新しいタイプの商標のうち、位置商標を除く商標については、他人の登録商標を、改正法施行日前から不正競争の目的なく使用をする場合には、改正法施行の際にそれを使用している範囲内において、継続的に当該商標を使用することができるという継続的使用権が定められおり(改正法附則5条3項)、既使用の商標に蓄積された信用は一定程度保護されている。この継続的使用権が確保されていることでよしとするか、又はさらに進んで新しいタイプの商標の登録をするかどうか、の選択は、企業の戦略次第であり、一律に、改正法前から使用している音や色彩に関する商標使用を確保するために、それについて商標登録をしなければいけないという必要性まではない。

 なお、この新しいタイプの商標、特に音商標は、文字商標に比して、視覚のみによる内容把握、キーワードによる一括検索、などがより困難なため、企業が、新たに商品・役務に関して音を用いるマーケティング活動を行いたい場合に他社の登録済音商標の調査を行う際には、文字商標の調査に比して、より時間と労力を要することが想定される。将来、音商標の登録件数が進み、千、万、さらにそれ以上の桁の単位まで増加した場合は、商標調査方法についても、AIの活用などの新しいタイプの手法確立が求められるかもしれない。

 


[2] 特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)

[3] 改正法は、商標の定義を政令に委任したため、将来的な保護ニーズの高まりにより、政令の改正のみによって、商標の範囲も追加され得る。

[4] 2017年3月1日経済産業省のプレスリリースにおいて、トンボ鉛筆の消しゴム、セブンイレブンジャパンの小売等に関する、色彩のみ商標の2件の登録判断が公表されている。
  http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170301003/20170301003.html

 

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