◇SH1479◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(23)―合併組織のコミュニケーション 岩倉秀雄(2017/11/07)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(23)

――コンプライアンス部門と内部監査部門の連携――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、筆者の経験を踏まえて、内部統制のツールとしてなくてはならない従業員相談窓口を正常に機能発揮させる方法について考察した。

 この仕組みは、組織がコンフリクトの原因となる問題を事前に発見し、深刻化する前に対応する方法として有効だが、その仕組みを正常に機能させるためには、コンプライアンス重視の組織文化の形成、担当役員・担当部門の人選と密接な連携、十分な調査による裏づけを得ることの重要性等を指摘した。

 今回は、統制力が有効に機能を発揮する前提となるコミュニケーションについて、管理職の役割やリーダーシップを踏まえて考察する。

 

【合併組織のコミュニケーション】

 コンフリクトの発生を調整して顕在化を抑えるためには、コミュニケーションの強化が重要であるが、これまで考察してきたとおり、合併組織では、特に組織文化の違いやメンバー同士の情報不足による誤解が生じ易いことに、留意が必要である。

 現場を指揮・監督する管理職のリーダーシップのスタイル[1]が重要になると思われる。

 合併組織の管理職には、密接なコミュニケーションと自由な意見交換により物事を進める民主的なリーダーシップが望まれる。

 合併組織では 出身組織の組織文化やマネジメントスタイルの違いから、同じ言葉の示す意味すら異なるコミュニケーションギャップが発生しやすく、充分な話し合いを通して互いの意図を理解しなければ、誤解による失敗や不信感が発生しやすい。

 もし、管理職が合併新組織の業務に精通せずに独裁的なリーダーシップに頼る(合併組織でしばしば目にする)なら、部下の反発とコミュニケーション障害により、職場風土は悪化する。

 現場のリーダーは、部下を良く知ることから始め、良好なコミュニケーションを通じて組織の理念、ビジョン、方針、価値、戦略・戦術、ルール、業務プロセス等を、現場従業員に伝え模範を示すとともに、報告・連絡・相談を通じて従業員の疑問に応え、部下の信頼を得ることが重要になる。また、同僚である他部門の管理職との密接な協力は、業務遂行上も模範例を部下に示す上でも重要になる。

 なお、筆者の経験では、部下や同格の他組織出身者に厳しいが、自らは役割モデルを示すことが出来ない管理職は、権力が上司に集中する階層重視の組織の出身者に比較的多く見られた。そのような管理職は、他組織出身の部下に対するパワー・ハラスメントで内部通報されるケースが多かった。

 以上のことから、筆者は、合併組織では、シャインの指摘するように不安を解消するために業務の教育・訓練を行なうだけでは不十分であり、コミュニケーションの強化、チーム力強化(チームへの貢献を評価し人事考課に反映する)、職場ルールやコンプライアンスの徹底、人権への配慮とうつ病の予防等に特に努めなければならないと考える。

 次回は、内部統制の一環である内部監査について考察する。



[1] 管理者のリーダーシップについては、諸説あるが、上田は、次の説を紹介している。(上田泰『組織行動研究の展開』(白桃書房、2003年)225頁~237頁)

  1. ⑴ 特性理論
    リーダーは一般人に比べて得意な身体的ないしパソナリティー的特性を持つとする初期の理論。一般的には、リーダーが非リーダーと異なる特性として、①動機と意欲 ②他者を導き影響を与えようとする欲求 ③正直さと誠実さ ④自信 ⑤知性 ⑥責任分野に関する深い専門知識 とされる。
  2. ⑵ マネジリアルグリッド
    管理者の管理スタイルを生産に関する関心と人間に対する関心に分けて典型的な5タイプに分けた。両者とも感心の低い無関心型、生産だけに関心のある権威服従型、人間だけに関心のあるカントリークラブ型、両方とも感心が中庸である組織人型、両方とも関心が高いチーム管理型に分け、チーム型が最も望ましいとする。ブレーク(R.R.Blake)&ムートン(J.S.Mouton)の提唱。
  3. ⑶ 状況適合的アプローチ
    リーダーシップは組織環境や状況によって異なるとする。フィドラー(F.F.Fiedler)の提唱。
  4. ⑷ 状況的リーダーシップ論
    リーダーは、フォロワーのやる気と職務遂行能力よりなる成熟性に焦点をあててリーダーシップを発揮するべきと言う考え方。例えば、フォロワーが課業遂行の積極的意志も無く技能にも欠ける場合には課業的行動を中心とする教示的リーダーシップ、課業遂行の意志はあるが技能に欠ける場合には課業的行動と人間関係的行動を行なう説得的リーダーシップ、課業遂行の意志は無いが技能がある場合には、人間関係的行動を中心とする参加的リーダーシップ、課業遂行の責任を負う意志も技能もある場合には、リーダーは多くの権限を委譲する権限委譲的リーダーシップが最適であるとする。ハーシー(P.Hersey)&ブランチャード(K.H.Blanchard)の説。

 

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