(速報)中国:「信頼できないエンティティ・リスト」の作成
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
5月31日に中国商務部は定例記者会見で、国際経済と貿易ルール及び多国間の貿易システムを守り、一方的な行動や保護主義に反対し、中国の国家安全保障と社会、国民の利益を保護するために「信頼できないエンティティ・リスト」(中国語「不可靠实体清单」)を策定する方針を公表した。このリストには、市場ルールを遵守せず、契約の精神に反し、ビジネス以外の目的で中国企業に対して封じ込みや供給停止を実施し、中国企業の正当な権益に深刻な損害を与える外国法人、組織又は個人が記載される。なお、同リストに記載される外国企業等に対する具体的な措置は近日中に公表される予定である。
中米間の貿易摩擦の高まりに伴い、中国通信機器大手と米企業との取引を禁じた米国の制裁措置に対抗する狙いも背景にあるとみられる。
以下、現時点までに公表された情報を踏まえ重要なポイントを速報として紹介する。
1.「信頼できないエンティティ・リスト」の法律根拠
商務部によれば、本リストは「中華人民共和国対外貿易法」、「中華人民共和国独占禁止法」及び「中華人民共和国国家安全法」等に基づいて作成される。関連する根拠条文として以下、引用する。
- ①「中華人民共和国対外貿易法」第7条
- いずれかの国家又は地域が、貿易面において中華人民共和国に対し差別的な禁止、規制又はその他の措置を講じた場合、中華人民共和国は、状況によって、その国又は地域に対し、相応の措置を講じることができる。
- ②「中華人民共和国独占禁止法」第17条
- 市場支配的地位を有する事業者が市場支配的地位の濫用行為を行うことを禁止する。違反する場合に同法に基づいて処罰する(一部省略)。
- ③「中華人民共和国国家安全法」第59条
- 国は、国家安全審査及び監督管理の制度及び仕組みを確立し、国家の安全に影響を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外商投資、特定物及び基幹技術、ネットワーク情報技術製品及びサービス、国家の安全事項に関わる建設プロジェクト、並びにその他の重大事項及び活動について、国家安全審査を行い、国家安全リスクを有効に予防し、解消する。
2.「信頼できないエンティティ・リスト」に追加される基準
商務部によれば、信頼できないエンティティの対象を確定する際に以下の要素を含めて判断される。
- ① 当該エンティティが中国企業に対して差別的な措置を講じたか。例えば、サプライチェーンの阻害や遮断又はその他の差別的な措置を講じた場合。
- ② 当該エンティティの行為がビジネス以外の目的で市場ルールや契約の原則に違反したか。
- ③ 当該エンティティの行為が中国企業又は関係産業に重大な損害をもたらしたか。
- ④ 当該エンティティの行為が中国の国家安全に脅威を与えるか又はそのおそれがあるか。
3.「信頼できないエンティティ・リスト」に追加された場合の効果及び救済措置
現時点において「信頼できないエンティティ・リスト」に記載された対象エンティティが受ける制裁や制限について、中国政府は公表していない。もっとも、6月1日に商務部条約法律司の司長は、「信頼できないエンティティ・リスト」に記載された場合の救済措置について、リストに記載されたエンティティが反論の機会を有することを明らかにした。これから公表される予定の規定において調査の関係手続を定め、利害関係者に一定程度の反論権を与え、中国政府はこれに対して必要な調査を行い、関係エンティティが違法行為を是正した後に状況に応じてリストを調整することもあると述べた。
上述のとおり、現時点で明らかになっている事項は少ないが、外資系企業に重大な影響を与えうる制度であるため、今後の動向を注視する必要がある。
以上