不動産テック(Real Estate Tech)の実務と法律上の留意点・問題点(5・完)
~不動産クラウドファンディングを中心に~
TMI総合法律事務所
弁護士 成 本 治 男
2. 日本における不動産テックサービスの類型
(3) 情報検索サービス・不動産評価サービス
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① 独自のアルゴリズムやディープラーニングAIによって、様々なオープンデータや各社の過去の取引情報などを基に、不動産の現在価値や成約価格などを推定・算出するサービスである[1]。さらに、賃貸に出した場合の賃料額や将来の再販売価格なども推定・算出するサービスや、投資利回りなどの情報もあわせて提供するサービスもある[2]。
- ② 不動産鑑定業
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「不動産の鑑定評価」とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいうとされている[3]。この点、AI等によって不動産の現在価格等を算出するサービスも不動産鑑定業に該当してしまいそうであるが、「不動産鑑定業」とは、自ら行うと他人を使用して行うとを問わず、他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うことをいうとされているため[4]、報酬を得ないで不動産の経済価値を判定・表示するのであれば「不動産鑑定業」に該当しないと解することが可能と考えられる。
- ③ 不動産投資顧問業
- 不動産の売買に関する助言を行うことを業として行う場合、「不動産投資顧問業」に該当し得るが、この不動産投資顧問業は任意の登録制度である[5]。したがって、不動産投資顧問業の許認可等が強制されるものではない。
(4) シェアリングサービス
- パーティー、会議、写真撮影、ロケ撮影、イベント、宿泊、演奏、展示会、スポーツ、オフィス、結婚式等のためのレンタルスペースをインターネット上で提供・予約できるサービス[6]や、全国の空いている月極や個人の駐車場・個人宅の空きスペースを一時利用できるサービス[7]、美容業界のフリーランスの美容師とサロンをマッチング(サロンの空き席を貸し借り)できるサービス[8]などがある。
(5) データ分析・解析サービス
- 売上向上やコスト削減等の目的で、店舗内に設置した多数のカメラの画像を分析して得られる来店者数や店内の滞在動態、顧客属性などの店舗内データとPOSなどの既存データを基に人工知能を活用した店舗解析を行うサービスなどがある[9]。
(6) 業務効率化サービス
- 主に不動産業者等の事業者向けに、仲介会社からの物件確認の電話に自動応答するシステムサービス[10]や不動産物件情報のフィルタリングサービス(情報監視・管理業務の効率化サービス)[11]、不動産管理クラウドサービス[12]など、業務の効率化を支援するサービス類型である。
(7) VR(ヴァーチャルリアルティ)・IoT
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VR技術と不動産は比較的親和性が高いと考えられるが、例えば、更地の状態や建築中の物件でも現地で建築予定の建物が実際に建っているように見学することができたり、ベランダやルーフバルコニーから見える景色を見るシステムを提供するサービス[13]などである。
その他、不動産関連のIoT商品・サービスとしては、スマートフォンで操作できるスマートロック[14]、スマートフォンによる防犯カメラのクラウドサービス[15]、スマートフォンで家電を操作することができるサービス[16]などがある。
3. おわりに
日本における不動産テックサービスは、まだまだ黎明期といって差支えない段階かと思われるが、大きな流れとしてはインターネットその他のICT技術やAI等のプログラム等によって従来の不動産業界における常識を超えるサービスや業務形態が開発されていくであろうことは否定し難いように思われる。あとはその開発・発展のスピードがいかほどになるかという問題であると考えられ、そのスピードに関わる要因としては、既存の不動産業者(特に大手事業者)の発想や態度が(すなわち、業界内の「人」が)いかに不動産テックというものに正面から取り組んでいくかということと、不動産物件情報等の情報・データの収集の問題をはじめとした環境整備(法的制度・解釈を含む)の問題があると思われる。今後は、国内の異業種事業者や海外の事業者による国内不動産マーケットへの事業参入もあり得るところであり、そのような局面に対応するためにも迅速な対応が不動産事業者及び政府当局の双方に期待されるところである。
以上
[1] 『GEEO』(http://geeo.otani.co/)、『プライスマップ』(http://www.homes.co.jp/price-map/)、『IESHIL(イエシル)』(https://www.ieshil.com/)、『マンションバリュー』(https://mansionvalue.jp/)など。
[2] 『Gate.』(https://gate.estate/)、『VALUE』(https://value.heyazine.com/)、『ハウマ』(https://www.how-ma.com/)など。
[3] 不動産の鑑定評価に関する法律第2条1項
[4] 不動産の鑑定評価に関する法律第2条2項
[5] 「不動産投資顧問業を営もうとする者は、この規程の定めるところにより、国土交通省に備える不動産投資顧問業者登録簿に一般不動産投資顧問業者又は総合不動産投資顧問業者としての登録を受けることができる」とされている(不動産投資顧問業登録規程第3条)。
[6] 『SAPCE MARKET』(https://spacemarket.com/)や『Spacee』(https://www.spacee.jp/)など。
[7] 『akippa』(https://www.akippa.com/)など。
[8] 『AIR SALON』(https://airsalon.net/)
[9] 『ABEJA Platform』(https://service.abeja.asia/)
[10] 『ぶっかくん』(https://bukkakun.com/)
[11] 『data terminal』(http://terminals.jp/product/dataterminal.html)
[12] 『プロパティデータバンク』(http://www.propertydbk.com/)
[13] 『VR内見』(http://naiken.nurve.jp/)、『SHOWRISE』(https://oh.openhouse-group.com/company/news/news20160527.html)、『SYMMETRY』(http://symmetryvr.com/index_jp.html)など。
[14] 『Qrio』(https://qrio.me/)、『Ninja Lock』(https://www.ninjalock.me/)など。
[15] 『safie』(https://safie.link/)
[16] 『Home Watch』(https://promotion.homewatch.jp/)