実学・企業法務(第99回)
第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2. 金融商品取引法・上場規則の考え方
上場会社は、金融商品取引法等が定める事項を記載した「有価証券報告書」、その記載内容に係る「確認書」、「内部統制報告書」等を、事業年度終了後3か月(外国会社の場合は6ヵ月)以内に内閣総理大臣(実務は、財務局[1])に提出することが義務付けられている[2]。
これに加えて、上場会社は、証券取引所のルールに従って「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」及び「独立役員届出書」等を証券取引所に提出しなければならない。
- (注) 財務局と証券取引所に提出した書類等は、基本的にそのままの形で、一般の縦覧に供される。
(1) 法令の要請(金融商品取引法等)
(再掲)各項目の末尾の印は、次の事項に関係が強いと筆者が考えて記したものである。
コーポレート・ガバナンス○ 内部統制システム□ リスク・マネジメント◇ コンプライアンス☆
①「有価証券報告書[3]」 会社(代表者)が作成する。
「有価証券報告書」等[4]は法定開示書であり、虚偽記載した者には刑事罰が科される。
「第一部 企業情報」の中の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」の欄に「リスク・マネジメント」に係る事項を記載し、「コーポレート・ガバナンスの状況」の欄に、会社の機関、内部統制システム、リスク・マネジメントについて記載することが求められている。
- (注)「有価証券報告書」の「経理の状況」の中の財務諸表(又は、連結財務諸表)については、内閣府令(用語・様式・作成方法を規定)、又は、一般に公正妥当と認められる会計基準によって作成し、公認会計士(又は、監査法人)による監査証明(監査報告書)を受ける[5]。
〔記載事項〕
1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」[6] □◇☆
- ⑴ 最近日現在において連結会社が経営方針・経営戦略等を定めている場合は、その内容。経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合は、その内容。
- ⑵ 最近日現在における連結会社の経営環境並びに事業上・財務上の対処すべき課題について、その 内容・対処方針。なお、基本方針を定めている会社については、会社法施行規則118条3号に掲げる事項[7] (即ち、「事業報告」に記載すべき内容)を記載する。
- (注) 将来に関する事項を記載する場合は、提出日現在における判断である旨を記載する。
2「事業等のリスク」[8] ◇☆
財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して記載する。
- (注) 将来に関する事項を記載する場合は、提出日現在における判断である旨を記載する。
3「コーポレート・ガバナンスの状況」[9] 次の(1)~(7)を記載する。 ○□◇
-
⑴ 企業統治に関する事項 ○□◇
例えば、会社の機関の内容、内部統制システムの整備の状況、リスク管理体制の整備の状況、役員報酬の内容(社内取締役と社外取締役に区分する)。
社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査人との間で「責任限定契約」を締結した場合は、その概要。特別取締役による取締役会の決議制度を定めた場合[10]は、その内容。 - ⑵ 内部監査及び監査役(監査委員会)監査の組織、人員及び手続並びに内部監査、監査役(監査委員会)監査及び会計監査の相互連携。○□
- ⑶ 社外取締役・社外監査役と提出会社との人的関係、資本的関係、取引関係、他の利害関係。○
- ⑷ 業務を執行した公認会計士(外国公認会計士[11]を含む。以下同じ。)の氏名、所属する監査法人名及び提出会社の財務書類について連続して監査関連業務[12]を行っている場合における監査年数(7年を超える場合に限る。)、監査業務補助者の構成並びに監査証明を個人会計士が行っている場合の審査体制。○
- ⑸「提出会社の企業統治に関する事項」に代えて「連結会社の企業統治に関する事項」を(その旨を記して)記載できる。 ○□◇
- ⑹ 定款で取締役の定数又は取締役の資格制限について定め、また、取締役の選解任の決議要件につき、会社法と異なる別段の定めをした場合は、その内容。 ○
-
⑺ 株主総会決議事項を取締役会で決議できることとした場合は、その事項及び理由。 ○
取締役会決議事項を株主総会で決議できないことを定款で定めた場合は、その事項及び理由。○
株主総会の特別決議要件を変更した場合は、その内容及び理由。○
[1] 開示府令(「企業内容等の開示に関する内閣府令」の略称)15条
[2] 金融商品取引法24条1項。金融商品取引法施行令3条の4。開示府令15条の2、15条の2の2。
[3] 開示府令15条1項1号イ(第三号様式 記載上の注意)2017年(平成29年)2月14日改正版
[4] 有価証券届出書、四半期報告書(上場会社のみ必要。非上場で、株式所有者数が直前5事業年度のいずれかの末日に1,000名以上の会社〈4号〉等は、任意提出が可能)、半期報告書(上場会社は不要)
[5] 金融商品取引法193条の2第1項、監査証明府令1条
[6] 第一部【企業情報】 第2【事業の状況】の中の、 3【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の項に記載する。記載上の注意(12)は、第二号様式記載上の注意(32)に準じるものとする。
[7] 「株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めているときは、次に掲げる事項」として、基本方針の内容の概要、財産の有効活用・企業集団の形成・その他の基本方針実現に資する特別な取組み等を挙げている。
[8] 第一部【企業情報】 第2【事業の状況】の中の、 4【事業等のリスク】の項に記載する。記載上の注意(13)は、第二号様式記載上の注意(33)に準じるものとする。
[9] 第一部【企業情報】 第4【提出会社の状況】 6【コーポレートガバナンスの状況等】の項において、(1)【コーポレートガバナンスの状況】、及び、(2)【監査報酬の内容等】を記載する。記載上の注意(37)は、第二号様式記載上の注意(57)に準じるものとする。
[10] 会社法373条1項
[11] 公認会計士法16条の2
[12] 公認会計士法24条の3第3項に規定する監査関連業務