実学・企業法務(第96回)
第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
4. コンプライアンス
(3) コンプライアンスの確保に有効な手段
③ 内部調査力の強化
企業内で不祥事を察知した場合は、事実関係を明らかにして問題点を整理し、適切な是正措置と再発防止策を講じることが必要である。ところが、実は、この事実関係の調査が難しい。
次に、内部調査の力を強化するための留意事項を例示する。(筆者の体験を基に作成)
㈠ 調査に着手するまでの段階
- 1 案件対応の最高責任者・意思決定関与者・調査責任者・報告体制・運営体制を決める
- 2 最高責任者と調査責任者が協議して、「最終調査報告書」の取り扱い方を決める
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3 担当部門を決め、メンバー編成を行う
担当部門: 取締役会、監査部門、該当部門、特別プロジェクト等
メンバー: 社員だけで編成するケース、社外の専門家・弁護士を加えるケース
(注) 実務に精通して、勘が働く正義漢を、是非、メンバーに加えたい。 - 4 監査役、監査委員会等との関係(どの段階で情報提供するか等)を整理しておく
- 5 内部調査の実施がもたらすリスクに備え、業務・広報の対応体制を整える
- 6 重大案件・専門的案件の場合は、社外の専門家を選んで依頼する
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7 法人処罰がある場合(独禁法違反、関税法違反、贈賄等)は、外部弁護士と調査方法を相談する
通常は、個人被疑者(役員、従業員)と会社の立場が対立するので、調査方針の確立が必要
起用する弁護士(法律事務所)、弁護士費用負担、当局の捜査への協力のあり方
(注) 米国の司法取引・英国DPA[1]等では、会社と個人(役員、従業員)の意向が異なり得る
㈡ 調査中の段階 〔調査の手法〕
- 1 案件に関する情報が漏洩した場合の影響を分析し、事前に手を打つ(Q&Aを含む)
- 2 社外の調査対象者は、世間に知られてよい段階になって聴取する(広報Q&Aを準備する)
- 3 常に、内部告発があることを想定して調査を進める
(ケース1)内部通報が真実であり、不正はすべて日本国内と判明した場合の対応
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A. 被疑者Xに直接確認した結果、Xが認めた場合
1 就業規則に基づく社内処分、損害賠償、刑事告訴・告発 -
B. 被疑者Xに直接確認した結果、Xが否定した場合
1 証拠・証人を再検証して、法廷での反証に耐えることを確認する
内部者の思い込みによる誤った判断を無くすために、外部弁護士の起用を考える。
2 損害賠償請求、告訴・告発する方針を再確認する
3 広報対応の準備を特に慎重に行う(Xがマスコミを通じて反論することもある)
(ケース2)不正行為の一部(又は、全部)が海外の子会社で行われた時の留意点
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1 外国の調査体制を整備する(その国の常識の範囲内で)
その国の中で協力者(情報提供者、世論形成者)を確保する
その国の捜査当局からの協力が得られるように説明を尽くす
(注1) その国の弁護士が味方になるとは限らない(地元当局への忠誠を優先する)
(注2) 日本人が調査の前面に立つことの是非を見極めて行動する - 2 証拠の散逸を止める
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3 日本の警察・検察は海外に出ようとしないことを前提とする(捜査権限は国境の内側)
国際捜査共助に関する法律・条約の有無、適用の可否を確かめる
〔情報の収集・取り扱い〕
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1 証拠を厳重に収集、保管、分析する(電子情報は要注意。必要があれば専門家を起用する。)
不用意に本人に迫ると、証拠を隠滅される - 2 事情聴取するときは「自分に不利な事は話さない」「無意識に隠す」と心得る
- 3 参考人として聴取する者も「共犯の可能性がある」ことを前提にして、聞く
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4 現場で、現物に当たると、真実が見えてくる
着服した金が生活に反映される(暮らしが派手になる、借金を返済する等)
文書(契約書を含む)偽造、印鑑の不正使用・偽造、不正なデータ入力等 - 5 決算書類・伝票の数字(金額)から、カネ・人・モノ・情報の動きを読み取る
- 6 体験に基く「証言」か、他人からの「伝聞」か、を区別する
〔実施すべきこと〕
- 1 違法行為を発見したら、次の違法行為を止める(知った後は、故意の刑事犯になる)
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2 自社の証人・鑑定人を選んで、確保する
㈢ 調査終了時以降の段階
- 1 広報(社外、社内)の準備をする
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2 再発防止策(暫定、恒久)を講じる
組織、態勢、担当者、商品設計、業務プロセス等を変える - 3 就業規則に基づく社内処分、刑事告訴・告発等を行う