◇SH1539◇標準規格必須特許の取扱いに関する欧州委員会ペーパーの公表(下) 平山賢太郎/石原尚子(2017/12/08) 

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標準規格必須特許の取扱いに関する欧州委員会ペーパーの公表(下)

伊藤 見富法律事務所

弁護士 平 山 賢太郎

弁護士 石 原 尚 子

 

Ⅲ 3つの提案

 上記の目的から、本ペーパーは、

  1. 1. 標準規格必須特許にかかる情報提供のあり方(透明性)、
  2. 2. FRANDライセンス条件についての一般的な準則、
  3. 3. 予見可能性を担保したエンフォースメント

という3つの柱で、実施者、特許権者、そして標準化機関といった標準規格必須特許を取り巻く利害関係者が採るべきプラクティスを示している。

 なお、本ペーパーは、法的拘束力を有するものでも、欧州司法裁判所によるEU法の解釈に何らかの影響を与えることを企図するものではなく、ECによる競争法の適用を拘束するものでもない。

 3つの提案の概要は、以下のとおりである。

 

1. 2. は(上)に掲載。

 

3. 予見可能性あるエンフォースメント

 さらに、Huawei/ZTE判決を踏まえ、特許権者及び実施者いずれにとっても、ライセンス交渉を左右しうる重要なエンフォースメントの可否、紛争解決の方法について、以下のとおり、指針を示している。

  1. ① 差止めの可否
  2.    Huawei/ZTE判決を踏まえ、標準規格必須特許のライセンシーとなりうる実施者は、標準規格必須特許ポートフォリオの内容と、特許権者から提示されたライセンス条件がFRANDであることを精査するため、十分な情報提供を受ける必要があるとしている。本ペーパーでは、個別具体的なケースについていかなる情報の提供が必要とされるかについては断定を避けつつも、当該特許の標準規格における必須性、被疑侵害物件の特定、ロイヤリティの算定手法、非差別要件の遵守といった情報が必要であろうと示している。 また、実施者による対案提示についても、具体的であることを要し、単に特許権者からのライセンス提示を拒絶する、(第三者機関に対して拘束力のあるFRAND判断を付託する場合を除き)第三者機関にロイヤリティ検討を依頼するのみでは足らず、被疑侵害物件が標準規格をどのように用いているのかを含め、特定する必要があるとしている。
  3.    対案提示のための相当な時間については、本ペーパーでは、一般的な基準を提示せず、対象となる標準規格必須特許の数や侵害主張の具体性の程度に応じて考慮されるべきとしている。なお、特許権者が必須宣言手続の際に標準規格必須特許について十分な情報を提示していることは、標準規格必須特許実施者の対応時間の考慮要素となる旨を示している。
  4.    なお、差止めの相当性については、差止めの影響力の大きさから、第三者への波及的効果も含め、効果、相当性、抑止力を考慮し、慎重に判断することを求めている。
     
  5. ② 特許ポートフォリオに関する訴訟
  6.    ポートフォリオでのライセンスの適否については議論のあるところであったが、本ペーパーでは、ポートフォリオライセンスが既に一定の実務慣行となっていることを受け、欧州委員会において、今後、共存しうる、効率的かつ効果的な標準規格必須特許に関する紛争解決の方法を検討していくとしている。
  7.    具体的には、(ア)ポートフォリオライセンスについては、FRANDとの関係では、実施者が製品を製造・販売するのに必要な標準規格必須特許に限られる場合には、FRANDと認められ、特許権者は、標準規格必須特許、非標準規格必須特許を含めライセンスの提示をすることは自由であるが、実施者に不要のライセンスを強要することは認めない、(イ)一方、実施者が、必要であるにもかかわらずいかなる標準規格必須特許についてもライセンス交渉をしない場合には、非誠実(Bad faith)な実施者と判断されうる、(ウ)また、ポートフォリオライセンスの提示に対すつ実施者による対案は、個別の特許についてではなく、実施者が必要とする標準規格必須特許全て(ポートフォリオ内における競合する技術は含まない)を対象とする必要がある、といった考え方を明らかにしている。
  8.    加えて、④専門的知識を有する裁判官による、統一特許裁判所(Unified Patent Court)によるADR(仲裁及び調停)により、質と効率性を重視したADRの提供、⑤PAE(Patent Assertion Entities)の対応については、本ペーパーで特許権者に求められる事項はすべてPAEについても当てはまり、別途の取扱いはしない旨の明示、⑥標準化機関及び特許権者による、FRANDライセンスプロセスについての開示・周知の促進といった点にも触れている。

 

Ⅳ コメント

 本ペーパーは、起草過程において意見募集を行い関係当事者の主張を幅広く検討し、さらに欧州委員会内における長期間にわたる議論を経て成案に至ったものであることが知られている。それゆえ、本ペーパーは、各項目において、特許権者と実施者それぞれの主張をふまえバランスのとれた中立的な指針を示しているということができる。また、IoT時代の到来により標準必須特許の実施者が様々な産業分野(自動車業界など)へと広がってきたという実情にいち早く注目して、先導的な分析や示唆を与えようとしている点においても注目される。

 なお、このような欧州委員会のいわば積極的姿勢は、本年の知財ガイドライン改訂において標準必須特許をめぐる問題について言及することを避けた米国競争当局の姿勢と対照的である。欧州からの刺激を受けて米国競争当局が新たな考え方を示すこととなるのかについても注目していきたい。

 本ペーパーは、上記に示した内容の提言を行ったうえで、それにとどまらず、今後のFRANDライセンス状況やPAEの影響のモニタリング等を続けていくことを付言しており、必要に応じて追加的措置を採る可能性についても示唆している。今後の欧州委員会や加盟国各国当局の動向に引き続き注視していくことが重要であるといえよう。   

 (完)

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