社外取締役になる前に読む話(2)
ーその職務と責任ー
潮見坂綜合法律事務所
弁護士 渡 邊 肇
II 社外取締役に期待されていることは何か
今回から、とある上場会社の社外取締役に就任した「ワタナベさん」の疑問に答える形式で、社外取締役がどのように行為すべきか、具体的にみていこう。まずは、社外取締役には何が期待されているのかについて考えてみる。
ワタナベさんの疑問その1
取締役会に何回か出席し、議案に適宜コメントしているが、一体どのような観点で意見を言えば良いのかが分からない。結局のところ、社外取締役にはどのような役割が期待されているのだろうか。 |
解説
社外取締役に求められているのは、一言で言えば「企業価値の向上」である。
社外取締役には、「会社の利害関係から離れた独立の立場で、忌憚のない意見を述べる」ことが期待されているというようなことがよく言われる。それはその通りである。しかし、なぜそのような独立の立場の役員が必要とされるのだろうか。その点についての回答のヒントは、なぜ最近になって、どこの会社もこぞって社外取締役を血眼になって探すようになったのか、その経緯の中にある。以下概観してみよう。
平成26年に成立した改正会社法は、株式会社に対して社外取締役の設置を義務づけることは見送ったものの、その施行日である翌平成27年5月1日にかかる事業年度の末日において、公開会社であり、かつ大会社、監査役会設置会社、株式関連有価証券報告書提出会社である株式会社が社外取締役を設置していない場合には、同年の定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないと規定した(会社法327条の2)。然るに、この「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明が非常に困難(むしろ通常は無理)であったことから、平成27年以降、社外取締役の設置が急速に進んだのである。会社法は、直接的に社外取締役の設置義務は課さなかったものの、実質的にはその設置を強制する効果を発生させたことになる。更に、平成27年6月1日から適用になったコーポレートガバナンス・コード中に、独立社外取締役を2名以上且つ取締役員数の3分の1以上選任せよとの原則が含まれることになった(原則4-8)。その結果、東京証券取引所の報告によれば、現状、東証一部上場会社のうち、88%もの会社が、2名以上の社外取締役を置いている。
ではなぜ社外取締役が必要なのか。もともと、社外取締役は、英米系企業、特に米国企業において導入され、発展してきた。その根底には、株式会社にとっての最大の利害関係者(いわゆる「ステークホルダー」)である株主に還元すべき企業価値を最大にすることが経営者の使命であり、かつ、この企業使命は、投資家以外の利害関係者と密接な関係を有する取締役のみで構成される経営陣では達成できず、会社を取り巻く利害関係者のいずれからも独立した人間が取締役会の構成員になっている必要があるという考え方が存在している。特に2001年のエンロン事件以降、その傾向が顕著になり、証券取引所規則の改正等を通じて、社外取締役の独立性要件が厳格化されるなどの改革が行われてきた。
上記コーポレートガバナンス・コードは、まさしくこの潮流を汲むものである。同コードは、2015年のG20において採択されたOECD(「経済協力開発機構」)コーポレートガバナンス・コードが翻訳されたものに他ならないが、その根底にあるのは、OECDコーポレートガバナンス・コードが、「G20が優先事項として掲げる、企業の資本市場を通じた資金調達の促進をサポートするという点において重要な貢献をする」との考え方である。つまり、会社が投資家である株主に対する説明責任を果たし、その資金調達を促進させることが企業には求められており、そのためには企業価値を向上させることが必要不可欠である、そして、この企業価値の向上は、企業がそのガバナンスを充実させなければ達成できない、という考え方が根底にある。社外取締役の設置は、まさしくその一環として位置づけられるのである。
以上要するに、社外取締役は、「会社との利害関係を離れ、独立した客観的立場で、忌憚のない意見を開陳し」もって「企業価値の向上」に資することが期待されているのである。
では、どのようにその役割を発揮したら良いのか、次回以降、具体的状況に照らして検討していこう。