最高裁第三小法廷、日本国外で合意された価格カルテルを行った事業者に対し、
わが国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があると判断
--わが国の自由競争経済秩序を侵害する場合には適用を認める--
最高裁第三小法廷(戸倉三郎裁判長)は12月12日、日本国外で合意された価格カルテルを行った事業者に対して、わが国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるなどとする判断を示し、課徴金納付を命じた審決の取消を求めた韓国サムスンSDIのマレーシア子会社の上告を棄却した。
判決などによると、今回の事案は、わが国ブラウン管テレビ製造販売業者が東南アジア地域に所在する現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管の販売をめぐるものである。上告人など海外法人等11社は、日本国外において営業担当者による会合を開き、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意していた。
これについて公正取引委員会は平成22年、上記海外法人等のうち上告人に対しては課徴金13億7,362万円の課徴金納付命令を発した(公正取引委員会平成22年(納)第23号。本件における課徴金の総額は42億5,492万円である)。これに対して上告人が本件合意について独禁法を適用することはできないなどとして、本件課徴金納付命令の取消を求める審判請求をしたものの、これを棄却する審決(公正取引委員会平成22年(判)第7号)を受けたため、本件審決の取消を求めたものである。
以下、上告人側の主な主張とこれに対する最高裁判決の概要を紹介する。
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1「本件合意は国外で合意されたものであり、本件ブラウン管を直接購入したのは国外に所在する現地製造子会社等であること等から、本件は我が国の独禁法の適用対象とならない」との主張について
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「独禁法は、国外で行われた行為についての適用の有無及び範囲に関する具体的な定めを置いていないが、同法が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると、国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、同法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当である。したがって、公正取引委員会は、同法所定の要件を満たすときは、当該カルテルを行った事業者等に対し、上記各命令を発することができるものというべきである。
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そして、不当な取引制限の定義について定める独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(略)。そうすると、本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができる。」
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「本件の事実関係の下においては、本件ブラウン管を購入する取引は、我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が経済活動として一体となって行ったものと評価できるから、本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。」
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「以上によれば、本件合意は、日本国外で合意されたものではあるものの、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものといえるから、本件合意を行った上告人に対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当である。」
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2「事業者が不当な取引制限を行い、それが商品の対価に係るものであるときの課徴金額の算定基礎となる当該商品の売上額は、具体的な競争制限効果が日本で発生した商品の売上額に限定されるものと解すべきであるから、国外で引渡しがされた本件ブラウン管の売上額を課徴金額の算定基礎とすることはできない」との主張について
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「独禁法の定める課徴金の制度は、カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、カルテルの予防効果を強化することを目的として、既存の刑事罰の定め(同法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(同法25条)に加えて設けられたものであり、カルテル禁止の実効性を確保するための行政上の措置である(略)。また、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令は、同法7条の2第1項を受けて、課徴金額の算定基礎となる売上額の算定方法について定めるが(5条及び6条)、その中に国内で引渡しがされた商品の売上額に限る旨の定めはない。」
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「本件の事実関係に鑑みれば、本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。そうすると、上記の課徴金制度の趣旨及び法令の定めに照らせば、本件ブラウン管の引渡しが国外で行われていたとしても、その売上額が課徴金額の算定基礎となる当該商品の売上額に含まれないと解すべき理由はない。」
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「したがって、本件合意の対象である本件ブラウン管が現地製造子会社等に販売され日本国外で引渡しがされたものであっても、その売上額は、独禁法7条の2第1項にいう当該商品の売上額に当たるものと解するのが相当である。」
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○ 最三小判(戸倉三郎裁判長)、1 日本国外で合意されたテレビ用ブラウン管の販売価格に係るカルテルを行った事業者に対し、我が国の独占禁止法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるとされた事例 2 日本国外で合意された販売価格に係るカルテルの対象であるテレビ用ブラウン管が外国法人に販売され日本国外で引渡しがされた場合において、当該ブラウン管の売上額が独占禁止法7条の2第1項所定の当該商品の売上額に当たるとされた事例(12月12日)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87299 -
○ 公正取引委員会、テレビ用ブラウン管の製造販売業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令について(追加分)(平成22年3月29日)
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h22/mar/100329.html