社外取締役になる前に読む話(4)
ーその職務と責任ー
潮見坂綜合法律事務所
弁護士 渡 邊 肇
IV 社外取締役はどのような職務を担っているのか
ワタナベさんの疑問その3
そもそも社外取締役とはどのような職務を担っているのだろうか。自分に与えられている仕事の主たるものは、取締役会に出席することなのだが、それだけで良いのだろうか。他にやらなければならない仕事はないのだろうか。 |
解説
前回は、社外取締役が会社や他の取締役から信頼を勝ち得るためには、与えられた職務を正確に理解し、その権限を適切に履行し、十全に義務を果たすことがまず必要である、と申し上げた。今回から数回に分けて、社外取締役の職務の範囲について検討していきたい。
その前に取締役一般の職務範囲を概観してみよう。なお、以下の解説は、取締役会設置会社を前提としている。この点、念のため留意されたい。
取締役の職務は、大きく分けて二つある。一つは会社の業務執行に関わる意思決定を行うことであり、いまひとつが、当該決定に基づいて具体的な業務執行を行うことである。
一つ目の重要な業務執行の決定についてであるが、これは取締役会で行われる。会社法は362条4項において取締役会で決定すべき事項について定めるが(重要な財産の処分および譲受け、多額の借財、など)、これはあくまでも例示的列挙であって、当該列挙事項のみしか決定できないということではない。また、その「重要性」について会社法は何ら規定していないが、その具体的基準は各社ごとに決めるしかない。従って、取締役会の具体的な決議事項は、その項目、金額基準も含め、「取締役会規則」や「取締役会付議基準」等の内規によって取締役会での決議・報告を要する事項の詳細が定められているのが通常の会社の実務であろうと思われる。
総ての取締役は、取締役会の構成員として取締役会に出席し、これらの基準に従って上程された議案を審議し、決議に参画することを通じて、会社の業務執行に関する意思決定を行う。そして、この権限と義務は、社外取締役にも共通に与えられている(会社法362条1項は「取締役会はすべての取締役で組織する」と定めている。ここで規定する「すべての取締役」に社外取締役が含まれることは当然である。)。社外取締役が取締役会に出席して決議に参加することは、社外取締役に付与された最も基本的な権限の行使ということができるであろう。この、社外取締役による業務執行に関する意思決定への参画という点についても実は様々な実務上の問題点が潜んでいるが、その点は次回以降、追って検討することとする。
業務執行行為について言えば、これは本来、代表取締役の職務である。但し、代表取締役が総ての業務執行を行うのは実際的ではないため、代表取締役から権限委譲を受けた各取締役、または執行役員が業務執行を行っているのが、殆どの会社の実情というところであろう。会社法363条2項は、取締役会設置会社につき、「代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの」が業務執行を行うことができると規定している。実際の会社実務では、代表取締役の指名に基づき、取締役会の決議を経て業務執行取締役あるいは執行役が選任されているわけである。
さて、以上を踏まえてワタナベさんの疑問について考えてみよう。
ワタナベさんはどうやら、自分に与えられた仕事が取締役会に出席することに尽きているようなのだが、本当にそれだけで良いのだろうか、他にやるべきことはないのだろうか、ということをお悩みのようである。社外取締役が業務執行に関与できるかという問題は、追って検討する予定だが、業務執行の決定という職務について述べると、上記のとおり、これが取締役会構成員としての取締役の最大の職務であることには疑問の余地がない。取締役としてまず求められているのは、経営の一翼を担う者として、取締役会における意思決定に主体的且つ積極的に関与し、会社の方向性を定め、その企業価値の向上に貢献するということである。特に社外取締役は、会社の利害関係から離れた客観的な立場で、その他の取締役にない視点で問題提起をし、意見を述べることが期待されている。その役割は極めて重要であり、社外取締役の見解如何で、会社の業務執行に関する個々の議案の結論のみならず、業務の基本方針の変更を迫られる事態が発生することも十分に考えられる。
ワタナベさんもまた、自分に与えられた最大の職務としての業務執行の決定という仕事を通じて会社の企業価値の向上に貢献することが、社外取締役としてまず求められていることを十分に自覚し、その職務に専心すべきである。