インドネシア:フィンテック事業者への新たな規制
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 小 林 亜維子
1. 総論
インドネシアにおいては、ファイナンシャル・テクノロジー(フィンテック)事業が拡大しており、それらの事業を規制するため、様々な規制が新たに設けられている。2016年に施行された決済事業者に関する規制(インドネシア中央銀行規則No.18/40/PBI/2016、詳細は、◇SH0990◇インドネシア:FinTechに対する新規制の動向⑴―決済サービス事業に関する中央銀行規則の制定 前川陽一(2017/01/31)を参照されたい。)やピア・トゥ・ピアの貸付に関する規制(金融庁規則No.77/POJK.01/2016、詳細は◇SH1062◇インドネシア:FinTechに対する新規制の動向⑵―P2Pレンディング事業に関する金融庁規則の制定 前川陽一(2017/03/15)を参照されたい。)に加え、2017年11月30日にはフィンテックに関する新たな規制(インドネシア中央銀行規則No.19/12/PBI/2017、以下「本規則」という。)が施行された。本稿はかかるフィンテックに関する新たな規制について紹介する。
本規則は、通貨の安定性、金融システムの安定性及び効率性並びに持続的な国内の経済成長を支援することが可能な信頼性のある決済システムを維持するためのテクノロジーの発展及び消費者保護を目的として規定された。
2. 登録制度
(1) 登録義務
本規則は、フィンテック事業者を以下のとおり分類している。
- ① 決済システム(例えば、ブロックチェーンや分散型台帳(Distributed ledgers))
- ② マーケットサポート(例えば、アグリゲーター)
- ③ 投資マネジメント及びリスクマネジメント(例えば、オンライン投資商品やオンライン保険)
- ④ 貸付、融資及び資本配賦(例えば、ピア・トゥ・ピア貸付やクラウドファンディング)
- ⑤ その他金融サービス
また、以下の各要件を満たすフィンテック事業者は、原則として、インドネシア中央銀行への登録が必要となる。
- ① 革新的であること
- ② 既存の金融サービス商品、サービス、テクノロジー及び・又は金融ビジネスモデルを混乱させる恐れがあること
- ③ 社会に利益を提供するものであること
- ④ 広く普及された方法によって利用可能であること
- ⑤ その他インドネシア中央銀行が定めた要件
もっとも、(ア)既にインドネシア中央銀行より許可を取得している決済システム事業者及び(イ)インドネシア中央銀行以外の機関の管轄にあるフィンテック事業者については、上記登録が免除されている。なお、(ア)の事業者については、上記5要件を満たす商品、サービス、テクノロジー及び・又は新たなビジネスモデルについては、その情報をインドネシア中央銀行に提出する必要がある。また、(イ)の事業者のうち、フィンテックに関連する決済システムを実施する事業者については、なお、インドネシア中央銀行に登録をする必要があることに留意されたい。
本規則は、インドネシア中央銀行が、定期的に登録事業者を公表するものとしている。
(2) 登録後の義務
インドネシア中央銀行へ登録が完了したフィンテック事業者は、主として、以下の義務を遵守しなければならない。
- ① 消費者及び取引に関するすべての情報の守秘性を確保しなければならない
- ② すべての取引についてルピアで決済を行わなければならない
- ③ 資金洗浄及びテロ資金調達防止に関する指針を導入しなければならない
- ④ 決済システムを採用する場合、仮想通貨を利用してはならない
- ⑤ インドネシア中央銀行へ登録してから3ヵ月以内に、これらの義務を遵守することをに認めるステートメントを提出しなければならない
また、インドネシア中央銀行は、登録済みのフィンテック事業者を監視し、フィンテック事業者はインドネシア中央銀行の要求に応じて必要なデータ及び情報を提出しなければならない。
3. レギュラトリー・サンドボックス
本規則ではレギュラトリー・サンドボックスの制度が新たに導入された。これは、登録フィンテック事業者が、各種金融サービス、商品、テクノロジー及び・又はビジネスモデル(以下「フィンテック商品」という。)を開発するために、インドネシア中央銀行が場所を提供する制度をいう。当該制度は、インドネシア中央銀行が決定したフィンテック業者が対象となり、インドネシア中央銀行は、レギュラトリー・サンドボックスを利用して、フィンテック商品のトライアル期間を定め、期間満了時に当該フィンテック商品の審査を行い、合否を決定することとされている。合格となったフィンテック商品のうち、決済システムに係る場合には、インドネシア中央銀行規則No.18/40/PBI/2016に規定される決済事業者にかかる許認可の取得が必要となる。
なお、レギュラトリー・サンドボックスに関する具体的な規定については、インドネシア中央銀行の理事会が別途規定しているとされ、2017年11月30日付でかかる規則が制定されている(インドネシア中央銀行理事会規則No.19/14/PADG/2017)。
4. 決済事業者及びフィンテック事業者の協業
登録済みのフィンテック事業者及び決済事業者が協業する場合、まず、インドネシア中央銀行規則No.18/40/PBI/2016に基づくインドネシア中央銀行の承認を取得する必要がある。なお、決済事業者は、未登録のフィンテック事業者と協業することは禁止されている。
本規則に違反したフィンテック事業者は、違反した条項に応じて、以下の行政罰の対象となる。
- ① 書面による警告
- ② 営業の停止
- ③ 決済システム事業に対する一定の措置
- ⑤ 決済システム事業者の許可の取消し
- ④ フィンテック事業者としての登録の取消
- ⑤ 関連当局への営業許可の取消しの推奨
- ⑥ 罰金