◇SH3695◇中国:個人情報保護法(草案二次審議稿)の公表(下) 川合正倫/鈴木章史(2021/07/27)

未分類

中国:個人情報保護法(草案二次審議稿)の公表(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

弁護士 鈴 木 章 史

 

(承前)

プラットフォームサービスに関する特別の規制

 第二稿では新たに、基礎的なインターネットプラットフォームサービスを提供し、ユーザー数が多く、業務種別が複雑な個人情報の取扱者は、以下の義務を遵守しなければならないという規制が設けられた(第二稿57条)。

  1. (ア) 外部の主体で構成される独立の機構を設立し、個人情報の取扱い活動を監督する。
  2. (イ) 法律、行政法規に著しく違反し、個人情報を取り扱うプラットフォーム内の製品又はサービスの提供者に対して、プラットフォームサービスの提供を停止する。
  3. (ウ) 個人情報保護に関する社会的責任報告書を定期的に発表し、社会的な監督を受ける。

 電子商取引等のプラットフォームサービスを営む事業者は個人情報を大量に扱うことに鑑み、昨今の規制強化の趨勢に従い、個人情報保護の観点からもより重い義務を負担させることを規定したものといえる。

 

受託者の義務に関する改正

 第二稿では新たに、個人情報の取扱者から個人情報の取扱いの委託を受けた受託者は、本章に定める関連義務を履行するとともに、個人情報の取扱いの安全性を確保するために必要な措置を講じなければならないとされた(第二稿58条)。「本章に定める関連義務」とは、個人情報の取扱者が負担する以下の義務を含むものと考えられ、受託者の義務を強化する改正と考えられる。ただし、文言上、本規定により加重される受託者の義務の範囲は必ずしも明確ではなく、受託者に該当する事業者としては、今後の解釈の動向を注視する必要がある。

  1. ・コンプライアンス体制の構築(第二稿51条)
  2. ・個人情報保護責任者の指定と責任者による個人情報の取扱い活動の監督(第二稿52条)
  3. ・個人情報の取扱い及び保護措置に対する監査の実施(第二稿54条)
  4. ・個人情報の取扱いに対するリスク評価(第二稿55条)
  5. ・個人情報の漏えいを発見した場合の個人情報保護職責履行部門及び情報主体に対する通知義務(第二稿56条)

 また、第一稿において、個人情報の取扱者と受託者との間で締結する委託契約の「履行が完了した場合又はその委託関係が解消した場合」、受託者は、個人情報を個人情報の取扱者に返還又は消去するものとする、と規定されていた点について、第二稿では、当該返還又は消去の義務が生じるのは、委託契約の「効力が発生していない場合、無効な場合、取り消された場合又は終了した場合」へと変更された。委託契約の効力が発生していない場合や無効な場合についても、個人情報の返還・消去義務が生じることが明確化された。

 

その他の改正事項

⑴ 個人情報の主体が死亡した場合の取扱い

 第二稿では新たに、個人情報の主体が死亡した場合、その近親者が当該個人に代わって個人情報の主体が有する権利を行使する旨の規定が加えられた(第二稿49条)。ここでいう個人情報の主体が有する権利には以下の権利が含まれる。

  1. ・知る権利、決定権・拒否権(第二稿44条)
  2. ・閲覧・複製の請求権(第二稿45条)
  3. ・是正・補充の請求権(第二稿46条)
  4. ・一定の状況下における削除請求権(第二稿47条)
  5. ・取扱いルールの解釈・説明請求権(第二稿48条)

 

⑵ 14歳未満の未成年の個人情報の取扱い

 第一稿では、「個人情報の取扱者が、対象の個人情報が14歳未満の未成年者個人のものであることを知っているか又は知り得べき場合」には、父母等の監督人の同意を取得しなければならないと規定されていたところ(第一稿15条)、第二稿では、「14歳未満の未成年者個人の個人情報を取扱う場合」に父母等の監督人の同意を取得しなければならないと修正された(第二稿15条)。第一稿では、個人情報の取扱者が14歳未満と知り得なかった場合、必ずしも父母等の監督人からの同意の取得義務を負わないと解釈されたのに対し、第二稿での修正により、個人情報の取扱者の主観に関わらず、父母等の監督人の同意を取得しなければならないこととされた。中国では未成年の権利保護が強化される傾向にあり、個人情報との関係でも事業者は、14歳未満と知り得なかったことを主張することはできないことになるため、対象者の年齢確認を適切に行う必要がある[1]

 

まとめ

 個人情報保護法草案は、2021年中に3度目の審議が行われ、年内に公布される可能性が高いと考えられている。中国関連の事業を行う企業は、引き続き動向を注視し、施行後の体制作りに備える必要がある。

以 上



[1] 当該修正は、児童個人情報ネットワーク保護規定9条等の規定と同趣旨の規定と考えられる。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(すずき・あきふみ)

2005年中央大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年都内法律事務所入所。2015年北京大学法学院民商法学専攻修士課程修了。同年長島・大野・常松法律事務所入所。2021年5月より中倫律師事務所上海オフィスに出向中。主に、日系企業の対中投資、中国における企業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、中国企業の対日投資案件、その他一般企業法務を扱っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました