文科省、著作権法改正法案を国会に提出
--デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備等--
文部科学省は2月23日、「著作権法の一部を改正する法律案」を閣議決定の上、国会(衆議院)に提出した(閣法第28号)。
今回の改正は、「デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにする」ものである。
今回の改正法案の概要と要綱は、次のとおりである。
1 著作権法の一部を改正する法律案の概要
(1) デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(30条の4、47条の4、47条の5等関係)
① 著作物の市場に悪影響を及ぼさないビッグデータを活用したサービス等※のための著作物の利用について、許諾なく行えるようにする。
② イノベーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定を整備する。
(※) 例えば現在許諾が必要な可能性がある以下のような行為が、無許諾で利用可能となる。
- ○ 所在検索サービス(例:書籍情報の検索)→著作物の所在(書籍に関する各種情報)を検索し、その結果と共に著作物の一部分を表示する。
- ○ 情報解析サービス(例:論文の盗用の検証)→大量の論文データを収集し、学生の論文と照合して盗用がないかチェックし、盗用箇所の原典の一部分を表示する。
(2) 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(35条等関係)
ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする。
【現在】利用の都度、個々の権利者の許諾とライセンス料の支払が必要
【改正後】ワンストップの補償金支払のみ(権利者の許諾不要)
(3) 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(37条関係)
マラケシュ条約(視覚障害者や判読に障害のある者の著作物の利用機会を促進するための条約)の締結に向けて、現在視覚障害者等が対象となっている規定を見直し、肢体不自由等により書籍を持てない者のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようにする。
(4) アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(31条、47条、67条等関係)
① 美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようにする
【現在】小冊子(紙媒体)への掲載は許諾不要。タブレット等(デジタル媒体)での利用は許諾が必要。
【改正後】小冊子、タブレット等のいずれの場合も許諾不要。
② 国及び地方公共団体等が裁定制度※を利用する際、補償金の供託を不要とする。
(※)著作権者不明等の場合において、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することで、著作物を利用することができる制度
【現在】裁定制度により著作物等を利用する場合、事前に補償金の供託が必要
【改正後】国及び地方公共団体等については、補償金の供託は不要(権利者が現れた後に補償金を支払う)
③ 国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾なく行えるようにする。
なお、施行期日は平成31年1月1日とされているが、改正内容のうち上記(2)については「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。
2 著作権法の一部を改正する法律案要綱
第一 権利制限規定の改正
一 情報通信技術の進展に対応した権利制限規定の整備
1 著作物は、技術の開発等のための試験の用に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、利用することができることとすること。(第三十条の四関係)
2 電子計算機における利用に供される著作物について、当該利用を円滑又は効率的に行うために当該利用に付随する利用に供すること等を目的とする場合には、その必要と認められる限度において、利用することができることとすること。(第四十七条の四関係)
3 電子計算機を用いて、情報を検索し又は情報解析を行い、及びその結果を提供する者は、公衆への提供又は提示が行われた著作物について、その行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、軽微な利用を行うこと等ができることとすること。(第四十七条の五関係)
二 国立国会図書館が絶版等資料に係る著作物について自動公衆送信を行うことができる対象の範囲を、図書館等に類する外国の施設に拡大すること。(第三十一条第三項関係)
三 学校等において教育を担任する者等は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を公衆送信等することができることとするとともに、当該公衆送信に係る補償金の支払いについて規定すること。(第三十五条等関係)
四 視覚障害者等に係る権利制限規定の対象者の範囲を視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者に拡大すること。(第三十七条第三項関係)
五 美術の著作物又は写真の著作物を原作品により公に展示する者は、当該著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を複製し、上映し、又は自動公衆送信を行うこと等ができることとすること。(第四十七条関係)
第二 著作権者不明等の場合における著作物の利用の円滑化
国又は地方公共団体等が著作権者不明等の場合に文化庁長官の裁定を受けて著作物を利用しようとするときは、補償金の供託を要しないこととすること。(第六十七条等関係)
第三 施行期日等
一 この法律は、平成三十一年一月一日から施行すること。ただし、第一の三については公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。(附則第一条関係)
二 その他所要の規定の整備を行うこと。
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文科省、著作権法の一部を改正する法律案(2月23日衆議院受理)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1401718.htm -
○ 概要
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_001.pdf -
○ 要綱
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_002.pdf -
○ 案文・理由
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_003.pdf -
○ 新旧対照表
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_004.pdf -
○ 参照条文
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_005.pdf