◇SH3610◇タイ:IPOの復活に伴うタイにおける卸売業と外資規制の現状(2) 箕輪俊介(2021/05/11)

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タイ:IPOの復活に伴うタイにおける卸売業と外資規制の現状(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

(承前)

3. 他の投資恩典との比較

 現状、卸売業に関連する投資恩典の類型として、IPOの他に、既述のIBCや、貿易及び投資支援事務所(Trade and Investment Support Office (TISO))がある。

 

 IPO及び既に廃止されたITCを加え、それぞれの概要は以下のとおりである。なお、以下ITCの欄で触れているとおり、IPO及びIBCもITCと同様に1,000万バーツ以上の払込済みの登録資本金が必要とされる(TISOにはこの資本金要件は課されておらず、他の恩典と異なり販管費を一定金額以上支出することが求められている)。

 

 

IPO

IBC

TISO

ITC(廃止済み)

対象製品

半製品等のみ

半製品等に加え完成品も取り扱うことが可能

タイ国内で製造された製品のみ

半製品等に加え完成品も取り扱うことが可能

主要な取得要件

  1. ✔  ITを用いた倉庫管理システムを備えた倉庫の所有又は賃貸
  1. ✔  IBC事業に従事する10名以上の従業員の雇用
  2. ✔  貿易事業のみならず、地域統括業務にも従事すること
  1. ✔  年間1,000万バーツ以上の販管費
  1. ✔  IPO及びIBCと同様、1,000万バーツ以上の払込済みの登録資本金が必要

 

 このように、現行の類型であるIPO、IBC及びTISOはそれぞれの恩典の内容や取得にあたって求められる要件が異なる。

 

4. 実務への影響

 IPOには、対象製品に完成品が含まれない、倉庫に関する要件が求められる等の難点があるが、IBCのように従業員要件や地域統括業務を行うこと等の条件は課されず、TISOのようにタイ国内で製造された製品に対象製品が限定される訳ではない。したがって、IBCやTISOの要件は満たさないが、IPOの要件であれば満たす業態もあり得る。その意味で、IPOの復活は、卸売業を単独資本で進めたいという事業者の選択肢を増やす法改正であると言えるだろう。

 

 一方、上述のとおり、IPOの投資恩典の対象は半製品等の卸売業に留まるため、完成品を含めて取り扱えるようにしたい場合には、IPOやIBC等の取得に加えて、ITCを取得している事業者[1]を買収することにより、同恩典を承継するという手法も考えられる。IPO復活後もこの手法は引き続き検討に値する方法であろう。



[1] BOIは、2016年から2018年の間、毎年150件ほどITCの取得を認可していた。

 


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(みのわ・しゅんすけ)

2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。

バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。

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