◇SH0814◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第14回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(11) 浅場達也(2016/09/27)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(11)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅱ 冒頭規定と制裁(2) ―請負契約を例として―

2. ソフトウェア開発契約をめぐって

 請負という契約と印紙税の関係について、近時、裁判例の登場とともに議論が交わされているソフトウェア開発契約を素材として、更に検討してみよう。現代の企業においては、自社のコンピューターシステムの開発を、専門的な開発業者に委託することが、多く行われている。ソフトウェア開発契約は、多くの企業が、自ら当事者となって、締結している契約であるといえるだろう。

(1) モデル契約

 ここでの検討では、ネット上でも契約書案文を入手しやすく、また解説書も市販されていることから、『ソフトウェア開発モデル契約の解説[1]』の契約書案文を念頭に置くことにしよう(以下、同書349頁から381頁の57カ条から成る契約案文及び各段階の個別契約案文を、「モデル契約」という。但し、以下では、紙幅の関係で、「モデル契約」の個別の条項自体は、引用していない。)

 「モデル契約」は、ソフトウェア開発の4つの段階について基本的内容を定める「基本契約書」と、それぞれの段階に対応した「個別契約書」から成っている。ここでは、ソフトウェア開発の中核をなす「ソフトウェア開発業務」及びこれに付随した「個別契約書」を念頭に置こう。「ソフトウェア開発業務」は一般的に、ソフトウェア開発業者の請負的作業が中心となる。受託した側が「仕事の完成」を約し、委託した側が「結果に報酬を支払う」ことが多いからである。

(2) 契約の性質

 「ソフトウェア開発」をめぐって提起された訴訟として、「スルガ銀行対日本IBM事件」(東京地判平24年3月29日。その後控訴審判決(東京高判平25年9月26日。賠償額が大幅に減額された)を経て、上告中)がある。この地裁判決では、ソフトウェア開発業者側の不法行為責任が認められたが、この判決の前の段階において、ソフトウェア開発契約の性質を論ずるものも現れている。次に引用するように、ソフトウェア開発契約を、「対向型」と「共同型」に対置する考え方を示す滝沢孝臣裁判官の論稿[2]が1つの例である。

 「システム開発契約が裁判実務で問題となる場合の多くは、当事者の一方が他方にシステム開発を注文あるいは委託(委任・準委任)をし、他方がこれを請け負い、あるいは、受託するといういわば「対向型」の契約として締結される場合である。」

 この「対向型」に対し、近時のソフトウェア開発契約は、次のように「共同型」の契約として締結される場合が増加していることを、滝沢裁判官は指摘する[3]

 「システム開発と一口に言っても、その開発類型が他の契約類型から独立した、1つの契約類型として確立しているわけではないが、典型的なシステム開発契約としては、当事者の一方と他方とがシステム開発という共通の目的に向けて協働するといういわば「共同型」の契約として締結される場合が想定される。」

 小林秀之教授は、滝沢裁判官が「対向型」と「共同型」とに分類しているのに言及し、ソフトウェア開発契約を「共同型」と捉えることを提案する[4]。契約の性質としては、「請負」でなく、「共同開発契約」ということになる。

 「むしろ、開発対象となるシステムが巨大化、複雑化すればするほど、「対向型」より「共同型」、つまり当事者の一方と他方とが、システム開発という共通の目的に向けて協働するというケースが多くなるように思われる。このような共同開発契約は、当事者がいずれもシステム開発業者ということもあれば、システム開発業者・ユーザー間であっても成立し得る。」(下線は引用者による)

 ソフトウェア開発契約のように、民法が当初想定していなかったようにみえる契約については、「契約の性質」が何なのかが裁判上問題となることが多い[5]。ここで、本稿のこれまでの検討を踏まえると、重要なのは、「契約の性質」について、「どこまで当事者の合意による変更・排除が可能か」という視点だと思われる。そこで、以下で、ソフトウェア開発契約の「合意による変更の可能性」について、更に検討してみよう。



[1] (社)電子情報技術産業協会ソリューションサービス事業委員会『ソフトウェア開発モデル契約の解説』(以下、『モデル契約の解説』という。)(商事法務、2008)。

[2] 滝沢孝臣「システム開発契約の裁判実務からみた問題点」判タ1317号(2010)5頁を参照。

[3] 滝沢・前掲注[2] 5頁を参照。

[4] 小林秀之「金融システム開発契約に係る法的論点の帰趨―東京地判平24.3.29を契機として―」金法1952号(2012)57頁を参照。

[5] 近時の座談会で、「――情報システム開発契約に関する紛争は、それまで取扱いのない裁判所に属すると、契約の法的性質は何なのだという議論だけでも何往復もすることがあります」との発言もみられる。桶田大介弁護士発言「座談会・情報システムの開発・運用と法務」NBL1050号(2015年)5頁を参照。

 

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