実学・企業法務(第121回)
法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅰ〕食品
2. 外食産業の特徴(多店舗展開し、飲食サービスをシステム化している場合)
広義の「外食産業」は、顧客に飲食サービスを提供して、代金を受領する。
食事を作る場所・食べる場所・提供形態により次のa.~c.に分類できるが、消費者の喫食形態の変化が激しく、参入障壁も低いことから、分類は流動的である。
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a. 外食(家の外の店舗で食事する。)
ファーストフード、ファミリーレストラン、居酒屋、寿司、そば、ラーメン、喫茶等がある。
企業形態は、個人営業から大手チェーン店まで多様。
(注) 特定集団給食(学校、幼稚園、病院、福祉施設、事務所、寮等)は特殊な事業形態である[1]。 -
b. 中食(なかしょく。店舗で調理済みの弁当・惣菜等を購入して自宅等で食べる。出前を含む。)
① テイクアウト スーパー・コンビニ・デパ地下等で弁当・惣菜を購入し、自宅で食事。
ファーストフードの「持ち帰り」を含む。
② デリバリー 宅配ピザ、寿司・そば等の出前
③ ケータリング 家・会議室等で行うパーティ等にレストラン等が出向いて料理を提供。 - c. 内食(うちしょく。家の手作り料理。)
- ① 参入障壁が低い
- • 食品衛生法に基づいて保健所に届出ることにより、比較的容易に出店できる。
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• 主な業務は、店舗の出店、食材の仕入、加工(調理)、飲食サービスである。
多くの飲食サービスの提供において、高度技能や熟練は必要とされない。 -
• 土地、建物を購入せず、賃借すれば、出店時の初期投資額が少額で済む。
- ② 市場競争が厳しい
- • 立地条件が重要で、条件が良ければ競争は厳しい。
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• メニュー変更、店舗改装を頻繁に行う例が多く、出店・閉店が珍しくない。
外食店には流行があり、出店から年月が経つと集客力が低下する傾向がある。 -
• 同一グループで複数店舗を展開する方法はさまざまである。
自社(自前)で展開
フランチャイズで展開(店舗物件の調達は「加盟店の自己調達」又は「本社の貸与」)
一つの会社で「複数ブランド」店舗を運営
持株会社を設立し、傘下の子会社で複数の業態・ブランドを展開
大手の外食企業は、多店舗を賃貸借契約して保有し、新規契約や更新を頻繁に実施
- ③ 経営管理の合理化が進む
- • 衛生管理が最重要であり、食品衛生法の規制を遵守できる作業マニュアルにする。
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• 店舗やメニューの損益管理を厳しく行うことができる組織・システムを導入する。
多店舗展開した外食企業では、POSシステムやOES[2]等を導入して、各店舗の売上・在庫データから食材の消費量等を本社で集中管理する方法や、店舗毎の食材購買責任者が手順書に従って店舗端末から発注する方法等を実施している。会計システムと連動して決算する例も多い。
出店・退店の迅速な意思決定やメニュー変更に活用。
食材の保存期間が短いので、廃棄ロスが少ない効率的な発注に活用。 -
• 安全で安価な食材の安定調達の仕組みを構築する。
商社・卸から購入する方法、農家と野菜供給契約を締結する方法、自社農場を経営する方 法等。
中央集中調理方式を採用し、トレーサビリティも確保(調達先モニタリング、産地・製造過程・物流過程を確認)して品質を集中的に管理する大手企業もある。 -
• 労働集約型産業でパートタイマーやアルバイトが多い。
最近は従業員確保が難しく、作業者のシフト管理や最低賃金法への配慮等が重要。
顧客との現金授受が多く、紛失リスクがあるので、職務分掌の明確化・レジ締め業務の厳格化・送金の高頻度化等を行う。
[1] 健康増進法5章「特定給食施設」が該当する。施設設置の届出義務(20条)、栄養管理の基準(21条)が定められ、管理栄養士を設置しなければならない(21条1項)。継続的に1回100食以上、又は、1日250 食以上を提供する施設に適用される。
[2] POSシステム(販売時点情報管理システム)、OES(オーダー・エントリー・システム)