タイ:労働法最新情報(最低賃金の引上げ・労働者保護法の改正)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
昨年10月の中央労働委員会の決議に基づき、本年1月1日付で、タイ各県における最低賃金が改定された。2013年1月に当時のインラック政権の公約に基づき、1日当たり全国一律300バーツ(約1,000円)への引上げが行われて以来、4年ぶりの改定となる。今回の改定では、1日300バーツに据え置かれた一部の県を除き、5バーツから10バーツの引上げが行われ、バンコクを含む7県においては1日310バーツとなった。
今回の改定は昨年末から報じられていたものであり、昨年末の給与改定で対応済みの企業が多いと思われるが、対応未了の企業は、各県の最低賃金を充たすように給与体系を見直す必要がある。特に、これまで全国一律であったものが県毎に異なることとなるため、複数の県に事業所を有する企業は、事業所毎の検討が必要となる点に注意が必要である。
また、諸手当については、労働法上「賃金」に含まれないものがあるので、注意が必要である。すなわち、通常の勤務時間の労働の対価として支払われる手当については、かかる手当を含めた上で最低賃金を充たしているか否かを判断して良いと思われる。他方で、通勤手当や携帯電話手当等は「賃金」には含めることができず、これらを含まない「賃金」が最低賃金以上となっている必要がある。
中央労働委員会は、今回改定の対象となった地域別の最低賃金のほか、労働者保護法に基づき職種・技能別の最低賃金も定めているので、そちらも遵守する必要がある。
また、タイ労働法の基本法である労働者保護法の改正が検討されており、改正草案が本年1月4日付の閣議で承認された。最低賃金について言えば、中央労働委員会に対して、労働者の種類(高齢者など)に応じて異なる金額を設定する権限を付与する内容となっている。改正草案には、上記のほか、就業規則の届出義務の廃止及び定年退職金の義務化(定年の取決めのない場合において、60歳に達した労働者に対して解雇補償金相当額を支給しなければならない。支給しない場合の罰則規定あり)が含まれている。改正草案は、今後、国家立法議会において審議されることとなる。