◇SH1723◇債権法改正後の民法の未来17 債権譲渡の第三者対抗要件の見直し(3・完) 德田 琢(2018/03/23)

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債権法改正後の民法の未来 17
債権譲渡の第三者対抗要件(3・完)

德田法律事務所

弁護士 德 田   琢

 

Ⅴ 今後の参考になる議論

 法制審議会での議論により、問題意識・視点は浮き彫りとなったが、結局、合意形成は困難であることを理由として、旧法における債権譲渡の第三者対抗要件制度が大筋維持されたため、以下、合意形成がなされた結論を提示することはできないものの、当該問題意識・視点を列挙することとしたい。

(一) 登記一元化の問題点

 登記一元化の問題点として、①旧法上の対抗要件に比して、登記に要する費用が高い、又、実務的な負担が増える、②譲渡しようとしている債権と登記されている債権との同一性の確認が困難である、③債権譲渡の事実を秘したいという要請に応えられない、④債権譲渡登記に関する事務を行う登記所が限られており、利便性に問題がある、⑤譲渡人が個人の場合について、法人登記制度のある法人に比して、住所、氏名等の変更に対応する制度を構築することが難しい、又、住所等が公示されて第三者に知られてしまう等の個人情報の保護も問題となる、⑥登記一元化を完全に貫徹するのであれば、債権差押えについても登記を要求することとなるが、債権差押えについては、対象債権の存在を確認せずに発令されることもあり、実際上、登記を要求することが難しい、等の点が指摘されている。[1]

 法制審議会においても、⑤については、譲渡人が個人の場合には、氏名、住所、性別、生年月日といった情報を登記事項とし、譲受人は、譲渡人から譲渡人の戸籍の附票等を取得することにより、住所、氏名等の変更前に譲渡人が債権譲渡を行っていないかを確認する、又、第三者は登記事項概要事項証明書等の交付を受け得ず、譲受人は、譲渡人からこれを取得するものとすることにより、個人情報の保護を図る方法が提案され、⑥については、債権差押えについては登記を要求しない方法が提案されたが、今後も登記一元化の可能性について議論が継続されるのであれば、具体的な制度構築を行うに際し、上記のうち、何れの問題を重視して、何れの問題を捨象すべきか、又、重視すべき問題について如何様に解消するかが、更に検討課題となり得る。

(二) 債務者インフォメーション・センター論の問題点

 債務者をインフォメーション・センターとするという制度に対しては、上記のとおり、到達の先後の判断という債務者の負担や確定日付の限定的機能等の問題が指摘されているところ、これらを解消する方法としては、①通知又は承諾の時自体を公証する制度を設けることや、②供託原因を拡張して債務者の負担を軽減すること等が、一応考えられる。[2]

 しかし、①については、旧法の起草者さえ、当該制度を前提としていたものとされているものの、現実的には、簡易に第三者対抗要件を具備できる具体的なインフラを構築することが極めて難しい。また、②については,債権譲渡が競合したことのみを理由とする供託を認めることは、還付を受けるために確定判決その他の還付請求権を有することを証する書面が必要となる等、譲渡人や譲受人に及ぼす影響が大きく、債権譲渡による資金調達の阻害要因となりかねないと批判される。

 その結果、これらの点については、今般、特段の改正はなされなかったのであるが、債権譲渡の第三者対抗要件制度について、債務者をインフォメーション・センターとするという制度の中においても、幾許かの修正を加えていくべきなのか、それとも、登記一元化等の全く新たな制度を構築すべきなのかという問題は、今後も継続して検討課題となり得る。

(三) 債務者の承諾の問題点

 債務者の承諾には、上記のとおり様々な問題があるとして、法制審議会において一度は、債務者の承諾を第三者対抗要件から削る案が提言されるまでに至った。

 特に、確定日付のある書面で承諾をするのではなく、債務者が承諾をした後にその書面に確定日付を付した場合であっても、第三者対抗要件として有効であると解されているため、実務上、債務者の事前の承諾によって第三者対抗要件を具備する利用実態があるところ、債務者をインフォメーション・センターとする制度であるためには、債権が具体的に何時譲渡されるのか分からない時点で債務者が承諾しても、債務者は公示機関としての役割を果たし得ないという批判があり、如何なる場合であれば事前の承諾が有効であるのかは問題となり得るという指摘が根強くなされており、更に、当該事前の承諾が、包括的になされるに至っては、第三者対抗要件としての有効性に疑義があるという指摘がなされていた。[3]

 結局、有効と無効の線引きを明文化することが容易ではないことから、今般、特段の改正はなされなかったのであるが、旧法における債権譲渡の第三者対抗要件制度が維持された状況においても、今後、具体的な事例において、事前の承諾又は包括的承諾の有効性が問題となることは十分に考え得ることから、引き続き検討課題となり得る。

 

Ⅵ 所感

 債権譲渡の第三者対抗要件制度は、その改正を目指して、極めて活発な議論が行われながら、結局、大きな改正が行われなかった代表的論点の一つである。

 当該論点の解決には、理念的な議論もさることながら、登記一元化であっても、通知又は承諾の時自体を公証する制度であっても、それを実現するための具体的なインフラを整備する必要があることから、現実には未だ整備されていない当該インフラを如何様にイメージするのかという前提次第で、意見が分かれる面があり、極めて合意形成が難しい議論であったように思われる。

 また、旧法の債権譲渡の第三者対抗要件制度に不都合が多々生じており、必要に迫られて改正の議論が巻き起こったという流れではなく、理念が先行して改正の議論がなされたという面があったことが、合意形成が難しい一因となったことも、否定はできないように思われる。

 しかし、一方で、法制審議会での議論において、様々な問題意識・視点がクローズアップされたことは事実であり、今後、債権の流動性の促進を図る流れの中で、債権譲渡の第三者対抗要件制度における問題点が、更に浮き彫りになることも考えられることから、この度の法制審議会においてなされた議論を参考にしつつ、今後、同様の議論が再燃する可能性を常に念頭に置いておく必要がある。

以上



[1] 部会資料9-2、部会資料52

[2] 部会資料9-2、部会資料37、部会資料74B

[3] 部会資料37、部会資料52、部会資料74B

 

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