◇SH1047◇実学・企業法務(第30回) 齋藤憲道(2017/03/06)

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実学・企業法務(第30回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

(4) 情報(知的財産、経営情報)

1) 知的財産権

(3) ビジネス・モデルの基盤になる知的財産権
 企業経営は、①事業戦略(市場・規格[1]・販売・投資・提携等)、②研究開発戦略(商品・要素技術)、③知財戦略(必要な知財権を確保)の3要素を一体運営することによって成果が上がる。
 知的財産が事業基盤に重要な要素になっているビジネスが多く、次にその例を示す。

  1. (a) 医薬品
     素材や原材料の業界では、1件でも有効な特許があれば事業が成り立つ。
     医薬品の開発は、①最初に、天然素材・化学合成・バイオテクノロジー等の技術を用いて収集した数千から1万個以上の新規物質を対象にして基礎研究を行い、②その中から非臨床試験(動物・細胞培養による有効性・安全性の試験)を経て有効な候補を絞り込み、③さらに臨床試験(治験[2]という。ヒトを対象にした有効性・安全性の試験)等を経て、④出来上がった薬を厚生労働省[3]に「製造承認」申請し、⑤その承認を得て、患者に投与される医薬品が完成する。この①~⑤の研究・開発・試験等は、概ね9~17年の長期間にわたって行われる。
     ①の開発着手から⑤の医薬品完成までの間に、膨大な素材・材料や実験のデータが作成されるが、その大半は最終候補を絞り込む(つまり、無効又は有害な候補を取り除く)ために用いられるのであり、実際に患者に投与される1つの医薬品(商品)に使用される材料や特許は1件(又はごく少数)である。
     医薬品開発に関する重要な技術情報(秘密情報)の大半は、効能が無いか副作用が発生する失敗データであるといえる。そして、最後に残った候補だけが商品化される。
  2. (b) 電気・通信
     電気・通信業界では、特定方式を採用した異なる機種間で情報伝達・接続等を可能にし、早急な普及を図るために、信号の構成・処理方法等について必要な技術・特許等を有する複数の企業が共同で規格を策定することがしばしば行われる。例えばDVDやBlu-rayは、多数の特許を用いてはじめて一つの商品規格を設定できるので、それぞれ複数の企業が参加してパテントプールを形成している。
     ただ、このような標準化及びその運用は、市場競争に及ぼす影響が大きいため、日本の公正取引委員会は「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」を公表して、業界の健全な発展を促している。
  3. (c) ブランド・ビジネス
     商標・商号を中心にして形成される企業ブランドは、企業の販売チャンネルやビジネスモデルを構築するうえで、重要な役割を果たしている。この分野では、知的財産権が最大限に行使される。
    1. (ⅰ) 並行輸入
       著名ブランドを用いた商品は、デザイン・設計・材料調達・製造・販売等をそれぞれ最適の国で行う国際分業体制をとる例[4]が多い。そして、市場では、代理店制度を設けてブランドの高級イメージの維持・向上を図る。そこで、並行輸入の可否を巡る訴訟がしばしば提起されてきたが、日本では、現在、独占禁止法・関税法等において[5]合法とされている。
       基本的に、①商標が適法に付されていること、②外国と日本の商標権者が経済的・法律的に密接な関係があり同一とみなされる(グループ会社等)こと、③真正品である(商品の品質が同一)こと、という3要件を満たせば、日本では法的な問題は生じない。
       なお、並行輸入を広くは認めていない国[6]もあり、国際取引では注意する必要がある。
    2. (ⅱ) テーマ・パーク・ビジネス
       商標権が期間満了のつど更新することによって無期限に維持できる特性を活かし、商標登録した著名キャラクターを中心に据えてテーマパーク・ビジネスが展開されている。
       テーマ・パークは、建物・設備等のハードと、運営のソフトで構成されている。ソフト面で重要な役割を果たすのは商標権や著作権等のコンテンツであり、パーク内のアトラクション・物販・飲食等は、これらの知的財産権に裏付けられている。
    3.  
    4. (例1) (株) オリエンタルランド
       ディズニー関係の著作権や商標権を軸にしてビジネスが構築されている。
       権利者である米国法人との間で、ライセンス契約や運営に関する業務提携契約を締結し、事業が展開される。
    5. (例2) (株) ユー・エス・ジェイ
       ユニバーサルグループから知財ライセンスを受け、それを基盤とするビジネスが構築されている。他の著名キャラクターに関する商標権や著作権等のライセンスも複数社から取得し、全体として一つのテーマパークが構成される。
  4. (d) 出版・音楽・映画等の著作権ビジネス
     著作権関連ビジネスでは、製作企業・作詞家・作曲家・原作者・脚本家・演奏家・俳優・制作スタッフ・流通企業・その他の多くの関係者の権利関係を契約で確認して、ビジネスを構築する。
     近年、デジタル・ネットワーク時代が到来して映像・音楽・ゲーム等の新たなビジネス・モデルが次々と開発されて、既存の法令による権利関係の調整だけでは対応しきれない問題が続出し、各国で著作物の権利に関する法制度や契約のあり方が見直されつつある。
    1. (ⅰ) 映画
       日本の映画製作は、一般的に1本の映画を製作するたびに資金力ある構成員が出資する製作委員会方式によって行われる。完成した映画の取り扱いに関しては、権利の帰属、上映、DVD等ビデオグラム化、TV放送、公衆送信、商品化等のビジネス展開の条件(著作権に関するものが多い)が契約される。
       米国をはじめ、日本以外の多くの国々では、プロデューサーが中心になって1本の映画を製作する会社を設立し、その会社が、原作買取・脚本・出演・監督から映画制作までの仕事と権利関係の調整を一括して担当し、映画の配給・利用及び資金の調達・回収等までを一元化して行うプロデューサー方式が多用されている。
    2. (ⅱ) 広告、宣伝、イベント
       キャラクター商品・音楽・映像・写真等を用いてビジネスを行うと、通常、商標権・著作権・著作隣接権・肖像権等の多くの権利を使うことになるので、関係者間で事前に権利・義務・報酬等に関する取り決めを行い、契約しておくことが必要である。
       著名なモノの所有者等が広告利用の対価を求めることも多く、実務では[7]、トラブルが生じないように処理(=対価を支払う)するのが無難とする向きがある。


[1] カセットテープは、フィリプスが互換性確保を条件に基本特許を無償公開したことにより普及した。

[2] 第Ⅰ相(少数の健康者を対象に副作用等の安全性を確認)、第Ⅱ相(少数の患者を対象に有効・安全な投薬量・投薬方法を確認)、第Ⅲ相(多数の患者を対象に有効性・安全性を既存薬と比較等)の3段階で行う。

[3] 中央薬事審議会

[4] 例えば、LOUIS VUITTONは1850年代に旅行かばんの製造・販売業を開始したフランスの会社だが、その後、世界のデザイナーを起用(又はコラボ)し、フランス・スペイン等で製造し、世界の10以上の拠点に同社商品をフルラインで取り扱う専門店を設ける他、世界の主要市場に販売拠点を設置している。

[5] 公正取引委員会事務局「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 第三 並行輸入の不当阻害」、及び財務省関税局長「関税法基本通達第6章「通関」第8節「知的財産侵害物品(輸入)」69の11-7」

[6] 例えば、オーストラリア商標法123条は、登録商標権者の同意に基づいて付された商標の並行輸入を規制しないように読めるが、この「同意」を厳格に解釈して規制する運用・裁判例が見られるので現地の専門家の助言を得たい。

[7] 最高裁平成16年2月13日「ギャロップレーサー事件」を参照すれば、モノのパブリシティ権が否定されると考えても、極力、トラブルは避けたいと考える。

 

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