◇SH1388◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(11)-組織文化の革新の理論的考察② 岩倉秀雄(2017/09/12)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(11)

――組織文化の革新の理論的考察②――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、成熟期の組織のリーダーが直面する、組織文化の革新の進め方をについて、シャインの指摘を踏まえて、文化変容の3段階モデルを提示し、第一段階の現状否認と生き残りの不安・罪悪感の創造について説明した。シャインは、大きな変革を行なうためには、メンバーが変革しようとする気になる何らかの脅威・失敗したという感覚、危機感、不満が必要であり(解凍の過程)、成功するためには、カリスマ的経営者の存在や従業員教育(教育による介入)の重要性を指摘している。

 今回は、前回に続いて文化変容モデルのうち、生き残りの不安(革新の促進要因)と学習の関係[1]を検討する。生き残りの不安が学習の不安(革新への抵抗)以上に大きくなければ、文化の革新は発生しない。最初に、シャインに基づき、学習の不安(抵抗)の発生原因を考察し、次に学習における心理的安全性の作り方を検討する[2]

 学習の不安(革新への抵抗)は、以下により発生する。

  1. 1. 権力や地位を失うことへの恐れ
    新しいことを学習した結果、今までと違う低い地位に着くかもしれないという恐れ。
    これにより、自分の権力が今までより弱くなることへの恐れが抵抗を生む。
  2. 2. 一時的に出来なくなることへの恐れ
    変化の過渡期で、古いやり方を放棄した一方で新しいやり方をマスターできず、自分の力が衰えた感覚を持つ場合。
  3. 3. できないために制裁を受けるのではないかという恐れ
    新しいやり方を学ぶのに時間がかかると、生産性が落ちたことによる制裁を受けるのではないかと言う心配を生む。例えば、コンピューターの活用等で見られる。
  4. 4. 自分自身のアイデンティティを失う恐れ
    組織における現在の考え方が自己のアイデンティティの強力な源泉になっているとき、新しい文化で求められるタイプの人間になりたくないと思う傾向がある。
  5. 5. グループの一員でなくなる恐れ
    グループの一員であることを決めている共有の仮定から、新しいやり方や考え方を身につけることによりグループメンバーでなくなることを避けるために、新しい考え方や行動を身につけることに抵抗する。

 以上、学習の不安の発生要因を述べたが、学習の不安に対する防御反応として、(このままでは生き残れないと言う)否定的確認を迫るデータに対し以下の反応を示す傾向がある。

  1. ① 拒絶(データは有効でない、一時的なもの、とるに足らないもの等)
  2. ② 身代わり・責任転嫁・言い逃れ(原因は別の部署にある、自分には当てはまらない、自分より先に他の人が変わるべき等)
  3. ③ 画策・交渉(変化の努力に特別の代償を要求、変化は自分にとって意味があり長い目で自分の利益になる、他の人が変化を受入れた場合にだけ、自分も受入れる等)

 変化を求められている人に対して、新しいやり方を学習するために古いやり方や仮定を棄却しても大丈夫だという「心理的安全性」を生み出すほうが、単純に脅威・不安・罪悪感を増大させて変化を促すよりも、対象者の心理に防御を固めることを促進しないので、有効な方法である。[3]

 心理的安全性の作り方としては、シャインは、①説得力のある積極的ビジョン、②公式なトレーニング、③学習者の参加、④関連する「身内」グループおよびチームの非公式訓練、⑤練習の場、コーチ、フィードバック、⑥明確な役割モデル、⑦支援グループ、⑧望ましい変化に一致したシステムと組織構造、の8項目を挙げ、変革プログラムには全てが必要であると述べている。また、8項目の条件を満たすことが困難であったり、達成するためのエネルギーと資源を提供することが難しかった場合には、改革は失敗するとも述べている。(前掲シャイン115頁)

 このように、組織文化の革新は非常にエネルギーの要る全社的な取組みである。

 筆者が、全酪連で「チャレンジ『新生・全酪』運動」という組織風土改革運動を実践したときには、組織不祥事が発生し組織存続の危機に対応するために時間が無く、このような理論的考察を踏まえた用意周到な取組みはできなかったが、組織文化革新の研究と実践を経て、今、改めて振り返るとシャインの指摘に納得する。

 次回は、心理的安全性の作り方について、より詳しく検討する。



[1] Edgar H.Schein(2009)“The Corporate Culture Survival Guide:New and Revised Edition”尾川丈一監訳・松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)109頁~112頁)

[2] 同上113頁~118頁

[3] 前掲[1]『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』112~113頁。

 

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