文化庁、JASRACによる音楽教室における著作物使用料規程の実施を認める長官裁定
−−JASRACは4月1日から管理開始へ−−
文化庁は3月7日、音楽教室を運営する企業・団体等で構成する「音楽教育を守る会」からの著作権等管理事業法に基づく裁定申請について、文化庁長官が「裁定」を行うとともに、日本音楽著作権協会(JASRAC)に対して使用料規程の実施に当たっての適切な措置について「通知」を行ったことを公表した。
音楽教室における著作物の使用料徴収に関しては、JASRACが昨年2月27日に「楽器教室における演奏等の管理開始について」を公表し、「利用者団体との協議を経て、2018年1月から管理を開始する予定」であるとしていた。これに対して音楽教室事業者側では「音楽教育を守る会」を結成し、同会の会員249社が6月20日に、「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」を東京地裁に提起していたところである(現在も係属中)。
その後、音楽教育を守る会は、JASRACから届出のあった使用料規程(以下「本件使用料規程」)については「係争中であることから、当該係争の判決が確定するまで、その実施を保留すること」を求めて、12月21日付で著作権等管理事業法に基づく文化庁長官の裁定の申請を行った。これを受けて文化庁長官が文化審議会に諮問し、今年3月5日付で文化審議会は「裁定制度は個別具体の利用行為に著作権等が及ぶか否かの判断に立ちいることはできない」などとして「本件使用料規程の実施を保留することはできない」とする答申を行った。そして、文化審議会からの答申を踏まえ、3月7日、文化庁長官として同趣旨の裁定を行うとともに、JASRACに対して本件使用料規程の実施に当たっての適切な措置について通知を行ったものである。
JASRACでは3月8日、本裁定を受けて、4月1日から楽器教室における演奏等の管理を開始するとして、「楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A)」を公表している。
以下、本件に関して、1文化庁長官裁定、2JASRAC理事長宛て文化庁長官通知、3音楽教育を守る会の会員向けコメント、4JASRACの著作権管理を開始する旨のコメントの概要を紹介する。
1 文化庁長官裁定(29受庁第1299号、3月7日)
○主文
平成29年6月7日付けで一般社団法人日本音楽著作権協会から文化庁長官に届出のあった使用料規程については、音楽教育を守る会が求める実施の保留は行わず、著作権等管理事業法第24条第3項に基づき、本裁定の日をもって実施の日とする。
○理由(抜粋)
「著作権等管理事業法第24条に定める裁定制度の性格については、届出制を前提とする使用料規程に関し、当該使用料規程に定める事項(「使用料の額」や「実施の日」等)について、利用者代表との協議が成立しない場合に、一方当事者からの申請に基づき文化庁長官がその事項を定めるに過ぎない制度である。すなわち、裁定制度がその判断の対象として予定しているところは、あくまでも使用料規程に定める事項にとどまり、著作権等が及ばないことが一義的に明らかである場合等は異なる扱いをすることがあり得るとしても、当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権等が及ぶか否かの判断に立ち入ることはできないと考えられる。」
「別件訴訟における争点である相手方の請求権の存否については、法律分野に係る有識者からもその判断が容易ではない旨の意見陳述があったところであり、本件使用料規程については、少なくとも、著作権等が及ばないことが一義的に明らかである場合等には当たらない。このことを踏まえると、当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ばないと利用者代表が主張していることを理由として、文化庁長官に届出のあった使用料規程の実施を裁定によって保留することはできないと考えられる。」
「申請人の求めるとおり、別件訴訟の判決が確定するまで裁定によって本件使用料規程の実施を保留することが妥当であると認めることはできない。また、このように、裁定によって本件使用料規程の実施を保留しなかった場合であっても、そのことは、当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ぶことを公に認めるものではなく、この点については司法判断に委ねられるものであることは上記のとおりである。」
「以上のことから、本件使用料規程を実施することを認める裁定を行う場合には、司法判断により著作権等が及ばないとされたときにも、事後的な精算により秩序は回復されることになるのに対し、申請人の求めるように別件訴訟の判決が確定するまで本件使用料規程の実施を保留する裁定を行う場合には、司法判断の結果次第では、著作権者等に回復困難な損害を与えることになると考えられる。」
「上記のとおり、裁定によって本件使用料規程の実施が認められるとしても、当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ぶか否かは司法判断に委ねられるべきものである。このため、確かに、相手方が本件使用料規程に基づき使用料徴収行為を開始する場合には、その態様如何によっては、申請人が指摘するとおり、当該徴収行為により社会的混乱が生じるおそれが考えられる。この点、相手方は、文化審議会著作権分科会使用料部会に提出した平成30年2月1日付け文化庁長官宛文書において「演奏権が及ぶことを争う者に対しては、演奏権が及ぶかどうかの争いがある使用態様につき、司法判断が確定するまでは個別の督促(利用許諾契約手続の督促・使用料の請求)は行わない」こと(ただし、「演奏権が及ぶ(相手方の使用料請求権が認められる)との司法判断が確定した場合には、契約手続督促・使用料請求業務を保留していた音楽教室事業者に対しては、使用料規程が実施された日以降の使用料相当額を遡及して請求する」こと)を提案しているところであり、社会的混乱の回避のため、演奏権が及ばないと主張している音楽教室事業者に対する配慮が期待されるところである。また、演奏権が及ぶことを争わない者に対して使用料の請求を行う場合であっても、本件使用料規程において規定する料率を上限とし、利用者の利用の実態等を踏まえ、適宜協議を行うなどにより適切な額の使用料の額とすることも期待されるところである。
以上のことを踏まえ、文化庁長官として、相手方に対し、本裁定とは別に、本件使用料規程の実施に当たって社会的混乱を回避すべく適切な措置を採ることを求めることとする。」
2 JASRAC理事長宛て文化庁長官通知「使用料規程の実施に当たっての適切な措置について(通知)」(29庁房第455号、平成30年3月7日)
平成29年6月7日付けで貴協会から届出のあった使用料規程(以下「本件使用料規程」という。)について、平成29年12月21日付けで音楽教育を守る会から申請のあった文化庁長官の裁定については別添裁定書記載のとおりです。
もとより、本件使用料規程が対象とする音楽教室における著作物の使用については、音楽教育を守る会の会員の一部を原告、貴協会を被告とする請求権不存在確認訴訟が東京地方裁判所において現に係属中と承知しています。
そのような状況の中、貴協会が、当該訴訟の終了を待つことなく、今回の裁定を踏まえて本件使用料規程に基づく使用料の徴収行為を開始することとした場合には、その態様如何によっては、社会的混乱が生じるおそれが考えられます。
このため、貴協会におかれては、本件使用料規程の実施に当たって、音楽教室における演奏について演奏権が及ぶことを争う音楽教室事業者に対しては、演奏権が及ぶかどうかの争いがある使用態様につき、司法判断等によって請求権が認められるまでは個別の督促(利用許諾契約手続の督促・使用料の請求)を行わないこと、また、音楽教室における演奏について演奏権が及ぶことを争わない音楽教室事業者に対しても、その使用料の請求を行うに当たっては、本件使用料規程において規定する料率を上限とし、利用者の利用の実態等を踏まえ、適宜協議を行うなどにより適切な使用料の額とすること等、社会的混乱を回避すべく適切な措置を採るよう留意してください。
3 音楽教育を守る会「文化庁長官裁定と今後の対応について」(会員宛て、抜粋)
利用者代表である「音楽教育を守る会」は、当会の会員らを原告として音楽教室における講師や生徒の演奏には演奏権が及ばないと司法で争っている中で、演奏権が及ぶ事を前提とした使用料規程の内容についてJASRACと協議など出来ない事は明白で、しかるに裁判の判決確定までの使用料規程実施保留を文化庁に求めました。しかし、文化審議会は届出制を基本としている管理事業法の枠内での判断に終始し、演奏権の存否について争っている者への督促は行わないとの行政指導をもって我々への配慮をしたとの裁定を下しました。
この状況を踏まえて今後の進め方を確認させて頂きます。
今回の裁定は司法で争っている演奏権の有無については一切関与せず、その審議に影響を与える事はないと裁定理由で明記されており、それはその通りだと考えます。
しかしながら、分科会審議は非公開であったので詳細は公開できないものの、今回の審議の場において我々の主張を認める意見を、権利者や著作権についての識者が次々と述べられました。それにもかかわらず、審議は手続き論に終始しこれらの貴重なご意見は裁定には全く反映されなかったことは残念です。裁判においてはこれらの権利者や識者の声が大きな力になると確信しております。
仮に何らかの演奏権が肯定される場合においては、その判決に基づいて、演奏権が及ぶとされた範囲に基づいてJASRACと初めて料率について協議を行うべきであり、今回示されている根拠の無い規程でそのまま請求される事はあり得ません。
会員の皆様におかれましては、音楽教室での演奏のどの部分に演奏権が及ぶのかとの司法判断が確定していない段階では、利用許諾契約手続や使用料支払いに応じない事が賢明と思われますので慎重に対応くださいますよう願い申し上げます。
なお、仮に判決において音楽教室での演奏(の一部)に演奏権が及ぶと判断された場合に、今回の裁定がどの様に影響してくるかについても文化庁に確認を求めました。
JASRACに対しては、音楽教室での演奏について演奏権の存否を争っている事業者については、個別の督促を行わないこととの行政指導がされていて、彼らに法外な演奏料を支払う心配は有りませんが、演奏権の存否を争わない事業者とは個別に協議して条件を設定するとしています。
音楽教育においては多くのPD(作曲家の死後50年を経て権利が消滅したもの)やJASRACに信託していない楽曲も多く使用しており、且つ、ダンス教室のようにCD等の演奏が常に伴っている訳では無く、また、講師の模範演奏や部分的なテクニックの指導から生徒の演奏まで、ひとくくりに演奏といっても、教室における演奏には様々な場面があるため、例え演奏権を認めた事業者であってもその使用料算定は非常に難しく、そして僅かでなければなりません。
この難しい協議を当会に所属されていない事業者が個別にJASRACと行う事は困難があると強く懸念しています。
今からでも遅くは無いので当会に所属されて司法判断を待たれる事を願うものです。
先にも述べましたが多方面の方々が我々の主張を裏付ける意見を述べられています。
今後、これらの方々をご紹介したり、そのご意見を広めて行く活動に注力していきます。
4 JASRAC「2018年4月1日から楽器教室における演奏等の管理を開始することになりました」(3月8日)
当協会は、楽器教室における演奏等の管理を、2018年4月1日から開始することといたしました。創作者の権利と音楽文化の未来を守っていくために、皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。
○ これまでの経緯
当協会は、昨年6月7日、楽器教室における演奏等に関する使用料規程を文化庁長官に届け出て、本年1月1日からの管理開始を予定していました。ところが、「音楽教育を守る会」(以下「守る会」といいます。)が昨年12月21日、文化庁長官に対し、著作権等管理事業法24条1項に基づく裁定の申請をしたため、同条3項の定めに従って管理開始を延期していました。
守る会からの裁定の申請の内容は、使用料規程の内容に関するものではなく、当協会を被告として東京地裁に係属している請求権不存在確認訴訟の判決が確定するまで、本件使用料規程の実施の保留を求めるものでした。
2018年3月7日、同日を使用料規程の実施の日とする旨の文化庁長官の裁定がされ、守る会が求める使用料規程の実施の保留は行われませんでした。当協会は、楽器教室を運営される事業者の方々へのご案内の期間などを考慮し、4月1日から管理を開始することといたします。
○ 新規管理契約割引
適用する規定は、使用料規程中の「音楽教室における演奏等」です。他の分野と同様、使用料の種類は3通りの方式(年額使用料、月額使用料及び曲別使用料)が用意されていますので、その中から最適なものを選択していただくことになります。なお、9月30日までに契約申込書をご提出いただいた場合には、1年間に限って使用料の10%を減額する新規管理契約割引が適用されます。
○ 本件管理対象の範囲
楽器メーカーや楽器店が運営する楽器教室を対象とします。これらの教室の管理水準が一定のレベルになるまで、当分の間、個人が運営する楽器教室については管理の対象としません。将来的に管理の対象と考えているのは、ホームページなどで広く告知や広告して不特定多数の生徒を常時募集しているような場合を想定しています。
○ 楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A)(抜粋)
- Q1 楽器教室における演奏等の管理はいつ開始されますか?
- A1 2018年4月1日から管理開始になります。
- Q5 今回、どのような楽器教室が使用料徴収の対象となるのですか?
- A5 楽器メーカーや楽器店が運営する楽器教室が対象となります。
- Q6 個人教室は対象となりますか?
- A6 個人教室については、管理水準が一定のレベルに達するまで管理の対象としないこととしています。
- Q9 楽器教室にはどのような使用料規定が適用されるのですか?
- A9 適用する規定は「音楽教室における演奏等」になります。他の分野の使用料規定と同様、利用許諾の方法や使用料の種類について事業者の方々に3通りの方式(年額使用料、月額使用料、曲別使用料)を用意しています。
- Q13 音楽教育を守る会の加盟事業者が2017年6月20日、東京地裁に対して「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」を提起し、係争中と報道されていますが、それでも2018年4月1日から管理を開始するのですか?
- A13 この訴訟とは別に、音楽教育を守る会は、昨年12月21日、文化庁長官に対し、著作権等管理事業法24条1項に基づく裁定の申請をしたため、同条3項の定めに従い、今年1月に予定していた本件使用料規程の実施を延期しました。2018年3月7日、同日を使用料規程の実施の日とする旨の文化庁長官の裁定がされましたので、JASRACは、楽器教室を運営される事業者の方々へのご案内の期間などを考慮し、4月1日から管理開始することといたしました。
- Q16「請求権不存在確認訴訟」でJASRACの敗訴が確定した場合はどうなるのでしょうか?
- A16 仮にそのような判決が確定した場合、それまでJASRACにお支払いいただいた著作物使用料につきましては、全額ご返金することになります。
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文化庁、著作権等管理事業法に基づく裁定について(3月7日)
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/1402106.html -
○ 裁定書
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/07/a1402106_02.pdf -
○ 通知書
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/07/a1402106_03.pdf -
○ 文化審議会答申
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/07/a1402106_04.pdf -
JASRAC、2018年4月1日から楽器教室における演奏等の管理を開始することになりました(3月8日)
http://www.jasrac.or.jp/news/18/0308_01.html -
○ 楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A)
http://www.jasrac.or.jp/info/gakki/faq.html -
音楽教育を守る会、文化庁長官裁定(3月7日)について(3月9日)
https://music-growth.org/topics/180309.html -
○ 音楽教育を守る会会員向け「文化庁長官裁定と今後の対応について
https://music-growth.org/common/pdf/180309_message.pdf -
○ 音楽教育を守る会、文化審議会著作権分科会の答申(3月5日)に対する当会の見解(3月6日)
https://music-growth.org/topics/180305.html -
○ 音楽教育を守る会、知的財産法の第一人者である中山信弘東京大学名誉教授から意見書をいただきました(2月5日)
https://music-growth.org/topics/180205.html -
参考
SH1256 音楽教育を守る会、音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟を提起(2017/06/26)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=3895684 -
SH1049 JASRAC、楽器教室における演奏等の管理開始についての概要を公表(2017/03/06)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=3132457