◇SH1166◇司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(2) 西田 章(2017/05/18)

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司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(2) 

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

2 エントリーシート(ES)作成

(1) 何を目標としてESを作成するのか

 エントリーシート(ES)は、自己を面接審査に進ませるべきであると訴える準備書面のようなものです。企業向けには、チームプレーに必要なコミュニケーション能力やリーダーシップがあることを主張することになり、法律事務所向けには、リサーチ力や起案力があること、または、将来の営業力を期待させる人脈を訴えることになります。

 私が就職ガイダンスでメールアドレスを伝えると、「ESを添削してください」との依頼でESを送ってきてくれる熱心な受験生がいます。その熱意には感心するのですが、ESを文章だけで添削することにはあまり意味がありません。受験生は法律事務所に提出するESに「粗相がないように」と考えます。しかし、ESの目的は、読み手である採用担当者に対して「本人に直接会って話を聞いてみたい」と思わせる「何か」を盛り込むことができるかどうかがポイントになります。よって、文章を洗練するだけでは足りないのです。

 法律事務所の書類選考では、予備試験の現役合格者は、それだけでESが「光る」ので、自由記入欄を無難にまとめるのも正解です。他方、法科大学院修了生は、失点を防ぐだけでは書類選考を通過できません。限られた文字数の自由記入欄に、20数年間の人生で培ってきた経験と人脈の中から、何を切り出して自分を表現するかのセンスが問われることになります。

 

(2) 自己PR

 受験生のESには、「復興支援のボランティア活動」「インド旅行」「サークルの幹事」などの経験を通じて「チームワーク」や「リーダーシップ」を学んだ、という記述が目につきます。しかし、これらエピソードは採用担当者に見慣れたものなので、それだけでは大量のESを数秒毎にめくっていく採用担当の手を止めるだけのインパクトはありません。一歩進んで志望動機にまで結び付くような一貫性のあるストーリーを提示してもらいたいところです(例えば、「インド旅行」経験に加えて、「だからインド赴任も厭わない」とまで言える覚悟があるかどうかです)。

 むしろ、奇を衒わずに「ラグビーで全国大会出場」とか「剣道2段」といった経歴を主張できるほうが評価される可能性を秘めています。学業成績の優秀者は、「要領のよさ」や「事務処理能力の高さ」は推認されますが、順風満帆に育って来た新人は逆境に弱いリスクが懸念されます。その点、体育会活動の実績は「素直に指示に従う」「困難な局面でも諦めない精神力がある」「ハードワークにも負けない体力がある」ことを期待させてくれます。

 

(3) 志望動機

 上場企業への志望動機を起案する際には、有価証券報告書を眺めて、他業界や競合他社とも比較しながら、「なぜこの業界で働きたいのか?」「この業界の中でなぜ貴社で働きたいのか?」を説得的に主張することになります。

 これに対して、法律事務所については、情報が圧倒的に不足しています。依頼者名も財務データも公開されていません。どの事務所の経営理念も「クライアント・ファースト」に尽きてしまいます。そのため、「貴事務所でなければならない」という事情を見出すことは困難です。それでも、所属弁護士が過去に関与した裁判例や執筆した論文があれば、これらに目を通して、弟子入りを志願するような気持ちで起案すれば、「数打ちゃ当たる」型の応募者のESとは違うものになっていくはずです。

 法律事務所への応募のポイントは、採用担当者に「こいつは書類選考で落とすわけにはいかず、一度は会っておかなければならない」という「ご縁」を感じさせられることができるかどうかです。これには、「過去」における自分と応募先との接点を訴える方法と、「将来」における自分のキャリアと応募先の業務が交差する点を訴える方法があります。「過去」の振り返りとしては、もし、自分の親族や大学時代の指導教官でも応募先に所縁がある人物がいるならば、その人脈を具体的に明示することが考えられます。

 先ほど、自己PRの項目で「インド旅行」エピソードに加えて「だからインド赴任も厭わない」とまで言い切る作戦に言及したのは、「将来」を見据えた意欲を訴えるものです。自分よりも基本スペックに勝る候補者と競合した場合には、彼・彼女らが敬遠するリスクも取ることで初めてチャンスが生まれるのです。もっとも、それは卑屈になることを意味しません。最近では「お茶汲みでも何でもやります」と記載する方もいますが、お茶汲みにはその業務に適した事務員を採用します。口先ではなく、自身の経歴や人脈を生かせる方法を模索してみてください。

 (続く)

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