経産省、「我が国企業による海外M&A研究会報告書」を公表
--経営者目線での重要なポイントを「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」としてまとめる--
経済産業省は3月27日、「我が国企業による海外M&A研究会」(座長=宮島英昭・早稲田大学商学学術院教授)の報告書等を公表した。
近年、海外M&Aは、激しいグローバル競争の中で、日本企業がスピード感を持った成長を実現していく上で重要かつ有効なツールとなっており、これまで国内を主たる事業基盤としてきた企業も含め、海外M&Aの裾野が一層拡大しているところである。他方で、海外M&Aに関しては、国内のM&Aや現地法人設立による海外進出と比較しても、制度・言語・文化面の違いをはじめとして難度が高い側面があり、期待された成果を十分挙げられていない事例も少なくないとされている。
そこで、経産省では昨年8月より、海外M&Aに関し豊富な経験と知見を有する専門家を集めた「我が国企業による海外M&A研究会」を開催し、日本企業が抱える課題やその克服のため、海外M&Aに積極的に取り組む企業へのヒアリングや専門家を交えた議論、公開シンポジウムを通じて検討してきた。今般、検討の成果として、日本企業が今後、海外M&Aを有効に活用していく上で留意すべきポイントと参考事例をまとめた「報告書」をとりまとめたものである。
さらに、研究会等において、海外M&Aに取り組む上では経営者の果たすべき役割やコミットメントが重要であるとの指摘が多くなされたことを踏まえ、今後の海外M&Aの取組みに役立てるよう、特に経営者目線で重要なポイントを事例とともにまとめた「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」を公表した。
「報告書」と「9つの行動」の主なポイントは、以下のとおりである。
1 報告書のポイント
海外M&Aを企業の成長に有効活用するためには、経営トップ自らが海外M&Aの本質を理解し、プロセス全体に主体的にコミットして、リーダーシップを発揮した上で、個別案件の実行力のみならず、戦略ストーリーの構想力、基盤としてのグローバル経営力を併せ持つことが重要である。
(1) 「海外M&Aの実行力」
海外M&Aを効果的に活用していく上では、デュー・デリジェンスやバリュエーション、契約交渉といったM&Aのディール実行に関わる専門的な知見やスキル、買収契約成立後の統合プロセス(PMI)といった「海外M&Aの実行力」が重要であり、海外M&Aを実行する企業自身が十分なM&Aリテラシーを身につけ、外部アドバイザーに過度に依存することなく、主体的にM&Aプロセスを実行できる能力を向上させていくことがまずは重要である。
(2) 「M&A戦略ストーリーの構想力」と「グローバル経営力の強化」
一方で、海外M&Aを自社の成長に有効活用している企業は、M&Aの実行力にとどまらず、海外M&Aの実行の前と後の「平時」の段階から、将来の海外M&Aを見据え、海外M&Aを日常事として地道な取組みを行っている。
「前」の段階では、自社の置かれている状況を正しく分析し、中長期の時間軸で自社の「目指すべき姿」をまずはっきりさせた上で、そこから逆算して、成長戦略・ストーリーに基づいて主体的・戦略的に海外M&Aの検討・準備を行うことに十分な時間や人材等のリソースを投入している。(「M&A戦略ストーリーの構想力」)
「後」の段階では、買収完了で立ち止まることなく、海外企業の優れた部分を積極的に取り入れた上で、自社グループをグローバル規模での成長が可能な経営体制へ変革させていくことが重要である。(「グローバル経営力の強化」)
2 「9つの行動」のポイント
海外M&Aにおいては、経営トップが果たすべき役割が極めて大きい。海外M&Aを自社の成長に活用している企業の多くは、経営トップ自らが海外M&Aの本質を理解し、先手を打った主体的リーダーシップを発揮するとともに、プロセス全体を通して腰を据えてコミットしていく覚悟を持って取り組んでいる。そこで、報告書の内容から、特に経営トップ等が留意すべき点を抽出し事例とともに以下の9つの行動にとりまとめた。
【Pre-M&A】
行動1:「目指すべき姿」と実現ストーリーの明確化
はじめに具体的・明確な「成長戦略・ストーリー」はあるか。
- → 海外M&Aありきではなく、まず、中長期の時間軸の中で「目指すべき姿」を明確化する。
- → そこから逆算して「成長戦略・ストーリー」を策定し、これに沿って海外M&Aを(複数)有機的に関連づけて展開する。
【Pre-M&A】
行動2:「成長戦略・ストーリー」の共有・浸透
「成長戦略・ストーリー」を、経営トップが自ら語り、社内に浸透させているか。
- →「ストーリー」実現に向け、海外M&Aの目的を具体化。
- → プロジェクト・オーナーの責任と権限を明確化し、実行部隊が自分事として主体的に一貫して実施していく体制を構築。
【Pre-M&A】~【ディール実行】
行動3:入念な準備に「時間をかける」
ディールに着手する前から、買収企業を「誰が」「どう」経営するか、統合後まで見据えた入念な準備はできているか。
- → 平時から目的に合致する案件を能動的に探索し検討を行う。
- → 統合後の経営まで、時間軸も含めた具体的なイメージを持って、常に先手を打った周到な準備を行う。
【ディール実行】
行動4:買収ありきでない成長のための判断軸
買収プロセスの重要ポイントやリスク、その対処方策について、担当者やアドバイザー任せではなく、自ら掌握できているか。
- → 所期の海外M&Aの目的を見失わず、撤退条件を明確化。
- →「スケジュールありき」や「ディール成立の自己目的化」を回避する。
【ディール実行】~【PMI】
行動5:統合に向け買収成立から直ちに行動に着手
「ディールの成立」を「M&Aの成功」と混同していないか。
- → 統合により双方の強みを生かす成長を実現して初めて成功。経営トップの役割はむしろディール成立後に増大。
- → 統合プロセスは初動が重要。契約署名で安堵せず、その後の統合に向け、先手を打った行動に直ちに着手。
【PMI】
行動6:買収先の「見える化」の徹底(「任せて任さず」)
買収先の経営実態や異変をしっかり把握できているか。
- → 買収先の経営を放任しては、十分な統合効果を実現できず、危機への対処も後手に回る。
- → 買収先の経営の自主性を尊重しつつも、何が起きているのか常にモニタリングし、フォローできる体制を確保。
【PMI】
行動7:自社の強み・哲学を伝える努力
自社の強み・経営哲学は買収先に共有・浸透できているか。
- → 言語・文化の異なる相手に伝わるように、シンプル・明快なメッセージにまとめ、互いにリスペクトできる関係を構築。
- →「買う」「買われる」から同じ方向を向いた“We”へ「主語の転換」を図り、双方の強みを生かした成長を実現。
【Post-PMI(過去の検証と次への準備)】
行動8:海外M&Aによる自己変革とグローバル経営力強化
自社の経営・システム・人材はグローバルに通用するか。
- → 海外M&Aを契機に、グローバルに通用する経営に向け人材育成・社内ルールの見直し等、自己変革に取り組む。
- → グローバルな視点から自社の強み・弱みを把握し、買収した海外企業の優れたシステムや人材を積極的に取り入れる。
【Post-PMI(過去の検証と次への準備)】
行動9:過去の経験の蓄積により「海外M&A巧者」へ
過去の経験・苦労を次に生かす仕組みはできているか。
- → 失敗も含め過去の経験・苦労は最良の教科書。組織として率直に振り返り、教訓・ノウハウを経営トップ以下で共有する。
- → 自社なりの「型」を確立し、平時からの備えを持って次なる海外M&Aにつなげていく。
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経産省、「我が国企業による海外M&A研究会報告書」及び「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」をとりまとめました(3月27日)
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003.html -
○「我が国企業による海外M&A研究会」報告書
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003-1.pdf -
○「我が国企業による海外M&A研究会」報告書概要
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003-2.pdf -
○ 海外M&Aを経営に活用する9つの行動~海外M&Aを成長の駆動力とするために~
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003-3.pdf