◇SH2376◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(145)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑰ 岩倉秀雄(2019/03/05)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(145)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑰―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ(株)のコンプライアンス研修とコンプライアンス定着度評価アンケートについて述べた。

 コンプライアンス研修は、成立間もない組織文化の形成途上にある合併会社にとって、コンプライアンスに関する認識と情報の共有化を図る上で非常に重要な活動であり、可能な限り各場所に出向いて実施した。

 テーマは、組織の理念と行動規範、法的トピックへの対応、MEGホットラインの周知徹底、コンプライアンスアンケート結果や従業員特別相談窓口への相談から学ぶべき注意点等、であった。

 特に、顧問弁護士と共同で実施した現場研修は、普段接したことのない顧問弁護士が、コンプライアンスの重要性を説き、業務に関連する法的質問に直接回答したので、現場のコンプライアンス意識の向上に非常に役立った。

 なお、コンプライアンス定着度評価アンケート結果が芳しくない場所に対しては、現場に出向いて徹底的にコンプライアンス研修を行なった。

 また、グループ会社には、社長以下経営幹部に対する研修やDVDの貸出しを行い、自主的な研修活動を支援した。

 コンプライアンス定着度評価アンケートは、コンプライアンスの浸透・定着状況と課題を把握しリスクを削減するために、研修と並ぶ重要なツールである。

 アンケートの様式は無記名でコンプライアンス活動組織単位毎に実施したが、定型の質問以外に自由記入欄を設け、個人の特定はできないようにした上で、活動組織単位毎の回答結果を把握できるようにした。 

 アンケート結果は、比較・分析して、各活動組織のコンプライアンス責任者にフィードバックして改善を促すとともに、内部監査時に改善状況を確認・検証し、コンプライアンス委員会に報告した。

 今回は、「企業行動規範遵守宣誓」への署名、「ミルクコミュニティ行動指針浸透トレーニング」の実施等、について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑰:コンプラインス体制の構築と運営④】

1.「企業行動規範遵守宣誓」への署名

 「企業行動規範遵守宣誓」への署名は、中期経営計画で謳った「コンプライアンス意識の浸透・確立」の実現を推進するとともに内部統制の強化にも資する目的で、2006年度より毎年1回、社長以下全役員・従業員・出向・派遣している社員・受け入れ出向者が、会社の創立記念日である8月22日に実施した。(初回の2006年には10月20日に実施した。)

 署名者は、第1回目以降、筆者がコンプライアンス部長であった2009年まで、対象者の100%が署名した。

 なお、新規採用者には、企業理念・企業行動規範について説明した後、採用時に署名を求めた。

 文面は

  1.  「私は、日本ミルクコミュニティ株式会社の企業理念を理解し、企業行動規範(ミルクコミュニティ行動宣言とミルクコミュニティ行動指針)に基づいて行動することを宣誓します」

というもので、署名した宣誓書は職制を通して取りまとめ、一旦コンプライアンス部で集約した後、社長宛に提出した。(社長の署名は、監査役に提出した)

 

2.「ミルクコミュニティ行動指針浸透トレーニング」の実施

 2007年8月から、業務実態に即した「ミルクコミュニティ行動指針」の浸透・定着を図るために、職場単位で、偶数月に1回、「企業理念」と「ミルクコミュニティ行動指針」を唱和するとともに、「ミルクコミュニティ行動指針」に照らして業務上「やるべきこと」、「やってはいけないこと」を話し合う「ミルクコミュニティ行動指針浸透トレーニング」を全従業員(受け入れ出向者を含む社員、シニア社員、シニア契約社員、契約社員、パート社員、嘱託社員)で実施した。

 コンプライアンス責任者・副責任者(所属長クラス)は、各チームから「トレーニング記録」によりトレーニング結果の報告を受け、必要により修正・アドバイスを行なうとともに、記録を部署内で閲覧・共有化し、同じものをコンプライアンス部に報告した。

 コンプライアンス部は、その内容を確認し、他部署の参考となるものは事例紹介として各部署に(行動指針トレーニングニュースとして)発信した。

 この取組みは、他に実施している企業の少ない独自性の強い取組みで、実施当初は、現場からは戸惑いの声が上がったが、時間の経過とともに軌道に乗り、動指針の浸透に役立った。

 

3. その他

(1) 情報収集

 コンプライアンス違反をきっかけに設立された日本ミルクコミュニティ(株)だが、会社設立当時は、コンプライアンス部には、コンプライアンスや内部監査について詳しく知る者はいなかった。(法務については、雪印乳業時代から経営法友会に加盟していたが、法務担当は総務部に属した。)

 そこで、コンプライアンスについては㈳経営倫理実践研究センターに、内部監査については㈳日本内部監査協会に加入して情報収集に努めた。

(2) 個人情報保護法への対応

 個人情報保護法が、2005年4月1日より完全施行されたことを受けて、コンプライアンス部が事務局となり関係部署と共に同法に対応するワーキンググループを社内に立ち上げ、個人情報保護台帳を策定し所有する個人情報を把握するとともに、プライバシーポリシー・関連情報管理規定類(個人情報取扱規定類)を策定・整備した。

 また、教育マニュアルを策定し、教育・研修を通じて社内に周知徹底するとともに、内部監査により個人情報の取り扱い状況を確認・検証した。 

(3) 公益通報者保護法への対応

 2006年4月1日の公益通報者保護法の施行を受けて、従業員相談窓口の外部受付先をこれまでのセクハラ対応専門の会社から、業務に関わる全てのコンプライアンス相談に対応できる社外弁護士ホットラインに切り替え、相談受付先をグループ会社にも拡大した。

 相談対象範囲についても、役員・従業員(社員、契約社員、パート社員、嘱託社員)から、当社で働く派遣社員、請負業者の従業員、グループ会社の従業員に拡大した。

 また、仕組みを周知・徹底するために、連絡先を記したシールやカードを配布するとともに研修を行なった。

(つづく)

 

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