2023年度米国HSR(企業結合届出)報告書の発表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 臼 杵 善 治
米国弁護士⁑ 池 田 武 義
弁護士 本 郷 あずさ
1 HSR法の概要
2024年10月10日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)および米国司法省反トラスト局(以下「DOJ」という。)は、共同で、2023年度(2022年10月1日~2023年9月30日)の企業結合届出に関するデータをまとめたハート・スコット・ロディノ法年次報告書(以下「HSR報告書」という。)[1]を発表した。ハート・スコット・ロディノ法(以下「HSR法」という。)は、反競争的な企業結合を防止することを目的とし、FTCおよびDOJに対し、一定の届出基準[2]に該当する企業結合計画を事前に審査する権限を与えている。届出基準に該当する企業結合の当事会社は、取引のクロージング前に企業結合の内容をFTCおよびDOJに届け出る義務があり[3]、届出から通常30日の待機期間中はクロージングを行うことが禁じられている。届け出された案件は、(主に問題となる産業分野に応じて)FTCまたはDOJのいずれかが所管し、審査する。審査の結果、市場競争を阻害する懸念が払しょくできない場合、当局は資料の追加請求(セカンドリクエスト)を行ってさらに待機期間を延長することができる。さらに審査を進めた結論として懸念を認める場合には、当局は当事会社に対して競争阻害性を緩和する一定の措置を講じることを求めたり、予備的差止命令を求めて提訴したりするといったエンフォースメントを行うことができる。
2 HSR法に基づく企業結合届出の統計的情報
⑴ 2023年度の企業結合届出の傾向
HSR報告書によると、2023年度には1,805件の企業結合届出があり、3,000件以上という高い水準を記録した2021年度および2022年度を除いて、過去10年の水準を維持する件数となった。そのうち24.0%の案件は取引金額10億ドル以上の大型案件であり、こうした大型案件の割合は2019年の13.3%から毎年着実な増加を見せている。これを受けてHSR報告書は、より巨大で複雑な取引が増える傾向が継続していると述べている。
図1 企業結合届件数(2014年度から2023年度)
出典:「HSR報告書」[4](FTC・DOJ、2024年10月10日)1頁より抜粋。
図2 取引金額10億円以上の企業結合届出件数の割合(2014年度から2023年度)
出典:「HSR報告書」[5](FTC・DOJ、2024年10月10日)2頁より抜粋。
以下のグラフは、2023年度に届出のあった企業結合取引の件数について、対象会社の営む事業ごとに内訳を表示したものである。エネルギー・資源が2.7%増加(4.4%から7.1%に増加)し、情報技術が2.1%減少(8.7%から6.6%に減少)したほかは昨年度からの傾向から大きな変更はなく、消費財・サービス分野において最も活発に企業結合が行われ、建設、教育サービス、芸能、レクリエーション等からなるその他の分野が第2位となっている。
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(うすき・よしはる)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。
2003年慶應義塾大学法学部卒業。2006年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第一東京)。2015年University of London, LL.M. in Competition Law修了。
公正取引委員会による審査手続対応、海外当局による調査手続対応、国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポート、競争法コンプライアンスマニュアル作成・競争法コンプライアンストレーニング、流通取引規制に関するアドバイス、景品表示法対応等の多数の案件を取り扱っている。
(いけだ・たけよし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル。HSR申請、M&A、訴訟、民事・刑事調査に関する米国一般訴訟および反トラスト法案件において幅広く助言を行っており、その実績は米国で15年以上に及ぶ。州司法長官、連邦取引委員会、米国司法省による政府調査や審査におけるクライアントの代理も務めている。また、日本の公正取引委員会、韓国の公正取引委員会、欧州委員会など、国内外の反トラスト当局に対応する企業を支援した経験も有する。
(ほんごう・あずさ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2016年名古屋大学法学部卒業。2018年名古屋大学法科大学院卒業。2019年弁護士登録。2021年大阪弁護士会へ登録換え。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング
* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用
⁑ ワシントンD.C.およびカリフォルニア州弁護士(外国法事務弁護士未登録)