議決権電子行使プラットフォーム運営上の留意点(上)
株式会社ICJ カストディソリューション部
統括マネージャー 鬼 塚 卓
Ⅰ はじめに
旬刊商事法務誌面(鬼塚卓「議決権電子行使プラットフォームの運営実務」旬刊商事法務2321号(2023)(以下「商事法務論稿」という)33頁以下)において、議決権電子行使プラットフォーム(以下「PF」という)の通常のフローを紹介した。
国内外の機関投資家が電子的に直接指図を行うサービスがPFであるが、「書面」と「電子」の違い以上に、PFの仕様の下で情報の授受・生成・伝達をしている。商事法務論稿では、業務運用上の取扱いについてICJからの今までの説明よりもより詳細に説明しているが、本Web記事は、商事法務論稿で十分紙面を割くことができなかったPFの仕様を、PFにすでに参加している上場会社(以下「PF参加会社」という)だけでなく、すでにPFに参加されている管理信託銀行、常任代理人、機関投資家のほか、PFに参加をご検討されている方々に伝えることを目的とするものである。
Ⅱ PF運営上の実務・取扱いの留意点
1 ProxyEdgeの機能
まず、商事法務論稿では紙面の関係で十分説明できなかったProxyEdge(PFが主に国内機関投資家に提供する議決権行使指図環境(専用サイト)。商事法務論稿40頁)の機能に触れておきたい。なお、以下図表1~図表3の各画面は実際の画面ではなく、ProxyEdgeの機能の説明のためのイメージだと理解いただきたい。
機関投資家が使用するProxyEdgeの画面では、図表1のように、保有している銘柄に関して株主総会が一覧表示される。この画面は、株主名簿管理人や機関投資家が利用している管理信託銀行を問わず機関投資家が保有しているすべてのPF参加会社の株主総会について指図状況が示され、銘柄を選択すると指図票リストが示される。また、指図の失念がないように期日管理の機能がある。
図表2は、ProxyEdgeの指図票リストのイメージを示すものである。PFでは、指図の最小単位である銘柄ごと・口座ごとの保有株式について「指図票」と呼んでいる画面を用意している。指図票リストでは株主総会の銘柄単位で表示され、機関投資家が当該銘柄を保有する各口座を指図対象として表示している。複数の管理信託銀行を利用している機関投資家のニーズに応えられるよう、預託している管理信託銀行を問わずに一覧表示し、預託先は「カストディアン」欄で表示している。この画面で指図を行う対象口座を選択するが、個別に指図する対象口座を選択したり、表示されている口座をすべてまとめて指図することも可能である。
図表3では、指図票画面で具体的に株主総会の議案を指図するイメージを示す。議案の番号をシーケンスで表示する。図表3の例では、1号議案が「取締役2名選任の件」の表示を「1.1」「1.2」と2つの投票箇所に分けて表示している。指図票のすべての株数について同じ賛否で投票する場合は、議案ごとに賛成・反対・棄権にチェックするイメージであるが、保有する口座を上限に賛否の株数を表示することもできる。読者各位は図表3にある「指図しない(Take No Action)」という項目には奇異に感じるかもしれないが、賛成・反対・棄権以外であるため、いわゆる定足数に含まれず、指図行為ではない。ここにチェックがなされている指図票もしくは株数は、株主名簿管理人に届けられる際には、賛成・反対・棄権のいずれにも含まれない。主に一度送信した指図を取り消すこと等に利用されている。
このほかに機関投資家にて準備するアプリケーションにより、一括して指図する機能もある(図表4)。たとえば議案賛否判定データや議案推奨情報などを活用し、機関投資家があらかじめ個別の株主総会における各議案の指図情報をアプリケーション環境にて用意する。ProxyEdgeで複数の指図対象総会を選択し、保有口座の情報をProxyEdgからまとめてダウンロードして当該アプリケーションに投入する。対象口座すべてについてProxyEdgeの仕様に合わせた指図データを当該アプリケーションで一括作成し、ProxyEdgeにアップロードする。機関投資家側ではこのような外部ベンダーを活用した指図環境の運用が多くみられる。
ProxyEdgeにおける指図は株数ベースで行うが、株主名簿管理人に届けられる際は、PFにおいて当該口座が含まれる株主単位でまとめられ、議決権単位(議決権個数)の情報として調整される。機関投資家の指図は1日2度まとめられ、午前と午後に株主名簿管理人に議決権行使情報として届けられる。
ProxyEdgeによる指図の締切時刻は、PF参加会社が会社法に行使期限を設定した日の米国東部時間での23時である。これを日本時間に当てはめた時間が日本のユーザーの指図締切時刻であり、たとえば、2023年3月30日が総会日だとして、PF参加会社が行使期限を3月29日の17:00とした場合、米国のサマータイムの適用となるので、ProxyEdgeの指図期限は日本時間では3月29日の正午となる。商事法務論稿40頁図表9で示しているProxyEdge以外の指図環境と接続された場合は、各々の接続環境とブロードリッジとの間で設定された指図締切りが適用される。
2 臨時株主総会の日程
PF参加会社の裾野が拡大することにより、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会の取扱数も増えている。臨時株主総会がPFにおいて定時株主総会と最も異なる点は、スケジュールの短さである。
商事法務論稿で述べたように、各国内管理信託銀行や常任代理人からPFに提供された口座情報とPF参加会社から取得した株主総会情報は多くの処理工程を経てPFに登録される。発行会社は、定時株主総会に関しては招集手続と決算関係書類の確定作業を並走させる必要があり、招集通知の作成・発送までには最低でも基準日から45日程度の日程が自然と確保されているが、決算確定が必要ない臨時株主総会では必然的に招集通知の発送日程が大きく短縮されることになる。
口座情報の不一致の調整作業(リコンサイル工程。商事法務論稿37頁参照)等のためにあらかじめ修正日程を確保しておく必要がある。PFでは、基準日と招集通知の発送日との間には、暦にもよるもののおよそ暦日で少なくとも30日程度は必要であり、これを下回ると修正工程に必要となる十分な日程が確保できない可能性が生じる。結果的にPF利用総会として取り扱えない可能性があり、実際に取扱対象外となった臨時株主総会も過去にあったことからスケジュール調整の際に留意いただきたい。
(おにづか・たくみ)
株式会社ICJ カストディソリューション部統括マネージャー。
1987年大阪市立大学卒業、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。主に証券代行業務で、発行会社担当として株主総会・株式・新株予約権・組織再編・プロキシーファイト・コーポレートガバナンス等の実務コンサルティング等を行う。
2017年より現職。議決権電子行使プラットフォームの業務運営全般を統括。